教会を混乱に陥れ社会を危険にさらすネット時代の情報操作に対抗するには?

1月6日、米大統領選挙の結果を確定させる審議中の連邦議会をトランプ大統領の支持者らが襲撃した事件は、アメリカの民主主義の劣化を世界に印象付けた。襲撃した人々の中心にいた「Qアノン陰謀論」の信奉者たちが逮捕・起訴されたニュースからは、陰謀論が市民社会を脅かす危険性が浮き彫りとなった。https://www.bbc.com/japanese/55606934 さらに、トランプ大統領を武装して支持する過激な言動で注目されている統一協会の分派「サンクチュアリ協会」(正式名称:世界平和統一聖殿)も襲撃に関わっていたことが明らかになり、カルトと陰謀論の危険な癒着が改めてクローズアップされた。https://cult110.info/unification-church-touitsukyoukai/sanctuary-uc-usa20210111/

韓国、中国発祥のキリスト教異端・カルト宗教は陰謀論を唱えて信者に不安を煽り、敵を作って組織拡大をはかる傾向が強い。

「Qアノン」とはアメリカの極右が提唱する陰謀論で、インターネットを通じて急速に拡大しトランプ氏を熱狂的に支持する基盤の一つになったとされる。この陰謀論によると、世界規模の児童売春組織を運営する悪魔崇拝者・小児性愛者の秘密結社が米連邦政府を裏で牛耳っており、トランプ大統領はその秘密結社と戦っている英雄だという。もちろん根拠はどこにもない。トランプ氏は新型コロナウイルスの脅威を軽視し続けてきたが、陰謀論はコロナ禍に対しても根拠のない言説を撒き散らしており、宗教団体の中にもそれを真に受けて拡散する例がある。

インターコープ宣教会の崔パウロ氏「コロナはビル・ゲイツのプロジェクト」、「コロナワクチンでDNA組替え操作し全世界を奴隷にする計画がある」と陰謀論を連発

 

現代は様々な陰謀論が蔓延しているが、それらに共通する特徴の一つは物事の単純化であり、もう一つは何かを「敵」に仕立て上げて徹底的に攻撃することによって自らの立場を護ろうとする自己正当化だ。多くの異端・カルトあるいはカルト化に結びつく宗教運動がこの特徴を顕著に示している。例えばオウム真理教はヒンドゥーのシヴァ神を主神とし、仏教の無常観に即して輪廻転生を説いたが、仏教界からは異端として相手にされなかった。仏教の教説を歪めたからというだけではなく、「ユダヤ=フリーメイソン陰謀説」や、「東欧動乱は、1986年のハレー彗星の影響であり、1990年のオースチン彗星の接近によって何かが起こる」とか、「ハルマゲドンが起こる。オウムにいないと助からない」など、仏教に限らず利用できるものはなんでも利用する荒唐無稽さが要因だ。

オウム真理教の宗教実践はグル(麻原彰晃)に従い修行で解脱することを目指すスタイルが確立していったが、その一方で、疑問を呈したり反対したりする者は彼らの説く救済を妨害する「敵」と見なして暴力を振るい、挙げ句の果てに死に至らしめると「ポア」という身勝手な理屈で、積極的に死をもたらすことによってより高位の世界へ意識を移し替え転生させる救済だとして殺人を自己正当化していった。それがさらにエスカレートし、自分たちは国や警察から弾圧されていると信者たちに教え込み、国家転覆計画→サリン散布テロ事件へと暴走をエスカレートさせていった。その原動力となったのが、まさに単純化と敵視に基づく自己正当化のための陰謀論である。

今日、同様の単純化と敵視による陰謀論を唱える宗教団体は、いわゆる「キリスト教異端」と言われるカルトにも増殖している。前記のサンクチュアリ協会インターコープ宣教会の動きなどに顕著に現れている。

中国発祥のカルト集団全能神教会は世界を統治するサタン(中国政府)が各国にスパイを派遣しクリスチャンを監視していると主張。壮大なストーリーを描いた映画をYouTube配信している。彼らも米国を理想郷と宣言し、トランプ氏に依存している。

いわゆる統一協会分派とされる複数のグループもQアノンのような思想に傾倒し過激な発言を内部で広めている。「オバマ(米前大統領)とヒラリーを殺さなければならない」、「カトリックとイスラムを殺すべき」と過激な発言をし、トランプ氏こそ世界のリーダーだと主張していた。これは本紙が2019年12月に独自に入手した某宗教団体の内部音声から確認したものだ。彼らが定める敵は2つ。「共産主義」と「教祖を批判する人物」だ。

コロナ拡散事件を起こした新天地は教祖が「コロナはサタン」と信者に教えていた。韓国政府による新天地潰しの戦略だと陰謀論で組織を守ろうとした。SOSTVは極端な終末論をYouTubeチャンネルから発信。9.11テロ事件などを米国の自作自演だと主張した。第三次世界大戦についても断定的な預言を始めている。全能神教会の宣伝によるとサタンの化身である中国政府による最終戦争でクリスチャン(全能神の信者)が投獄されると主張している。

日本人の教祖が率いる摂理(キリスト教福音宣教会)を模した某バーチャル宗教もSNSで陰謀論を配信。内容は稚拙で誹謗中傷としか言い様がないものだ。しかし、この陰謀論は決して侮れないことがわかる。信じた人は伝書鳩のように見ず知らずの相手にネットを介して広めていく。伝染していくのだ。

そしてこの陰謀論を信じて影響を受ける人々は、当該のカルト団体のメンバーだけにとどまらない。その情報をネット上に氾濫させることにより、普通のキリスト者や牧師の中にもそれを信じ込む人が現れ、異端やカルトを警戒するのではなく、その異端・カルトに警鐘を鳴らすキリスト者やキリスト教メディアを、警鐘を鳴らされた団体の当事者と一緒になって敵視するという、ねじれ現象も起きている。

なぜ、そのようなねじれが起きるのか? 要因はいくつか考えられる。一つは、カルト側の巧妙なメディア戦略がある。メディアや異端・カルト問題の専門家から批判を受けると、それに応えるのではなく、逆にそのメディアの記者・編集者が反キリスト教的な思想に関わっているとか、妬んで妨害しているとか、その専門家自身が異端的な信仰で所属教派から追放された、などという偽情報を流す。韓国では、いかにも某主要教団の発行している新聞や異端問題の専門書と見せかけて、異端を擁護する言論を流布する偽メディアまで横行している。そして、それらのフェイクニュースをネット上に引用するなどして大量に氾濫させるのである。この戦略に、情報を主としてネット検索で入手する層の牧師や信徒が惑わされるという現象が起きている。彼らは「自分で調べて確認した」と思い込んでいるが、実はその情報はネットでヒットするように巧妙に仕組まれたものなのだ。ネット民たちは、そうして自分が得た情報をあたかも「事実はこうだ」と判明したかのように思い込み、フェイスブックやツイッターに書き込む。それらSNS上では、自分が欲しいと思っている情報、こうに違いないと感じているのと似た情報を集める傾向があるので、ますます「やはりあの団体を批判している人たちの方が間違っている。批判された団体はむしろ被害者ではないか」と思い込んでしまうのだ。

もう一つは、年代層の高い牧師たちである。この層の中には、情報の裏を取ることに対して疎い人たちが存在する。この種の人々は情報が正しいかどうかの信ぴょう性を、それが伝聞なのか客観的な根拠があるのかにまでさかのぼって確認しようとしない。それが誰から聞いたことなのかだけで「●●先生が言われるから間違いない」と思い込む。そして頼まれればその組織の役員に名前を連ねることまでしてしまう。その組織の実態について何も知らないにもかかわらずそれらの教界人士の名前が役員や顧問として載っていれば容易に信用されてしまうのが、この国のキリスト教界の脆弱さである。彼らもまた、意図的に仕組まれた情報に操られ、その組織の異端性・カルト性に警鐘を鳴らすメディアや専門家がいても耳を貸そうとはせず、指導的な立場の●●先生の言うことを無批判に受け売りして太鼓判を押す。そうして年代層の高い教会指導者たちの間にも、異端・カルトの流す陰謀論・正当化をそうとは知らずに信じ込んで異端を擁護する人々や、楽観視し手をこまねいて傍観する人々が増殖していく。この層は教団や超教派運動の指導者でもあったりするので、教団・教会やキリスト教団体が異端・カルトに侵食され利用される破れ口を開いてしまうことになる。さらに、それら年配の教会指導者に後輩牧師たちは率直に意見が言えない風土が少なからぬ教団・教派に巣食っているので、危険だと気づいていながら誰も止めることができず教団や教会の中に混乱を招いた、などという事例も起きている。

どちらも、情報は伝聞だけで安易に信用せずできるだけ発信源のソースにまでさかのぼり、客観的事実によって自分の責任で確認するというメディアリテラシー(https://cult110.info/category/media-literacy/)の基本を踏まえさえすれれば防げる被害である。