「トランプ大統領のために死ぬ準備ができている」

旧統一協会の創設者、故文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の七男「文亨進」(ムン・ヒョンジン)氏の過激な発言がエスカレートしている。11月12日配信の専門チャンネルRod of Iron Kingdomで聖戦を呼びかけるような攻撃的な発言を繰り返したことを、アメリカの宗教問題を扱うオンラインマガジンReligion Unplugged(2020年11月13日号)が大きく取上げた。

ムン・ヒョンジン氏とはどのような人物なのか。文鮮明氏と妻・韓鶴子(ハン・ハクジャ)氏の実子で文鮮明氏から宗教部門の後継者として有力視されていた人物だった。しかし、2012年9月3日、92歳で文鮮明氏が死去すると統一協会内はすぐに権力闘争に発展した。韓鶴子氏が実権を握ろうと実の息子で七男のヒョンジン氏を教団から追放した。鶴子氏は夫であり、最高指導者であるはずの文鮮明氏のメシア性を否定し「原罪があった」と批判、また文鮮明氏のせいで「天の母(鶴子氏)」の権威が蔑(ないがし)ろにされてきたと語り、自分が事実上の二代目再臨のメシアだと宣言した。

一方でヒョンジン氏は、「2008年に父(文鮮明)から王権を委譲された」と主張し、新国家建設を掲げる宗教団体「世界平和統一聖殿」(サンクチュアリ協会)を創設。韓鶴子氏の率いる統一協会を激しく批判する姿勢を一歩も崩していない。現在も双方は応酬を続けている。

厳しい表情で戦いを呼びかけた文亨進氏(画像:Rod of Iron Kingdom)

ヒョンジン氏は信者たちからショーン牧師(パスタ-・ショーン)と呼ばれ、米国を拠点に活動を続けている。統一協会の原理講論を経典としながら政治的思想が極めて強いのが特徴だ。ヒョンジン氏は特に共産主義、社会主義をサタン(敵)と見なし、アメリカの保守的な政治グループに深くコミットしながら支持を得ている。

メディア出演を気軽に引き受ける姿に惹かれ、彼を「王様」と慕うアメリカ人信者も少なくない。この温厚というイメージと裏腹に銃武装化を肯定するグループでもある。ヒョンジン氏は銃弾で装飾された王冠をかぶり、信者らもライフルを手に礼拝やイベントに出席する姿は有名だ。これだけでも異様な雰囲気といえる。実弾訓練も余念がなく平和軍警察という独自の部門をもつ。「霊的な戦いに備え武装化する」ことを繰り返し強調してきた。ここでは統一協会同様にカップリングによる合同結婚式も行われている。

サンクチュアリ協会(米)で行われた合同結婚式(聖酒式)の様子。参加した信者は銃を携帯している(画像:教会と信仰)

13日付けのReligion Unpluggedによると「保守的な政治団体と関わるサンクチュアリ協会はヒョンジン氏が先頭をきって米トランプ大統領を過激なまでに支持している」と指摘。大統領選で勝利したジョー・バイデン次期大統領を「共産化させるサタン」と名指しで批判し、落選させるための徹底抗戦を説教で呼びかけている。

11月12日配信のライブメッセージでは食口(シック=信者の呼び名)に向け、まるで聖戦を呼びかけるような発言を繰り返した。ヒョンジン氏は終始興奮した様子で声を荒げた。「我々はドナルド・トランプ大統領のために武器を手に取り死ぬ覚悟で挑まなければならない」、「このままではくだらない世の中になる。信じがたい全体主義国家になるだろう。このままでは君たちは死ぬかもしれない」と語りかけた。バイデン次期大統領を支持する勢力を「バカ者、まぬけ」と批判した。メッセージの中盤に差しかかると発言はさらに過激になった。机を叩き大声で「トランプ大統領が再選するよう立ち向かうことが義務だ」と述べた。「立ち向かえ」「正しいことをする」と繰り返したが、それが何を意味するのかには言及しなかった。しかし「バイデン陣営と激しい衝突に備えるべきだ」と述べ、「妨害する地元警察と銃撃戦になるだろう。(中略)神が用意した最後の救いであるトランプ大統領を守り、大義名分のために死ぬ覚悟はできている」と語った。

ヒョンジン氏はため息をつきながら「我々の死にざまを見ることで自分の妻や子どもたちが正しさを知る」とも述べた。これは霊的な神の戦いだと呼びかけた。

韓国の異端情報専門誌「教会と信仰」でも文鮮明氏の七男ヒョンジン氏の政治的思想に警戒する記事を掲載してきた。特に左翼に対する敵意は尋常ではない。彼は中国共産党をサタンと名指しで批判し、中国人の世界侵略と戦うためにトランプ大統領を全面的に支持していると説明した。これはQアノンなどが吹聴する陰謀論だ。情勢を右か左かで決め付け、扇動するように人々に否定的な情報を拡散させる。カルト宗教がよく用いる情報操作の一つだ。統一協会とその分派は共産主義批判を行い、自分たちに反対する勢力を「赤化」などと決め付けて攻撃する傾向がある。サンクチュアリ協会も同様の手法で敵味方を区別している。

メッセージの最後に彼はこう呼びかけた。「君たちは死ぬことが怖いのか?死後の世界を信じていないのか?」。この戦いで死ねばサンクチュアリ協会の信者への手本になるとまで述べた。

統一協会全体を批判するサンクチュアリ協会

サンクチュアリ協会は現統一協会のいかなる活動とも関わりを否定している。文鮮明氏が死去した2012年9月3日午前1時54分以降、聖地である韓国の清平(チョンピョン)は聖地としての役割を終え、すべての機能は停止したと主張する。彼らは統一協会という教団に関わらなくても文鮮明という自称再臨のメシアと1対1で会うことができると説く。それがサンクチュアリ協会だというのだ。

信者には統一協会に加担したり、献金したりすることを固く禁じている。日本国内では東京都文京区の某ビルに本部を構えるが一般にはまったく知られていない。およそ90の支部教会をもつといわれるが正確な所在地は不明だ。信者の自宅などを開放して集会を行なっている模様だ。このような理由から日本サンクチュアリ協会は地下組織的な存在だといえる。迷彩柄のミリタリーグッズを愛好する信者が多く、本部周辺でも確認されたことがある。群馬県某所で軍事訓練に励んでいるという情報もある。

悲劇的な人権侵害を繰り返す統一協会は、韓鶴子氏が実権を握りますます権力誇示に迷走している。分派のサンクチュアリ協会も「平和」という看板を掲げながら銃で身を守り、指導者自ら戦いを呼びかけた。この動きを十分に警戒する必要があるだろう。