11月には聖戦を呼びかけたばかり、銃武装集団の活動は日本国内でも警戒が高まる。陰謀論に惑わされる人々

6日、米議会前は大勢のトランプ大統領支持者で溢れかえっていた。アメリカの国旗やトランプ支持を訴えるプラカードを掲げる人たちは大声を上げながら議会に迫った。米大統領選挙の結果を確定させる審議中の連邦議会をトランプ大統領の支持者らが襲撃した事件は、アメリカの民主主義の脆(もろ)さを世界に見せつけてしまった。

6日、米議会前で行なわれたトランプ氏を支持する集会。一部が暴徒と化し警官隊と衝突して死者が出た。サンクチュアリ協会のトップ文亨進氏と信者らも参加していた(サンクチュアリ協会YouTubeチャンネルRod of Iron Kingdom)

ニュースなどの映像からもアメリカの国旗と共に韓国の国旗を振る集団を確認することができた。韓国の国旗を掲げたのは旧・統一協会(正式名称=天の父母様聖会・世界平和統一家庭連合)の分派サンクチュアリ協会(正式名称=世界平和統一聖殿)の信者たちだ。実際にカメラが寄ると関係者と思われる人物の姿が確認できた。その後、専門チャンネル「Rod of Iron Kingdom」(1月7日配信)で教祖・文亨進(ムンヒョンジン)氏が興奮状態に陥る会場の様子をレポートする動画が配信された。サンクチュアリ協会が暴動に加わったことが明らかになった。

催涙ガスが放たれ、参加者が苦しそうにむせる様子も。亨進氏の背後には妻のヨナ氏と思われる姿も確認できた。実際に武装していたかは不明だが、11月にトランプ氏を強行再選させるために戦うよう「聖戦」を呼びかけた矢先だけにこの宗教団体の攻撃的な一面が一層浮き彫りとなった。https://cult110.info/unification-church-touitsukyoukai/sanctuary-20201207/

サンクチュアリ協会は旧・統一協会の創始者である故・文鮮明(ムンソンミョン)氏と妻、韓鶴子(ハンハクジャ)氏の七男・文亨進(ムンヒョンジン)氏が2008年に立ち上げた宗教団体だ。自称再臨のメシア文鮮明氏から王権を委譲されたと主張。統一協会の経典「原理講論」を教理として自身を王様と呼び、地上天国の完成を目指す。日本でも信者は多くいるものと思われ、文鮮明死去後、混乱と分裂を起こした統一協会から亨進氏に鞍替えする信者も少なくなかった。

日本支部の本部は東京都文京区にある。看板などを掲げないいわば地下教会として活動する。一般にはまったく知られていない。代表は江利川安榮氏が務めている。江利川氏は過去に統一協会の日本会長を務めた経歴があるが統一協会の混乱と分裂劇に嫌気がさして離脱、七男のサンクチュアリ協会に転身したと言われている。

サンクチュアリ協会は亨進氏の母親である統一協会の総裁・韓鶴子(ハンハクジャ)氏に実質上の権力を奪われたことで文亨進氏は強く反発。その後、対立へ発展し追放された。そこから誕生したという経緯がある。

2020年12月12日、トランプラリーと称する応援活動で米議会前に集結したサンクチュアリ信者と文亨進氏ら(サンクチュアリ協会YouTubeチャンネルRod of Iron Kingdom)

亨進氏は、サンクチュアリ協会を立ち上げると米国ペンシルベニア州を拠点に宗教活動を始めた。世界平和と宗教統一を掲げる一方で聖書の終末思想に独自の強いこだわりを持ち続けた。世の終わりには、悪の勢力と神の勢力が激しく衝突することを説いてきたが、自らが王となり、共産主義という悪と戦争すべきだと主張することが増えた。米国のドナルド・トランプ氏(現大統領)を強く支持し、トランプ氏を「霊的な指導者」、「最後の砦(とりで)」などと称賛。最近は聖人化するような扱いまで見せ始めている。

昨年、11月12日配信の専門チャンネルでは、トランプ氏を武力で強行的に再選させ、ジョー・バイデン氏を打倒するよう信者や親和性の強い政治団体に呼びかけた。アメリカの宗教問題を扱うオンラインマガジンReligion Unplugged(2020年11月13日号)が大きく取上げた。アメリカでパスタ-・ショーンと呼ばれる亨進氏は銃武装して警官隊と戦い、殉教することについても肯定的な発言を繰り返した。いわゆる聖戦を呼びかけたことになる。サンクチュアリ協会は米国で合法的に銃を所持しており、組織的に信者らへ銃の携帯を勧めている。日本支部の公式サイトでもミリタリー調のグッズが通販で購入できるほどだ。「銃によって自由を得られる」と信じている。

サンクチュアリと対立する統一協会もアメリカ第一主義をステイタスとし、共産主義との対立を明確にしている。やはりトランプ氏支持という立場だ。1月7日の世界日報(統一協会発行の新聞・日本支社)も「選挙の不正を許すな!」と題して6日に都内で行なわれた「トランプ大統領を支持するデモ行進」(主催=トランプ・サポーター・イン・ジャパン)の記事を掲載した。昨年の12月24日、クリスマスイブには首相官邸前で「クリスマス・フォー・トランプ」という応援集会が行なわれた。主催したのは「トランプ大統領を支援する会」。手にLEDキャンドルを持った参加者はトランプ氏を「平和の戦士」などと叫びながら声援を送った。この主催団体は事実上、サンクチュアリ協会の信者らで構成されている。他にも国内の宗教団体や政治団体が同様の立場でイベントやデモを行なった。

なぜ、ここまでトランプ氏を支持するのだろうか。

3つの理由が考えられる。1つは強い者、強い意見に波長を合わせることで自分たちの立場を守ることができること。特に暴力的な言動を肯定するグループにとってトランプ氏の政策は利用価値が高いからだ。2つ目は、反共的な思想にある。特に韓国系異端・カルト宗教は統一協会の分派やその影響を受けて成長したものが多い。常に「敵」を作ることで教祖とその組織を守ろうとしてきた。「敵」(サタン=共産主義)と「神」(自分たち)に分け信者を統制しているのだ。今回のケースは共産主義がサタンでトランプ氏が神側という理屈のようだ。3つ目は生存権の補償だ。経済的な利害も彼らのうま味だろう。こうした宗教的な思惑と共に人々の不満や歪んだ正義感、差別問題など「負のスパイラル」が攻撃的な思想や政治の集団を勢いづけている。何を訴えようと、支持しようと、そこに自由がなければならない。しかしサンクチュアリ協会は神と人間文鮮明氏と亨進氏の名のもと武装し、その戦いのタイミングを本当に計画しているように見える。暴力で自分たちの理想を実現するならそれは正しい行動とは言えない。

信者たちの血のにじむような献金努力で巨万の富を得た統一協会は、真(まこと)の家庭、平和を掲げ続ける。しかし、自称再臨のメシア故・文鮮明氏の家族は権力闘争と複雑な親子関係で既に崩壊した。親子関係は傷つき、今も激しく対立している。そして仕える信者たちが被った様々な金銭トラブル。教祖のために違法行為にも手を出した霊感商法事件。キリスト教とは似ても似つかない集団と化してしまった。

2020年11月25日YouTubeチャンネルで亨進氏は陰謀論を並び立てて米次期大統領バイデン氏を激しく誹謗した。字幕は協会側が作成したもの(サンクチュアリ協会YouTubeチャンネルRod of Iron Kingdom)

亨進氏は2020年11月25日のYouTubeチャンネルで「自由を得るために必要だ」と語りながら純金製だというライフルを何度もなでた。また「バイデン氏が大統領になれば世界的に有名な協会は国際テロ組織に認定されるだろう」と陰謀論で煽り立てた。「左派野郎達がウリ(我々)食口(信者の呼び名)をみんな捕まえて、監獄に入るようになるだろう。何、強制収容所に入るようになるだろう」と主張した。信者に不安を与え、教会外に敵を作ることで生存をかける戦略のようにみえる。彼が世界を統治する王として神と自称再臨のメシア文鮮明から使命を受けているならなぜこんなに弱腰なのか。そもそも聖書の教えと似てもつかない理論だ。

個人誹謗、攻撃は立派な人権侵害であり、ときに「カルト」と社会的批判を受ける結果を招く。

「私こそ本当の後継者だ」と宣言する七男・亨進氏を尻目に「私が本当の再臨のメシアだった」と夫のメシア性を否定して統一協会のトップに君臨した母・鶴子氏。この悲劇的な対立と憎しみの産物が、今のサンクチュアリ協会の姿ではないだろうか。陰謀論では何も生まれない。そして何も人を幸せにできない。常に誰かが仮想の敵だからだ。武装し、暴力行為を肯定する、こんなサンクチュアリ協会は日本の捜査機関からも動向が警戒されているという。十分な注意が必要だ。