クリスチャントゥデイ、クリスチャンポストなど世界各地でキリスト教メディアを運営し、教会や伝道団体、企業も展開しているダビデ張こと張在亨(ジャン・ジェヒョン)氏が「キリスト教大学」として創立し、全米各地にキャンパスを持つオリベット大学が、教育規制当局の調査に対して不誠実な回答を繰り返し、大学認定機関「聖書高等教育協会(ABHE)」から最後通牒を突きつけられていると12月1日、ニューズウィークが報じた。
オリベット大学は、3500万ドルに及ぶ巨額詐欺・マネーロンダリング事件で、IBT(International Business Times)、CMCI(Christian Media Corporation International)など張氏が支配する共同体の他の部門の関係者らとともに起訴され、2020年4月ニューヨーク州最高裁で罰金刑の有罪判決が確定した。
その後も、留学生の入国ビザ詐欺・奴隷労働などの疑いで連邦捜査当局の捜査は続き、今年7月にはニューヨーク州教育局が、オリベット大学に対し「マネーロンダリング犯罪の体制は変わっていない」としてドーバーキャンパスの閉鎖(認可取消)を決定。カリフォルニアなど他の州の同大キャンパスでも調査が進められていた。
これを受けて8月、全米福音同盟(NAE)はオリベット大学の会員資格を一時停止し、聖書高等教育協会(ABHE)も何らかの措置を検討している、と伝えられていた。
ニューズウィークによると、ニューヨークとカリフォルニアの教育規制当局は、学生の在籍データを求めてもオリベット大学からまともな回答は得られなかったという。同大学に勤務していたある上級研究員によれば、(報告された)数字は操作されたもので、教育プログラムとは何の関係もない。この上級研究員の説明、ニューズウィーク誌が調査した文書、そして何人かの元学生たちの証言は、オリベット大学が教育機関としてどの程度機能しているのかについて疑問を投げかけている。
オリベット大学は現在、規制当局が圧力を強めているため、少なくとも10の州と地域で監視下に置かれたり閉鎖されたりしているという。規制当局は、無認可のキャンパス、不完全な情報開示、不安定な財務状況、犯罪者とのつながりの可能性、一見するとありえない入学者数など非難されている点について、同大学に回答を求めている。
また、キリスト教大学の認定機関「聖書高等教育協会(ABHE)」が介入することを決定し、「認定機関、認可機関、統治機関などのコンプライアンスに関する誠実でオープンなコミュニケーション、すべての財務事項における誠実さ、適用される法的および政府規制の遵守」を示すよう、大学に最後通牒を突きつけている。
ABHEは、11月9日にオリベット大学のマティアス・ゲブハルト学長に宛てた書簡で、来年の第1四半期までの、春に規制当局が大学を訪れる前に、これらの分野の改善を示す報告書を作成するように指示した、とニューズウィークは報じた。
「オリベット大学は、学生のデータも資格も一切改ざんしていない」と、同大学はニューズウィークに声明を発表している。「各州機関や認定機関は、報告に関する独自の要件や定義を持っており、我々はそれを厳密に守り、可能かつ必要な限り、これらの規則の使用に関する疑問を彼らの事務所と明確にする」とオリベットは述べているという。
大学側は入学者数に関するニューズウィークの回答要求に応じず、ニュースルームによる大学に関する報道は、出版社のCEOであるデヴ・プラガド氏がビジネスパートナーのジョナサン・デイビス氏を追い出すために行使している武器である、との主張を繰り返したという。オリベットの元メンバーであるプラガド氏はニューズウィークの半分を所有し、残りの半分は張氏の信奉者であるデイビス氏が所有している。ニューズウィーク社はこの疑惑を否定している。
オリベットに勤務し、ニューヨーク州での認証評価に対するゲブハルト学長の努力に詳しいある上級研究員は、ABHEからの最後通牒が変化をもたらすとは楽観視していなかった。この大学では、特に中国から何百人もの留学生を米国に受け入れながら、正式なプロセスを「ひどく無視し軽視して」運営していたと、ニューズウィークの取材に応じたこの学者は、張氏の弟子たちによる報復を恐れて匿名を条件に語った。
留学生に関する疑問
昨年4月、国土安全保障省の捜査官がカリフォルニア州アンザにあるオリベット大学のキャンパスを捜索し、ビザ詐欺、労働者売買、マネーロンダリングの証拠を捜したのは、留学生に関する疑問からであった。ある留学生のグループは、オリベットに人身売買されたと訴えた。また、ノースカロライナ州の偽造品事件で起訴され、保釈されて中国に逃亡した元留学生もいた。
このような学生の存在は、学問的なプログラムとはほとんど関係がない、と学者は言う。オリベット大学のトップの地位を占めている張氏の高弟たちは、認定要件に合うように「数字をごまかし」、しばしば重複し矛盾する記録を作成したと上級研究員は語った、とニューズウィークは報じている。
「神学修士課程を履修している大学院生が、魔法のように二重専攻になり、MBAも取得するのです」と、この上級研究員は、2021年4月にオリベット大学がニューヨーク州認可を維持するために戦った際に行った記録の改ざんのいくつかを説明したという。「その人が今まで履修していたはずの科目が埋め戻される。そういうことは常に起きていて、もちろんこれは本当に詐欺的なことです。」
張氏に近いオリベット大学の学者スロジット・チャタジー氏がニューズウィークに語ったところによると、彼はその後、認定プロセスから手を引いたという。他の電子メッセージによると、この学者は6月にニューヨーク州が運営を停止したときに立ち会っていたようだ。この@OlivetUが投稿したツイートには、同大学の卒業生が写っている。
この学者の証言は、オリベット教団の元メンバーらの証言と一致している。3人がニューズウィークの記者に、必要な履修をしなかったと言い、オリベットの学位証を見せた。神学の学士号を取得して卒業したある学生は、1学期に4つのオンラインコースを取ることを要求されたという。彼女はそのうちの1つを受講したが、他の科目についても成績を受け取った。「残りはすべて偽物でした。成績は全部ウソ。」元学生は、オリベットの従業員になり、守秘義務契約にサインしたため、匿名を条件にニューズウィークに語った。
ニューズウィークは、この学生の学位記録に署名があるオリベット神学校・大学の前学長、ウィリアム・ワグナー博士に、彼のウェブサイトと電子メールを通じてコメントを求めた。ワグナー氏は現在、同神学校のグローバル戦略研究オリベット研究所長で、サラ・ラフルール氏が学長である。ラフルール氏にもメールで連絡を取ったが、どちらもコメントの求めに返答はなかった。
ニューヨーク州教育委員会のウィリアム・P・マーフィー副委員長は、6月30日にオリベット大学のニューヨーク州での事業を閉鎖する際、「法律、規則、規制を遵守しない」というパターンを挙げ、「記録から、遵守を強いられたときだけ遵守するという大きなパターンがあることがわかる」と書いているという。
ニューズウィークが情報公開請求によって入手し調べた、マーフィー氏の部局とオリベット大学との間のニューヨーク州公文書によると、同大学はフルタイムとパートタイムの学生数61.666667人と報告した。翌年も同じ61.666667人と答えたが、書式はフルタイム学生の数だけを要求している。
ニューヨークの教育当局が、年度末の留年者数が入学者数より多いことを指摘するやりとりもある。“NY Enrollment “タブに表示される新入生の留年者数は、同タブに表示される新入生数を上回っている」と、同局は記している。「留年した新入生は、新入生の一部を構成しているのだが。」
マーフィー氏と彼のチームが2年間かけてニューヨークのオリベット大学の記録を調べ始めたとき、メインキャンパスであるアンザ校を認可しているカリフォルニア州の規制当局からも非難を浴びていた。ニューズウィーク誌が情報公開請求で入手したカリフォルニア州私立高等教育局(BPPE)の文書によると、ここでも学生データが紛争の中心で、カリフォルニア州当局はデータの不備を懸念して「抜き打ちコンプライアンス検査」を実施したとのことだ。
BPPEが2019年にオリベット大学に送った遵守のための通知書に、「データは不完全で、必要なデータポイントをすべて含んでいなかった」と書いてある。通知には、データには学生の識別番号、電子メールアドレス、自宅の住所、署名された日付の入学契約書、財務情報が含まれていないと記されていた。
カリフォルニア州の場合
カリフォルニア州は、ニューヨーク州のようにオリベット大学を閉鎖する代わりに罰金を科し、報告書の提示から、ニューヨーク州で発覚したのと同様に、修了率と就職率の不可解な不一致まで、あらゆる規制を遵守するよう要求した。オリベット大学は結局、罰金を支払った。2020年1月に命じられた罰金は、マンハッタン地方検察が起訴したマネーロンダリング犯罪事件が収束したのと同じ時期だった。オリベット大学はこの事件で、ダビデ張の弟子や彼らが経営する会社の幹部数人とともに重罪を認めている。
オリベット大学のウェブサイトによると、2000年までさかのぼる歴史の中で、同大学は法的、財政的な問題に悩まされてきた。この年は張氏が、後にオリベット大学として法人化されたオリベット神学校を設立した年である。オリベット・アッセンブリーUSAとオリベット・アッセンブリー・ヨーロッパは、いずれも神学校の卒業生が設立した教会の連合体として2000年に始まったという。
デイビス氏とプラガド氏は、マンハッタン検察による張氏の信奉者に対する長期にわたる捜査が公になった後、2018年にニューズウィークの共同所有者となった。有罪を認めた被告の中には、当時ニューズウィークの親会社だったIBTメディアも含まれており、起訴が発表される直前に同誌をプラガド氏とデイビス氏が所有する会社に分離した。
オリベット大学は、2020年の重罪の有罪判決後も存続した。ABHEは認定を取り消す代わりに、オリベット大学を保護観察処分にした。6月にニューヨーク州がオリベット大学の事業を停止することを決定し、ノースカロライナ州の裁判では中国へ逃亡中のオリベット大卒業生を偽造品売買の陰謀と関連付け、2021年4月にカリフォルニア州で連邦捜査はオリベット大学のキャンパスで監禁されているという女子学生からの911コール(訳注:日本の110番通報に相当)に従ったとする今年のニューズウィークの報道など、新たに法的問題の証拠が増えているにもかかわらず、同大学は昨年、優良校に回復している。カリフォルニア州消費者庁の広報担当者であるモニカ・ヴァーガス氏は、ニューズウィークの取材に対し、最近のABHEの措置は承知していると語った。「認定」という手段で承認された教育機関が認定を失えば、その後、当局から与えられた運営承認も失われることになる」と語った。
150以上の聖書系高等教育機関のネットワークで構成され、63,000人以上の学生が在籍するABHEは、オリベット大学と長い間密接な関係を保ってきた。今年2月に行われた75周年記念年次総会では、ダビデ張氏の大学が「最高スポンサー」を務め、マンハッタン検察によって発覚した犯罪行為の期間中、オリベットの最高執行責任者だった張氏の弟子、ウォーカー・ツェン氏は、大学が保護観察下に置かれた後もABHEの理事を務めていた。ツェン氏はニューズウィークのコメント要請に応じなかった。コメントを求められたABHEは、オリベット大学に送った書簡と、7月7日にニューズウィークに送った電子メールで、オリベット大学周辺の報道を留意しているとした。
ABHEとは異なり、ニューヨーク州の大学閉鎖決定や国土安全保障省を巻き込んだ連邦政府の調査報道を受けて、全米の教育当局はオリベット大学に対して我慢の限界に達しているようだ。ニューズウィーク誌の記者は、オリベット大学がABHEに「学外拠点」として承認されたものを運営している州において、次のような動きがあることを明らかにした。
イリノイ州の場合
オリベット大学とABHEは、シカゴの施設をダビデ張氏の大学のサテライト・キャンパスとしてウェブサイトに掲載していた。イリノイ州高等教育委員会はニューズウィークに対し、オリベット大学が州内で運営するための申請書を完成させたことはないと述べた。「オリベット大学はイリノイ州で運営する権限を持たず、また求めてもいない」と、ホセ・ガルシア広報担当はニューズウィークに語った。同省はその後、オリベットにイリノイ州をサテライトキャンパスとして宣伝するのをやめるよう指示し、オリベット大学はシカゴの施設をウェブサイトから削除したことを確認した。
ワシントンDCの場合
ワシントンDC高等教育認可委員会はニューズウィークに対し、オリベット大学がニューヨーク州でのキャンパス閉鎖の決定をコロンビア特別区当局に知らせるという憲章上の義務を果たさなかったと述べた。数か月後、コロンビア特別区当局はオリベット大学について話し合うための特別会議を招集した。12月8日に行われる認可機関の公開会議では、ダビデ張氏の大学が問題になる可能性があるという。
「高等教育認可委員会(HELC)は、オリベット大学に関する他州の動きについて知らなかった」と広報担当のフレッド・ルイス氏はニューズウィークに語った。「教育機関は、その教育機関に対して取られた不利な措置について、委員会に通知することが義務付けられています。」オリベット大学はその後、ワシントンDCの所在地をウェブサイトから削除した。
コロラド州の場合
コロラド州高等教育局当局は、ニューヨーク州のダッチェス郡キャンパスが閉鎖されたことを知らずに、オリベット大学に営業許可を出した。広報担当のミーガン・マクダーモット氏はニューズウィークに対し、「申請時に認可の取り消しが行われていれば、コロラド州は認可の申請を却下していただろう」と語った。単に情報の深さを知っていただけなら、法令上、拒否は許されないかもしれないが、もっと情報を求め、おそらく投票を遅らせることはできたはずだ、と。
テネシー州の場合
オリベット大学が系列校のジュビリー・スクールを介して運営するテネシー州高等教育委員会は、ニューズウィークに対し、同校は調査中であると述べたが、それ以上のコメントは避けた。同校は独自のウェブサイトを運営し続けているが、オリベット大学は所在地ページからテネシー州のサイトに関する記述を削除している。
インディアナ州の場合
インディアナ州高等教育委員会は、ニューヨーク州でのオリベット大学の閉鎖と連邦政府の調査のニュースを受け、オリベット大学の系列校であるグレート・コミッション大学に与えられている宗教的免除を再検討していると、ニューズウィークに電子メールで語った。オリベット大学は現在、グレート・コミッション大学を所在地ページに掲載していないが、ABHEのウェブサイトでは、引き続きオリベット大学のエクステンションサイトとして分類している。
ジョージア州の場合
ジョージア州は、今月に入り、大学とABHEの双方からオリベット大学のサテライトキャンパスとしてリストアップされた。しかし、同州の非公立高等教育委員会は、大学が憲章に違反した授業を行っていることを発見し、2016年に同州のオリベット大学を閉鎖したとニューズウィークに語った。「2016年2月、オリベット大学が非宗教的なプログラムを提供していることが職員の目に留まり、そのため宗教的免除の対象外となった」と、広報担当者はニューズウィークに語っている。オリベット大学はその後、その場所をウェブサイトから削除したが、アトランタのエクステンションサイトはABHEのページに残っている。
ケベック州の場合
ABHEは、ケベック州のサン・アンドレ・ダルジャントゥイユにあるオリベット大学の拡張施設を掲載し続けているが、同大学はこの場所をホームページで宣伝していない。ケベック州教育・高等教育省のブライヤン・セントルイス氏は、ニューズウィークに「ケベック州で教育機関を運営するための許可証は発行されていない 」と語った。同氏によると、オリベット大学はケベックの企業登録に2つの名前で登録されていたが、この2つの事業体は2020年12月に登録抹消されている。
フロリダ州の場合
フロリダ州教育省はニューズウィークに対し、同校は「政府の監視なしに宗教施設として運営されている」と述べた。広報担当のキャシー・パレリス氏は、州の独立教育委員会が 「オリベット大学の資格継続を評価する」と述べた。オーランドの校舎は、オリベット大学のウェブサイトに掲載されたままだ。ウェブサイトには以前、同校でビジネス学士号を取得できると記載されていたが、その後、その情報は削除された。
オリベット大学は、ミズーリ州とテキサス州でも事業を展開している。両州はニューズウィークに対し、ダビデ張氏の大学は州当局から宗教上の監督免除を受けたと語った。
オリベット大学に対する最新の挑戦について尋ねられた大学側は、ニューズウィークの共同所有者間の役員会闘争を指摘し、最近裁判所が出したCEOとしてのプラガド氏の報酬の上限設定は、デイビス氏の法的戦略が成功していることの表れだと答えている。「オリベット大学とそのプログラムについては、法廷でもその他の場所でも、オリベット大学の中心が我々の大切な学生のためにあり続けるという自覚のもとに、真実のみをもって我々の評判を守り続けるだろう」と述べた。
ニューズウィークは、プラガド氏がデイビス氏との争いにニュースルームを利用したというオリベット大学からの非難を否定している。ローラ・ゴールドバーグ広報担当は次のように述べた。「ニューズウィークは編集の誠実さと独立性を重視しており、これらの価値を守るために2018年からポインター研究所と協力しています。」
ニューズウィークとオリベットの法的闘争と、デヴ・プラガド氏の社内声明はこちら▼
ニューズウィーク2022年12月1日付の原記事はこちら▼