自称牧師を名乗るYouTubeチャンネル「エナータ」が配信 日本でも同様の現象が

 インターネット上には新型コロナウイルスのワクチン接種に関するデマ情報が数多く出回っている。牧師を名乗る人物が「神から直接啓示を受けた」などと語りながら終末の教えを強引に絡めてクリスチャンの不安を煽ろうとする。そんな正体不明なYouTubeチャンネルやSNSが急激に増えた。根拠がない陰謀論に「聖書的理由がある」と断言して発信されるメッセージは私たちに強いインパクトを与える。ただ、発信されるだけならよいが有名な牧師が陰謀論を鵜呑みにして説教で語ってしまうことも。こうなると不確かな情報があたかも事実のように人から人へ伝達されてしまう。

カナダ在住の韓国人牧師エナータのアカウント名でYouTubeチャンネルを配信している。(画像:教会と信仰)

YouTubeチャンネル「エナータ」のアカウント名で活動する自称カナダ在住の韓国人牧師はコロナに対する聖書的教えを次のように配信し、視聴者を惑わしている。エナータによると「神から直接啓示を受けた」とし、「終末の神の警告」と称して次のような主張をする。

「クリスチャンはワクチン接種すればすぐにサタンの奴隷になる」とか、「ワクチン接種に頼るのは神を信じていない証拠だ」とワクチン接種を否定するメッセージを配信している。そこに医学的な根拠はまったく示されていない。

ゴスペル・イングリッシュと名乗るアカウントも陰謀論を配信している(画像:教会と信仰)

韓国発の「ゴルペス・イングリッシュ」と名乗るアカウントは「ワクチンには人類を監視するチップが含まれている」と主張。磁石を腕にあてると体内にあるチップがくっつくと動画で紹介している。乳幼児がPCR検査やワクチンで苦しむなどと不確かな情報で不安を煽っている。このチャンネルも聖書を根拠としており、トランプ米前大統領を高く評価する動画も繰り返し配信していた。子育て世代の親に悪影響を及ぼしかねない内容だけに注意が必要だ。

このようなアカウントには共通した主張がみられる

・接種は悪魔の計画だ

・接種はクリスチャンとして神に背く行為

・神とサタンの戦いが「コロナ騒動だ」

・「本当にいいのか」などと不安を抱くような問いかけ

「可能性」や「情報」として示すならまだしも、断言し、選択の余地を与えようとしない。エナータの問題は既成教会に対する言葉からも確認できる。「イエス・キリストこそがコロナというサタンに効く唯一の特効薬だ。あなたの教会の牧師がワクチン接種を推奨するなら、あなたはその教会からすぐに出るべきだ。クリスチャンはただ再臨について考えなさい。それだけで十分で誤った情報を伝える教会は正しくない」。

エナータはコロナを感染症として認めず、サタンが支配している謀略だと説く。そして、その背後に世界的な陰謀がうごめいていると主張する。だから、クリスチャンがコロナに不安を抱くことを「反聖書的な依存症」だと批判。このようなメッセージは聖書全体から教えず、ごく一部を引用して不安につけこむものだが、どういう訳か強く支持する人たちが出てきてしまう。エナータのチャンネルは5月4日に第1回目が配信された。20日後には視聴者アクセスが722人に膨れ上がり、たった数週間で1万人を超えてしまった。コメント欄には配信された内容を支持するものが多く、教会批判やワクチン接種に対する批判的なものが目立つ。

インターコープ宣教会の崔パウロ氏、陰謀論を広めた(画像:教会と信仰)

最近では、過激な宣教観と活動が特に問題視され主要教団から異端規定に向けた最終準備が行なわれている「インターコープ宣教会」(代表・崔パウロ氏)の発言が注目されたばかりだ。感染症予防対策で国の法令に違反した「大規模集会」を開催した容疑で摘発を受けたインターコープは、代表によるコロナ陰謀論で社会的批判が一層強まっている。

ビル・ゲイツ氏を名指しで批判した上で、ワクチン接種は人類を世界的規模でコントロールするためのチップ注入が目的だ、とするデマを拡散させたからだ。インターコープは、二元論的世界観が特徴で、神とサタンの戦争が今続いており、神側が「善」でサタン側が「悪」と断言している。その基準が極端で、サタンとはその国々の偶像も含まれる。日本では神社仏閣がその対象で、インターコープではこうしたものを排除することが正しい信仰だと教えた過去がある。今回の崔パウロ氏の発言もこの延長線と考えられ、コロナはサタンであり、その背後にうずまく計画に警戒するよう語っていた。ところが自らが感染拡大の原因となり、謝罪に追い込まれた崔パウロ氏は、その後一転して「率先してPCR検査を受けてほしい」と述べ、「ゆくゆくはワクチン接種も積極的に受けてほしい」と語り、現在は沈黙を続けている。ワクチンがサタンだと言い切った彼の説教は何だったのだろか。つまり、常識から逸脱した陰謀論とは、人々に強い影響を及ぼすことはできるが、それに伴う責任は発信者さえ取ることができない、いい加減なものであることがわかる。

日本では、キリスト教福音宣教会(通称摂理)の指導者・鄭明析(チョン・ミョンソク)氏に絶対的な尊厳を置くことを保ちつつも(注)、自らが最後の中心者(再臨のキリスト)と秘密裏に主張している日本版の異端「ラプト理論」代表の中村祐介氏(愛媛県在住)は、連日のようにTwitterで、陰謀論を発信している。そのほとんどが、自分を否定した人物の写真を無断で使用した稚拙な誹謗中傷だが、ことにコロナついては「絶対に存在(感染症として)しない」、「風邪だ」と言い切ってバーチャル宗教を動かしている。医療現場で日夜対応に追われる医師らを中傷するようなコメントも目立つ。自分を「キリスト」とほのめかす教理から紛れもない異端だ。そしてネットを介して信者や関心をもつ読者に「マスクをつけないよう」指示しているのだ。これが「神の計画。御心だ」とし、「未来の子どもたちのためにサタン(社会)に惑わされるな」と遠隔で操作している。鵜呑みした信者は、子どもにマスクをさせず、周囲とトラブルになって、非常識な宗教的行動をエスカレートさせている。こうした現象が韓国だけではなく日本でも広がりつつある。

注)キリスト教福音宣教会とラプト理論について宗教的運営は全く無関係

韓国のエナータは配信したばかりの最新の動画で、「神様はすべての人に自由意志を与えられた。しかし、自由だからといってあなたは本当にワクチンを受けるべきだと考えるのか?

それなら私はあなたを見損なう。私のメッセージを信用せず、あなたの魂は腐り肉体が崩壊する毒素を体内に入れるというわけか」と脅すような内容でしめくくった。

このように発信する人物がコロナにより生命の危険が迫る重篤に陥ったらどうするのだろうか。

情報に惑わされないよう十分に注意したい。