統一協会元信者、信者家族にインタビュー

自称再臨のメシア文鮮明氏死後、統一協会の全権力を掌握し、自分の息子たちを裏切り者扱いして追放した妻の韓鶴子(ハン・ハクジャ)氏。総裁の地位の他、連なるいくつもの関連団体のトップに君臨し教団を率いている。統一協会は文鮮明氏が創設した宗教団体で聖書を独自に解釈し、韓国特有の土着宗教的な精神や文化、思想を都合良く織り交ぜた「原理講論」を経典とする。

9月28日、聖地清平(チョンピョン)に建設された天勝殿グランド奉献式が開催された。教団によれば宗教統一と7大国の復帰(救い)を目的としたイベントだと紹介した。500坪を超える土地に地下3階、地上5階建ての福祉施設「天勝殿グランド」を建設。統一橋と命名された橋やフランスパリの凱旋門によく似た天勝門まである。新設された五階部分の庭園に鶴子氏の石像を2体設置した。

登場した鶴子氏は無表情で4.3メートルの自分をイメージした石像の前に立った。するとみずから自分の銅像に手を合わせ祈った。憲兵隊に扮したエリート信者に両脇を支えられ、おぼつかない足取りで会場を後にした。「鶴子氏もそう長くないだろう」、そう語るのは統一内部事情に詳しい某氏。今回のイベントでもっとも驚いたのは文鮮明氏の石像が造られなかったことだ。教団は明らかに鶴子氏の神格化に取りかかっている。

統一王国の完成に向け真の母として努力した韓鶴子氏を称えるため新設された石像。真ん中が鶴子氏だ。自分の石像に手を合わせ祈った。(清平千勝殿野外庭園にて Peace TVより)

統一協会は、聖書のイエス・キリストは地上でメシアとしての使命を全うできず、罪が入り十字架刑で死んだと説く。正統なキリスト教信仰である「十字架による救い」を否定し、原罪がない神同格の存在でこの地上に再臨したメシア(再臨主)文鮮明氏を信じ、罪がない清い血を分け合うことで男と女は一体となって本物の救いに達すると教える。具体的に言えば旧約聖書のアダム(男性)とエバ(女性)はヘビに誘惑され、ヘビ(サタン)と性行為したエバにより汚れた罪が入り人間は堕落したと信じているのだ。統一協会の合同結婚式(正式には祝福)は汚れた血から罪がないメシア文鮮明氏の血が入ることで夫婦は救われるという血統転換の儀式だ。もちろん正統なキリスト教とはかけ離れた独自の教理である。

しかし、頂点にいた文鮮明氏が死去した。再臨し地上王国を建設する本人がこの世を去った。人間を神格化していたのだから当然の結末だった。教団で元老という立場にある統一再建派は組織崩壊を防ぐために2つの戦略に出た。一つは真の母として妻の鶴子氏をメシアに仕立てること。教団に不都合な息子たちを次々に追い出したことだった。文鮮明氏は生前、教えに沿って七男の文亨進(ムン・ヒョンジン)氏を宗教部門の後継者に指名。事実上の二代目メシア有力者だった。ビジネスに邁進する他の兄弟と違い、亨進氏は信心深かったという。

しかし、実の母である鶴子は亨進氏を追放した。そして、教団の核心的信仰対象である文鮮明氏に「原罪があった」と宣言した。韓国の異端問題専門紙「現代宗教」によると、2月4日に出版した鶴子氏自叙伝「平和の母」の中で「人類の始祖の堕落により神の男性格で天の父の位相を中心とした男性中心の歴史が展開された」とし「神の女性格である天の母の位相は隠され神は天の両親になることができませんでした」と述べたと紹介している。また同著書で「天の両親の地位を取り戻すために自分は天の摂理の真実を知らせている。神様は独生女(*)を中心に摂理を展開しておられる」と締めくくっている。鶴子氏の本音はこれだろう。イエス・キリストを失敗作だと批判したように、今度は自称メシア文鮮明まで批判して強引に自分を神格化させたのだ。

(*)独生女(トクセンニョ)=神の独り子イエスではなく、韓鶴子氏が子(女性)だと説く文鮮明死後の新しい教理。鶴子氏が再臨のメシアと主張するために作られた用語

紀元節を宣布する韓鶴子氏をイメージした石像も公開された。文鮮明の姿はなく事実上、統一協会は鶴子氏が再臨のメシア(独生女)、文氏はシンボルになったと韓国メディアは分析している。(写真:現代宗教)

 

異端・カルト110番は統一協会元信者と現役信者の家族にインタビューした。貴重な彼らの声に耳を傾けたい。統一協会の問題は今も続いているのだ。

-文鮮明氏が生きていた頃と今の統一協会の大きな違いについて感じる点を教えてください-

(韓国人元信者)文鮮明が生きていた時は原理講論に基づいた摂理や目標が定められたり行事が行なわれたりしましたが、妻の鶴子に移行してからは彼女の信仰観や考え方が優先されて教団全体に一貫性がなくなったように感じます。今残っている信者の多くはこのような矛盾を自分なりに理解できる人たちです。求心力が以前ほどないように思います。

(韓国在住日本人元信者)かつての統一協会とは雲泥の差と言えるでしょう。教団がここまで成長したのは良くも悪くも文鮮明の存在あってのことです。鶴子は補助的役割に過ぎません。多くの信者はそれを分かっていると思います。だから、文鮮明死後、鶴子が自分をメシアだと宣言し脱会者が出たことは報道を通じて読み取れます。

(日本人元信者)実際は特に変っていないと思います。妻があの教団の後を継いだという感覚ですね。

(信者家族A)特に大きな違いは今のところ感じていませんが、宗教法人名を変えているのが不気味です。もう統一協会ではないという意思の表れでしょうか。

(脱会者家族B)統一協会の教理通りなら息子たちに後を継がせるべきところを、幹部の思惑で鶴子が総裁になりました。それ以降は教団も活気がなく新しい信者獲得は難しい状況だと思います。

(信者家族C)文鮮明の死後、鶴子が総裁という立場になり文家が分裂しました。信者たち、特に末端の日本人女性信者たちは相当苦しい日々を送っています。文鮮明が生きていた頃よりもっと厳しい献金地獄、ころころと変る教理についていくのが精一杯です。それでも抜けることができず生活しているのです。

 

-再臨のメシアである文鮮明に「原罪があった」と鶴子氏は宣言しました。これは文鮮明氏がメシアではなく実は罪がある人間だと言ったも同然の発言です。そうなると今まで合同結婚式(祝福式)に参加した信者は実は救われていないことになるのではないでしょうか?(*)大変な矛盾です。統一協会はこの点をどう修正したのでしょうか?-

(*)統一協会では原罪がないこの時代の再臨のメシア文鮮明氏を信じ信者同士が合同結婚することで救いに達すると教えている。

(韓国在住日本人元信者)矛盾だらけだと思います。ただ、教理上救われるのか否かはよくわかりません。信者によってはおかしいと感じても組織に仕え続けてしまいます。もっと言えば教理に疑問を抱かない人は思考も停止しているのです。思考が停止しても信者としての暮らしに支障はありません。抽象的な部分はスルーしても特に気にしないのです。

(韓国人元信者)そもそも呆れてしまう主張です。個人的な経験から言うと原罪云々はあまり気にすることもなく、耳にも入らずそんなに重要なことではありませんでした。ただ、誠実に教団の中で生きていきたいと思ったから合同結婚を受け入れました。文鮮明死後、鶴子が独生女宣言したことは、本当に救われたくて祝福を受けた信者にとって理解しがたいものだと思います。聞くところによれば、独生女宣言について教団の会義で上級幹部が反発したそうです。結局はその反発も内々で処理されたようですが。鶴子を支持する信者のブログを読むと、文鮮明を「真のお父様」と呼びにくかったが段々と慣れてきたのと同じで、鶴子も「独生女」と呼ぶことに次第に慣れるだろうと書かれていました。これは、変だなと思いつつも残っている信者達の願望みたいなものだなと思いました。

(日本人元信者)父母様でワンセットだと信じていたので、罪がない二人が選んだのだから疑問を抱きませんでした。

(信者家族A)どう考えているのかよくわかりません。鶴子がこの先カリスマ性を発揮するために、文鮮明に原罪があり、代わりに自分が救ったというストーリーを作りたいのでしょう。死人に口なしで呆れたものです。

(脱会者家族B)自分こそが文鮮明を復帰した(救った)んだという主張は呆れてしまいます。鶴子が語る説教(文鮮明の教理を否定する)は通用するような内容ではありません。冷静に考えればわかることも、一般の食口(*)は追及したり疑問を抱いたりできないので、結局は統一協会に居残るしかないのです。鶴子はなぜ原罪がないのでしょうか? では、その両親の原罪は?

(*)食口(シック=信者のこと)

(信者家族C)すべての人には罪があります。「私には罪がない」と言い切って独生女だと宣言した彼女こそ嘘つきで罪の塊みたいなものです。

 

-韓国では一般の食口の月額献金ノルマはいくらでしょうか? 教会ごとに額が定められていましたか?-

(韓国在住日本人元信者)基本的には十分の一献金です。韓国ではこの部分はよく教育しています。でも、入信まもない信者は収入の十分の三の額を捧げるように強要しています。

(信者家族A) 献金は十分の一と聞いています。

(信者家族C)私もそうです。十分の一ですね。

 

-韓国では収入の十分の一を捧げるよう指導されているようですね。では、日本の月額献金額はどうなっていますか?-

(韓国在住日本人元信者)日本の情報はよくわかりません。

(日本人元信者)特に決まってはいませんでした。会費は1000円。いろいろ言われて摂理(教祖が語る目標)のたびに捧げる感覚でした。

(信者家族A)実際はよくわかりませんが毎月数万円ではないかと思います。

(脱会者家族B)表向きには十分の一献金でよいと本部は言っていますが、これは嘘ですよ。毎週日曜日の礼拝は十分の一献金と月定献金が中心。午後の集まりでもさらに別口で献金。神様からの要請だから献金しなきゃ、家族を救うために献金しないと! こう信じて捧げてしまう。日本から韓国本部とアメリカに毎月何千万円も送金しています。相当な額のお金が集められていると思います。聖地「清平」の修練会の費用とか役事のお金は、実は韓国の統一教会本部に上納されています。

(信者家族C)毎月、特定の額を捧げるわけではないと思います。区域ごとに目標額が決まっています。それに合わせて1家庭ごとに毎月何十万円という献金ノルマが課せられていますよ。毎月36万円という時もありましたから。献金は神様に感謝の気持ちで捧げるものだと思います。しかし、統一教会は額を指定してくるんですね。そこには感謝の気持ちはこれっぽっちもないと思います。

 

-今回、鶴子氏が自分の石像を造らせました。驚くことに文鮮明の姿はありませんでした。皆さんはどう感じましたか? 率直な感想を聞きたいです-

(韓国在住日本人元信者)バカバカしい天一国(*)ごっこですよ。彼らだけのショーみたいなものですね。

(*)天一国=天宙平和統一国を意味する用語。地上天国を指す。

(韓国人元信者)今回、確かに文鮮明の石像は造られなかったです。それでも鶴子にとって文鮮明の存在なしに彼女の存在意義は成立しません。そもそも鶴子が新しい教理を生み出すことは不可能です。私に言わせれば、鶴子が原理講論をまともに理解できているのか疑わしい。それを理解できるような知識も備えていません。洪蘭淑さんの(ホン・ナンスク*)手記によるとアメリカで暮らしていた時、鶴子は韓国ドラマを好んで観ていたそうです。感動的なシーンになるとしくしく泣きながら「ティッシュ!」と言うそうです。すると隣にいた洪蘭淑さんがティッシュを取ってあげたと書いてありました。鶴子は知的な女性ではありません。笑ってしまいます。

*洪蘭淑=文鮮明の長男で教団後継者候補だった文孝進の元妻。夫がアルコール中毒で家庭内暴力を振るい洪氏は耐えかねて離婚。教団を離脱。その後、事実上の内部告発になる「我が父文鮮明の正体」という暴露本を出版。

(日本人脱会者)石像の話は率直に言っておかしいです。統一教会は父母様でワンセット。単体は違和感でしかないですね。

(信者家族A)自分だけが崇拝されたいのでしょうね。生きているうちに石像を造り、自分で自分の石像に手を合わせる・・・どれだけ破廉恥な人間なんだと思います。恥ずかしくないのでしょうか。彼女は夫の文鮮明が生きていた時は神として崇めていました。死んだら自分が神になる。鶴子にとって文鮮明は自分が富を得るための道具でしかなかったということでしょう。

(脱会者家族B)偶像にすぎないです。あんなのを造って恥ずかしくないのでしょうか。なぜ、文鮮明がいないのか? 鶴子はまだ生きていますよ。おかしいです。

(信者家族C)聖化したはずの文鮮明を石像にするならまだわかる。鶴子はまだ生きていますよね? 単なる偶像でしかありません。

 

-統一協会に入信するとその家族にどのような被害が及びますか? お子さんが入信した方はどのような変化がありましたか? 目で見える被害についても教えてください-

(韓国在住日本人元信者)入信すると間違った認識で世界を見るようになるので、今までと全く違う自分に変ってしまいます。協会員以外と話をしても噛み合いません。共感が得られなくなりました。脱会して元の自分に戻るにはとても時間がかかりました。

(脱会者家族)お金の被害ですかね。気付きませんでしたが・・・。

(信者家族A)家族で心から笑える、安らげる日がなくなってしまいました。

(脱会者家族B)まず自分の預貯金、そして家族のお金をあっという間に使い果たしてしまいます。経済的被害です。本音で会話ができなくなりました。嘘、隠し事、統一協会に入信したことが家族にばれたらどんどん家庭崩壊に向かいます。本人は人格が変ってしまいます。当たり障りのない会話は成り立ちますが、統一協会の話は一切できませんから。信者は精神的な病に陥ることも多いです。その責任を教団に求めず、家族やカウンセラー、救出に協力する牧師のせいにします。外部の責任にしようとするのです。こうなると教団に戻りたいと言い、人の話が聞けなくなります。本人はテレビを観ても何を言っているのか理解できないようです。NHKや歌番組は分かるけどドラマやバラエティー番組の内容についていけないのです。

(信者家族C)家族ごとに状況は違いますが、経済的な被害、精神的な被害、これは間違いなくあるでしょう。家族に反対されているとわかると目の色が変ります。日常生活は共に送れますが、信仰の話はほとんどできません。

(韓国在住日本人元信者)質問にはなかったのですが、鶴子が自分を独生女だと言い張るのは彼女の背後に文鮮明の弟子といわれる元老たちがいるからです。その元老たちは鶴子に原罪がないという教えは嘘だとよくわかっています。それにもかかわらず、その教えを貫こうとするのは鶴子と一種の取引があると考えられます。三男の文顕進(ムン・ヒョンジン)が統一協会から追放されたのは元老の言うことを聞かなかったからだと言われています。個人的な見解として、カリスマ性でいえば、七男の文亨進(ムン・ヒョンジン)氏が後継者にふさわしかったと考えています。自分の子どもたちをみな追い出した鶴子ですが、鶴子が死ねば後継者は元老たちで決めようと目論んでいますね。再び自分たちの影響力を拡大しようと考えているはずです。朝鮮史にはそんな側面がありながら結局は滅びた例がある。それと同じです。統一協会もそうなると思います。