新天地最高幹部級信者、全国大学部長パク・スジン氏脱会記者会見。「私も教祖は永遠に死なないと信じていました。でもそれが嘘だと分かったのです。

新天地最高幹部級の信者で全国大学部長の肩書きをもつパク・スジン氏(28)が新天地を脱会した。彼女は新天地(正式名称=新天地イエス教証拠〈あかしの〉幕屋聖殿)を離脱し、8月26日、ソウル市にある九里(クリ)異端相談所(所長=シン・ヒョンウク牧師)で記者会見に臨んだ。大物信者脱会とあって多くの報道陣が詰めかけた。

専門家の牧師たちに囲まれ記者会見に臨んだ脱会者パク・スジン氏=写真中央(画像:教会と信仰)

脱会の経緯 考える余裕もなく信じるに至った新天地の信仰

「私は二十歳の大学生のとき、友人を通じて知り合ったギター教室の講師に誘われてとある施設に行きました。そこは新天地の福音部屋(偽装センター)だったのです。まさかこんなきっかけで新天地に繋がるとは思いもしませんでした。その後、聖書の学びを通じて教祖李萬熙(イ・マニ=89)を救い主と信じ、彼に忠誠を誓いました。私は昨年(2019年)10月に全国大学部長の役職を与えられました。入信して7年目のことです」。パク氏は声を震わせながらマイクを握った。

この「全国大学部長」とはどのような役職なのだろうか。本紙共同代表で日本キリスト教異端相談所所長を務める張清益(チャン・チョンイク)牧師に聞いた。「全国大学部長の肩書きは新天地における学生教育の指導的ポジション」だという。

娘を心配した母親の思い 異端相談所のカウンセリングを通じて

これほどの肩書きを持つ人物がなぜ脱会を決意したのか。パク氏は次のように語った。「今年の4月、私のことを心配した母が新天地は健全な宗教なのか確かめようと異端相談所に連絡したのがきっかけでした。母はそこで初めて新天地の危険性を知りました。だから私に、一度でいいから異端相談所に行って話を聞いてほしいと頼んできました。新天地では世の中のクリスチャンはサタンで耳を傾けてはいけないと教育を受けます。批判的な報道はウソだと教わります。だから頑なに拒んだのです。それでも母は何度も言ってくるので、一度だけ聞いてみることにしました。そこで驚くような体験をしました。シン牧師が聖書全体の教えと新天地の比喩(たとえ)の教えを比較して何が正しいか、どこが間違っているか丁寧に教えてくれたのです。聖書全体の教えと新天地の比喩はあまりに差があり、私が信じてきたものは空想だったのではないかと急に不安になりました。その瞬間、教祖への信仰が揺らぎ始めたのです。きっと騙されたんだ。そう感じました」。

パク氏によると新天地は、比喩の解き明かしといって聖書の一部分だけを取上げて教えるという。講師は受講生に疑問を抱いても発言させる余裕を与えない。「答えが用意されているのでそのまま信じて新天地の虜になってしまいます。このやり方も戦略の一つでした」

異端相談所のカウンセリングを受け、目が覚めたような思いがしたという。「私は二十代の大切な時期にこんな宗教の虜になっていたのかと思うと悔しくて涙が止まりませんでした。でも、このままでいいのだろうかと考えたのです。私は新天地に残っている信者に真実を伝えたい。そして皆さんに内部事情を知ってもらいたい、そう決意しました。だから実名で顔も出して会見に臨みました。信者は教祖イ・マニ氏が永遠に死なないと信じています。私もそう信じていました。だから世界を統治する王と信じ、救い主として従ってきたのです。でも嘘だと分かったのです」

名前と顔を公開して記者会見に臨んだパク・スジン氏(画像:教会と信仰)

明らかにされた偽装潜入の実態 世界的なキリスト教学生宣教団体がターゲットに

パク氏の証言で最も衝撃が走ったのは、新天地が長年行なってきた偽装勧誘と潜入工作について語られたときだった。世界的に有名なキリスト教大学生宣教団体を破壊する計画について証言した。パク氏は次のように語った。「教祖イ・マニ氏が直接、組織破壊を命じた団体は韓国大学生宣教会(キャンパス・クルセード・フォー・クライスト=通称韓国CCC)です。教祖が特定の団体を指名することは滅多にありませんでした。それだけ本気だったと思います。それには理由がありました」。その理由とは、韓国CCCが2019年6月19日に加入していた韓国基督教総連合会(韓基総=通称CCK)を脱退したからだという。「脱退したということは韓国CCCが何か問題を起こしたか弱体化していると教祖は考えたようでした。この隙に組織破壊せよと指示したのです」。

キャンパス・クルセード・フォー・クライストとは?

イ・マニ氏が組織破壊を命じた韓国CCCとはどのような団体なのだろうか。キャンパス・クルセード・フォー・クライストとは1951年、アメリカ人の伝道者ビル・ブライト夫妻によりアメリカのカルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で設立された国際的なキリスト教学生宣教団体。世界190カ国で活動している。日本CCCは東京都三鷹市に本部を構えている。国際色豊かな団体だ。韓国CCCは著名な教会指導者キム・ジュンゴン牧師が1958年11月に創立した。

韓国CCCに送り込まれた学生信者

パク氏は新天地の内部資料を公開した。そこには学生信者が韓国CCCのサークルに紛れ込んで情報収集し教団本部に報告する様子が記載されていた。「韓国CCCには未信者の学生からクリスチャンの学生まで集います。新天地信者はまずキリスト教に関心を持ち始めた初心者を装ってサークルに参加しました。誰も新天地だと気付きません」。戦略として韓国CCCから信頼され、ある程度の影響力を持ったところで親しくなった学生を段階的に引き抜くという。「昨年の下半期だけで全国21の大学に42名の学生信者を派遣しました。そのうち30名は韓国CCCが活動する大学に送りました」

多くの報道陣が詰めかけた。(画像:教会と信仰)

徹底した偽装工作

「韓国CCCに潜入する前に2つのことを準備しました。1つは仮の教会を用意させたことです。スタッフに所属教会を聞かれたらすぐに答えられるように既成教会に通わせました。これで新天地とはすぐにわかりません。2つ目はもしスタッフが怪しいと気付いて実家に電話をかけてもいいように偽の電話番号と親を用意しました。電話をかけて受話器を取るのは新天地のリーダーたちです。親のふりをして安心させるという計画でした」。さながらスパイ小説のような話だ。「新天地はこのようなやり方で若者ばかりを集めてきました。信者の70%は若者です」

韓国のキリスト教界を知らなすぎる教祖の誤算

教祖イ・マニ氏は韓国CCCが大学生のみで構成された弱体化傾向にある団体だと強調していたという。韓基総を脱退した韓国CCCは本当に弱体化が理由だったのだろうか。韓国CCC代表のパク・ソンミン氏はキリスト教メディア「グッドニュース1」(2019年6月19日号)に次のように答えている。「チョン・グァンフン代表会長と執行部は韓基総を私物化し政治団体に傾倒させてしまった。韓国教会に悪影響を及ぼした。韓国CCCはここに留まる必要はなくなった。もはや韓基総は孤立した団体だ」。イ・マニ氏は韓基総がいまだに韓国を代表する連合機関で影響力をもっていると見誤ったのだ。実際に韓基総は韓国教会の3%に満たない勢力でしかない。加盟する団体の3割が異端カルト規定(主要教団による)を受けた教団だ。

日本でも十分な警戒が必要だ

パク氏の脱会により新天地の偽装潜入の実態がさらに明らかになった。CCCは日本でも活動している。本紙共同代表の張清益牧師は「日本CCCも新天地が潜入する可能性は十分にある。警戒しなければならない」と注意を促す。本紙が独自に入手した新天地内部資料によれば、日本支部教会は東京シオン教会(新宿区鶴巻町)、大阪、福岡の3か所にあることがわかっている。核心的信者を意味する総信徒数は260名、新宿区の早稲田にある新天地の偽装教会は内部では東京シオン教会と呼ばれ、信徒数は141名だ。東京の場合、その8割は韓国人である。また集団生活についても確認されている。最近は中国人信者も増えている。日本人は20代の若者が多く圧倒的に女性が多い。

本紙の取材で早稲田大学の学生信者も相当数いることがわかっている。すでに偽装潜入を試みた例も報告されている。国内にはhi-b.a.(高校生聖書伝道協会)やKGK(キリスト者学生会)など学生を対象とする正統な伝道団体が存在する。過去には異端・カルトの信者が関与した事例も報告されている。この機会にスタッフは異端・カルトについて情報を共有し、対策を講じる必要がありそうだ。

 

 この記事は韓国の「教会と信仰」、「ニュースアンドジョイ」が配信した2020年8月26日号から日本人読者向けに内容を一部編集し、本紙の独自取材から得た情報でまとめたものです。