異端・カルト教団は韓国と日本ではまるで異なる顔をもつ。異端論争ではない。これは人権侵害だ。

元新天地最高幹部級信者、パク・スジン氏の証言

新天地(正式名称=新天地イエス教証拠〈あかしの〉幕屋聖殿)の最高幹部級信者が今年に入って脱会した。パク・スジン氏(28)は、新天地で大学生の精神教育を仕切る全国大学部長のポジションにいた人物だ。パク氏は8月26日、韓国ソウルにある九里(クリ)異端相談所で記者会見を開いた。

今回は本紙の解説を中心にまとめた。

組織の実態を会見で明らかにしたパク・スジン氏(画像:CTS)

会見でパク氏は2019年6月21日、教祖李萬熙(イ・マニ)総会長(現在は逮捕起訴され被告)の命令を受け、韓国内最大のキリスト教学生宣教団体であるCCC(韓国キャンパス・クルセード・フォー・クライスト)を組織破壊し、内部を混乱させるため訓練を受けた信者が派遣されていた事実を報道陣に公開した。この会見を受けて韓国CCCの代表パク・ソンミン氏と責任スタッフらは29日、連名で声明を発表し、「驚きと怒りを禁じえない。非常識で悪意に満ちた蛮行を指示したイ・マニとそれに服従した新天地信者の行動を強く非難する」と抗議の意を表明した。

全国大学部長の現役当時、パク氏が指揮した信者たちの集まりの様子。コロナウイルスの感染拡大につながった大邱市の幹部らも同席していたという。彼らは韓国CCCに潜入した。(画像:CTS)

韓国CCCによれば、情報提供を受け内部調査を行なった結果、45人の新天地信者が一般の学生を装い活動に加わっていたことが明らかになった。元信者のパク氏が証言した内容とほぼ同じ人数だったという。パク氏は「教祖は2020年までにさらに60人以上を韓国CCCに潜入させ、組織を崩壊させる計画でした。学生を勧誘して新天地に引き抜くことが目的でした。今年2月に信者から感染拡大した新型コロナウイルスの事件が起きなければ、確実に計画は成功していたと思います」と語った。

逮捕される前に撮影された教祖イ・マニ氏の内部写真。コロナ拡散被害で社会が混乱する中、教祖は花見会を開くなど優雅な生活を楽しんでいたという。(画像:パク氏提供、CTS放映)

パク氏は、イ・マニ氏が当時語った説教の一部をテキストで公開した。「学生たち(韓国CCCに関わる)に伝道する最高の条件が揃った。CCCも関わる学生たちも韓国基督教総連合会(韓基総=通称CCK)を出たわけだ(*)。じゃあ、我々が伝道する前に何をしなければならないと思う? まず、(韓国CCCの)中に入ってよく仕え、リーダー的な立場になれるならなって、良い顔をして気に入られなさい。そうだ、この計画を拒む理由はなかろう、そういうことだ。」(イ・マニ氏説教・約束の牧者より)

*韓国CCCは2019年6月、韓国基督教総連合会を脱退した。

2019年12月20日、韓国某所で行なわれた新天地の訓練の様子。イ・マニ氏を救い主と信じ従うため、彼らはどんな苦行も耐えるという(画像:パク氏と支援団体提供)

常軌を逸した訓練の実態 過去には死者も

パク氏は、新天地では組織破壊や乗っ取り計画を成功させるために信者に軍人のような強化訓練を課して鍛えていることも明らかにした。これを「光の軍事訓練」と内部では呼ぶという。2011年12月には訓練と称して真冬の雪山に置き去りにされた信者らが低体温症で死亡した事件も起きている。パク氏は「今も訓練は行なわれています。教祖イ・マニをとおしてのみ語られる言葉が本当の使命だと信じさせるために、信仰と精神力を鍛えさせるのです」。一枚の写真を公開した。信者が真冬に黒色のビニールを頭にかぶせられ、手足を街灯に縛られていた。何時間もその姿勢を保ち、ひたすら罪を告白する行為を強制される。これは2019年12月20日に韓国某所で行なわれたものだ。ほかにも顔に布をかぶせ穴に何時間も埋めるなど、常軌を逸した教育を行なっている。

こうして身も心も新天地一色に鍛え上げられた信者が一般人になりすまし、あるときは学生として、また周囲から慕われるクリスチャンを装って信者獲得に取り組むのだ。訓練を受けた人物は昇級し、やがて海外に派遣され指導者となる。このような訓練を受けた人物が韓国CCCに派遣されたのだ。

東京の早稲田(新宿)にある新天地の偽装教会。内部から流出した神学校の卒業式の様子。右側の女性は日本人信者。すでに既成教会に派遣されていることもわかった。

日本国内も継続して警戒する必要がある。予想以上に新天地は大きな組織

本紙は韓国の報道を受け、17の支部をもつ韓国基督教異端相談所協会の日本支部(日本キリスト教異端相談所)所長、張清益(チャン・チョンイク)牧師から今回の新天地の動きについて国内で警戒すべき点、今後の動きについてアドバイスを受けた。張牧師は本紙の創設者で共同代表の一人でもある。旧・統一協会をはじめ、韓国異端・カルトに最も精通。韓国の主要教団やその異端似非(カルト)調査委員会とも連携をはかっている。張牧師のリソースで新天地が国内に3つの拠点を構えていることが明らかになった。「十分に警戒する必要がある」と話す。

本紙は国内のキリスト教学生宣教団体に注意喚起を行なった。相当数の学生信者、および20代前半の日本人女性らが教祖イ・マニを救い主と信じている可能性があるからだ。これから日本の教会は新天地対策を強化する必要に迫られるだろう。

異端・カルトは必死に正統性を主張 国内では健全な宗教を標榜する

そうはいっても何が危険なのか実感が湧かない、という声も多く聞く。「このような事件が起きた」と聞いても、その教会が日本ではいたって一般的に見えてしまうことが多い。韓国のカルト問題を扱うパルンメディア代表のチョ・ミドゥム氏は「カルトは既成教会から教理面を指摘されるより、社会からの批判を避けるために必死になる」と述べている。その言葉どおり、健全で安心できる教会だとWEBを通じて繰り返し発信し、起きた事件や問題を外部からの嫌がらせや誹謗中傷にすり替えて反論するのだ。彼らは一貫して「正統派」を掲げようとする。

このように新天地に限らず、韓国系異端・カルトは母国で社会問題や事件を引き起こしても、海外で活動する場合そのような問題を一切うかがわせない「健全な宗教」を標榜する。新天地はいまだその実態を一切明かしていない。

早稲田の偽装教会は外部からの追及に、自分たちを「超教派の宣教師」、「福音派の教会の群れ」と説明している。核心的な信者に教育できる見込みがある人物と、単に通わせて新天地の信者数合わせに利用する人物を使い分けている。

韓国系異端・カルトに見られる特徴

他のグループをみてみよう。キリスト教福音宣教会(通称=摂理・CGM)は教祖鄭明析(チョン・ミョンソク)氏が強姦罪で懲役10年(2018年2月に出所)の刑務所生活を送った事実を「敵対する勢力によるねつ造」であり「圧力で誤認逮捕された」とオフィシャルに主張している。信者らは「ねつ造説」をブログなどで訴え、嫉妬した韓国のプロテスタント教界が貶めたと主張している。そう言いながら、数え切れない程のダミーサークルや団体を設立してスポーツ、文化、地域貢献を通じて社会的信用を得て関わる人物を次第に教会へ誘う手口は国内でもトップクラス。正体を隠した布教(伝道)を続けているのだ。

このような異端・カルト、また警戒される教団の指導者には共通点がある。それは、彼らがこの時代に再臨(もしくは来臨)したキリスト、救い主という秘密教理だ。新天地のイ・マニ氏は「救い主」であって、鄭明析氏は「再臨のメシア」だ。いずれも公式には否定したり、明言を避けたりしているが、脱会者から提出された資料や内部音声、蓄積されたデータから明らかになったケースが多い。

異端論争ではない。これは人権侵害だ

新天地の非道な訓練は信者に対するあきらかな問題行為だ。同時にその教えに支配された信者は容赦なく、既成教会に入り込み、混乱を引き越している。そして、若者が入信後に所在不明となり、その家族が「一日も早く子どもを返してほしい」と訴え続けている。加害者であって被害者でもあるカルトの構図が浮き彫りになった。人権侵害であることを忘れてはならない。

 新天地も教祖の一声で幹部らが動き、さまざまなことが強いられているのだ。キリスト教界全体で問題を共有し注視していかなければならない。異端問題は単なる「教理的違い」の論争ではない。そのように誘導し混乱させる異端・カルトの手口にも深入りしないよう、正しい情報に触れることが求められる。