水を利用する韓国異端カルト指導者たち 朴泰善の天父教、万民中央教会、キリスト教福音宣教会

(韓国現代宗教 2020年11月23日)

韓国の歴史において様々なキリスト教異端カルトの教祖が信者の信仰心を強める手段として水を利用してきた。ただの水にスピリチュアルな効果があるという教祖の言葉を頼りに信者たちは水を飲み、体に塗れば病気が治るなどその効果を信じてきた。

水を利用する異端カルト指導者たち

かつて水を利用して信者から求心力を高めた異端カルト指導者が何人も存在してきた。代表的な人物は朴泰善(パク・テソン)だろう。彼は宗教的に病気を治療する手段として水を利用した。毎月、中旬から月末にかけて500人から1000人の信者が聖地である第二信仰村(徳沼=トクソ)にポリタンクを持って集まった。

水を汲んだポリタンクに祝福の祈りを捧げる天父教の教祖朴泰善(パク・テソン)氏(写真:現代宗教)

第二信仰村に集まった信者たちはポリタンクに水道水を満タンにして教祖の登場を待ちわびた。朴泰善氏が現れ並んだポリタンクの前を通り過ぎながら祝福の祈りをささげ「ハーッ」と息を吹きかける。すると水は聖水に変るというものだ。信者はその聖水の効力を信じて病気の治療や罪の赦しを請う儀式に使ってきた。現在も天父教の公式サイトには「亡くなった人に生命水(教祖により清められた聖水)を塗れば、死後硬直した体に血の気がめぐり、黒ずんだ皮膚が白く澄んでただ眠っているような姿に戻る」と水の効果を宣伝している。

皮肉にも再臨のキリストと自称し自ら「神」と宣言した朴泰善氏は1990年2月に持病の肺結核と肝臓病、糖尿病などの合併症で治療を受け死去した。その聖水は教祖を救うことはできなかったようだ。

女性信者らに対する性的暴行の罪で現在も服役中の万民中央教会(李載禄=イ・ジェロク服役囚)も聖地から湧き出る水に特別な効果があると教えてきた。公式サイトには「信者たちの信仰と強い願い、イ・ジェロク牧師の時空を超えた祈りによって務安(ムアン)地域の汽水も甘い水に変化させる創造の歴史をお作りくださった」と紹介。この甘い水について「米国FDA(アメリカ食品医薬品局)の調査結果でミネラルが豊富で極めて良質な水であることを実証された」と説明している。「この水を口に含むと奇跡的な癒やしが起き、一重まぶたが二重になる」と驚きの体験談が書かれている。ところがこの水は甘い水どころか塩分濃度が高く、国の基準値以上であることが判明し使用が禁止となった。

万民中央教会のイ・ジェロク服役囚(堂会長)は自称「神同格の存在」と主張、信者から崇められている。

現在、使用禁止となった万民中央教会の湧き水(写真:現代宗教)

ハレルヤ祈祷院の女性指導者キム・ゲファ院長は神から「水の歴史が始まるだろう」という声を聞いたと言い、「この水を飲むものは病気から解放される」と宣伝した。また「この水は福音のために与える水だから飲めば罪の悔い改めが起き、福音を伝える霊を受ける」と神から告げられたと教える。キム氏は聖水によって水虫やさまざまな皮膚病が治り、骨折しても元に戻り、全身大やけどを負った人も皮膚がよみがえり髪の毛も生えそろったなどと主張。彼女のもとには癌患者から身体的障がいをもつ人まで集い、1日に500人を超える日もあった。信者は5万ウォン(約5000円)を握りしめキム氏に詰め寄るのだ。この額が初回の祈祷代とされている。

キム氏は「聖霊の手術」という奇跡を通じて素手で癌患者の腹部を切開する、などと宗教活動の範疇を逸した儀式を行なう人物。その効果について「全くの偽物だった」という証言が多く語られている。

病気が治るという奇跡の薬水を報じるキリスト教福音宣教会の摂理ニュース(写真:現代宗教)

効果がない月明洞の水を体験した信者たち

キリスト教福音宣教会(通称=摂理)は月聖水(ウォルミョンス)が特別な水であるとし「各種皮膚病と生活習慣病、癌と不治の病が薬水によって治癒した信者がすでに数万人に上る」と宣伝している。信者たちは教団の教えを信じて月明水を飲み、痛む部分に塗って治るように祈るのだ。治療目的だけでなく、あらゆることに良い水だと信じている。美容目的やダイエットにも使われる。試験でよい結果が出るように信じて飲むケースも。霊的な“癒やし”などスピリチュアル効果があると信じて飲む者もいる。文字通り、すべての病気を治す水としてキリスト教福音宣教会にとってなくてはならないものなのだ。

Aさんはキリスト教福音宣教会の月明水について「治癒の生命水」として祈りを捧げてから飲めば「胃腸の病が治る。それだけではない精神的な病気も治す万能な水だ」と聞かされたと証言した。当時、結核を患っていたAさんは聖地“月明洞”に毎月1、2回は足を運び2リットルのペットボトルに薬水を汲んで持ち帰った。また時間がない時は別の信者に頼んで汲んできてもらったという。毎日欠かさず飲み続けた。入院した時も信者が大きな水筒に薬水を入れて届けてくれた。しかし、教団から聞かされた効果は期待できなかった。長く患う胃炎も治らず、ただ周りで病気が治ったという噂だけが耳に入った。

治った人物を実際に見たことはない

Bさんは「教団で月明水が不治の病を治す」と聞いたと証言した。また、病気が治らなくても目に見えない心の病や霊的な部分を治してくれると聞き信じてきた。「だから飲んで効果が期待できなくても心の慰めだったことは事実だ」という。Bさんは「ある教団の女性牧師が薬水を飲んで胸が大きくなり理想的な体型になれたという話を聞かされた」と言い、「ただ実際に見たわけではなく噂で聞いただけだ。説教の時間にそういう話は聞くけれど誰がどのように治ったのか具体的な話はなく、ただ薬水効果について語られるだけだった」と明らかにした。

Bさんは胃炎が悪化して体調が優れず、ストレスによる抜け毛に悩んだ。それでも薬水の効果を信じて聖地月聖洞に毎月2、3回は訪れて水を持ち帰って大切に冷蔵庫で保存したという。スプレーボトルに入れて顔にかけたり、頭を洗ったりした。また目薬として使用する信者もいたという。13年か14年も使い続けたがまったく効果はなかった。

Cさんは「教団から月明水は一般水に比べミネラル濃度が数百倍多く、体に一番良い水だ」と聞かされたと証言した。この水を飲むために聖地に行くか、他の信者にお願いして持ち帰ってきてもらったという。Cさんは「月明洞に毎日行くことはできないので節約しながら飲んだ」と言い「朝、この水を電子レンジで温めて飲んだこともある」と語った。休みになると聖地近くで1ヶ月ほど教団の合宿に参加したがその時は毎日飲むことができたという。

ある時、顔がひどく炎症を起こしたことがあった。薬水を治療目的に使った。1年間飲んだり、塗ったりしたが炎症は治らなかった。皮膚科で診察を受けた後、処方された軟膏を塗ったら翌日からかさぶたが出来て炎症は治りはじめた。Cさんの知人は薬水ダイエットをしたものの効果がなかったという。

Dさんは「1980年代から90年代まで月明洞で湧き出る薬水で風呂に浸かると健康になると言われ厳寒の寒さの中で冷水浴を続けた」と証言した。「多くの信者が同じ風呂に入るので水も汚れていると思ったが万病に効くと。摂理の信者は愚かなことばかりだ」と述べた。

Eさんは「月明水を飲むときに送り主(教祖・鄭明析氏=チョン・ミョンソク)の名前で祈れば、神様が悔い改めの祈り以外はすべて聞き入れてくださるという話を聞いた」と証言した。また、女性信者らに対する強姦致傷罪などで10年間服役していた鄭氏が出所後、「説教中に信者たちが月明洞の薬水の価値をわかっていないと怒り心頭に語ることが多くあった」と述べ、「教祖が薬水を神聖化したことで迷信的な効果が促進されてしまったようだ」と明らかにした。

このように多くのキリスト教異端カルト指導者らが水に神秘的な効果があるように宣伝してきた。信者たちは飲めば病気から解放され、ある人は美しくなって心の病まで治ると信じてきた。キリスト教福音宣教会は「薬水の効果があった」という人の証言を紹介している。しかし、教団は具体的に体験者を紹介することはなかったし見たこともないと証言者(A~E氏の)らは語る。教祖によって水はスピリチュアルなものに化け、信者に叶わぬ希望を抱かせる。これらの行為は教祖への信仰強化であり、このような問題は速やかに食い止めなければならない。