例年、春はカルト団体にとって新規メンバーをリクルートする書き入れ時です。昨年からコロナ禍のために様相が一変しましたが、大学のキャンパスでは毎年この時期たくさんのサークルが競って看板を並べ、ポスターを貼り出して新入生に声をかける光景が見られます。大学での新しい生活に胸を躍らせて入学してきた若者たちにとって、知り合いが誰もいない新しい環境で、自分に親しげに声をかけてくれる先輩たちはうれしい存在です。
その中に少なからず、のちにマインドコントロールされれば社会や親を敵視し、学業も就職も放棄し、すべてを犠牲にしてひたすら教祖に服従するような泥沼に引きずりこむ異端・カルトが紛れ込んでいます。1970~80年代にキャンパス・カルトの主流だった原理運動(大学原理研究会=統一協会)は、街頭で黒板にチョークで図を描き殴りながら熱く“真理”を語る講義調のスタイルで当時の若者たちを引きつけていました。今では、スポーツや文化サークル、国際交流などの楽しい活動を装って人を集める偽装勧誘が増えています。
いずれも、誘われてサークルの拠点に行くとみんなから温かい言葉で迎えられ、素晴らしい歓迎を受けます。そんな経験をしたことがなかった若者は、それだけで他にはない魅力を感じて惹きつけられてしまいます。これは「ラブシャワー」というマインドコントロールの手法の一つです。まず、これでもかというほどの“愛”の歓迎を滝のごとくに注ぎます。それだけで、特に地方から都会に出てきて一人暮らしを始めた若者などは、自分の居場所を見つけたような気分になり心を許したくなります。
しかし一歩中に足を踏み入れれば、巧みな心理操作を受け、その組織の中にだけ真理があり、外の世界(特にその組織に反対したり危険性を警告する親や人々)はサタンに支配されているという二元論的な考えに染め上げられていきます。そして、組織の中で上から言われることは疑わずになんでも服従するカルトのマインドに支配されてしまうのです。4月の新入学時期とともに、5月のゴールデンウイーク明けが、異端・カルトの勧誘に特に注意が必要な時期です。「5月病」と言われるように、新しい生活が始まって少し日がたち、長い休みが明けると最初の新鮮な緊張感も薄れ、不安や憂鬱な気持ちに襲われる人も出てきます。そこへ優しく声をかけてくれる“先輩”たちのラブシャワーは効果てきめんです。
また、これは新入生や季節に関わりませんが、大学生活の中では勉強や進路が自分の思うように行かずに挫折感を覚える経験をすることも少なくありません。そのような心理状態の時にカルト団体に誘われると、親身に話を聞いて受け入れてくれると感じて、大学生活では得られなかった自己実現がそこでならできるような気持ちになりやすいということがあります。「ここに自分の居場所がある」と錯覚に陥るのです。オウム真理教でサリンやVXガスを製造した幹部の土屋正実(2018年に死刑執行)は、大学院で化学の研究に行き詰まっていた時にオウムに出会い、研究に必要な最高の設備や機材をなんでも思い通りに提供してくれる環境を与えられて「自分の居場所」を見つけたと思ったのが、大量殺人にまで手を貸すようになってしまった最初の入り口だったといわれています。
以上は、従来のカルト組織が大学のキャンパスで若者を取り込む典型的なパターンの一端ですが、異端・カルト110番は最近の異端・カルトの手口を取材・調査しています。次にそれらのいくつかを紹介します。
アプリを通じた巧妙な勧誘活動
本紙で取上げる韓国系、中国系のカルト団体は信者が布教目的を隠してアプリに登録し接触できた相手を信用させてから徐々に教えに引き込むやり方を続けています。他にもTwitter、サロン、自称カウンセリング、キャンパス内でのサークル勧誘とさまざまです。取材を重ね、脱会者や関係者から得た情報をもとにまとめました。
最も多いのは異文化交流アプリ(ハロートーク等)を通じたカルトとの出会いです。英語や韓国語、中国語などさまざまな言語交流を気軽に楽しめる画期的なアプリですが、登録している相手と親しくなり実際に会うこともできます。学生はこのようなアプリにほとんど無警戒で数回のメッセージのやり取りで相手をすっかり信用してしまいます。親しくなると一緒に出掛けたり、異性の場合は恋愛まで発展できることからとても人気です。ところがカルト信者は一般的な出会い、交流を求めるふりをして登録し、相手と会い、仲良くなったタイミングを見計らって彼らの「聖書勉強会」に連れて行きます。
聖書勉強といえば怪しまれるので「交流会」「イベント」「心理テスト」など宗教色を隠した集まりを演出するのです。特に外国語を学ぶために登録した人はこうしたイベント参加を拒めない傾向があります。韓国が好きなら「韓国人留学生と交流できる」と期待してしまうからです。また親しくなった相手の周辺に登場する友人、知人という存在の多くはカルト側が最初から用意した「演出」です。偶然を装い、一人のターゲットを組織に引き込むために何人もの信者が待機しています。
見ず知らずの人を簡単に信用してはいけない
このような勧誘は正体を隠した「偽装勧誘」と呼ばれ、違法性が問われる悪質なものです。ただ、アプリに潜むカルトとの接触を事前に見抜いたり、防ぐことはほぼ無可能だと思います。最低限の予防策として、ネットを介した交流、出会いは個人情報を簡単に渡さないこと、見ず知らずの相手と会うということはカルトだけではなく他の犯罪に巻き込まれるリスクがあることも十分に理解した上で利用してください。
当初の話しと違う!聖書、キリスト教が出て来たら注意を
出会った相手からイベントなどに誘われ、そこで「聖書(バイブル)」、「キリスト教」などのワードが出てきた場合はまずカルト団体の可能性を疑われます。イベントでも個人情報を書かされることが多いので注意しましょう。変だと思ったら遠慮なく関係を切る、LINEならブロックする、曖昧な態度をみせると何度も接触してきます。はっきりと「NO」を示しましょう。本紙にはたくさんの学生から「このようなところで学んでいるが」と問い合わせがきます。何かしら「おかしい」と感じるものがあるようです。そのタイミングで外部に相談することは大切なことです。自分の目で判断し、比較し、理解することはこれからの社会生活で求められてくることだからです。「言われたまま」を鵜呑みにするほど恐いものはありません。
■キリスト教福音宣教会(摂理=CGM)
■新天地(心理学、人文学、哲学、韓国語交流会を称したイベントに誘う)
■全能神教会(宗教と人権を考える会という団体名で学生にイベント参加を呼びかけ)
■統一教会(CARP《カープ》という団体の活動が活発)
この4つはアプリ、SNS、偽装サークル(イベント)、サロンを通じて彼らの教会に引き込みます。実害がこれでもかというほど報告されているキリスト教の異端であり、カルトです。勧誘してくる相手は多くは日本人の学生(先輩)です。または大学に関係する卒業生です。信者である留学生が勧誘することも多いので気を付けてください。上記の団体は入信する寸前か、入信して初めて正体を知ることになります。それまで徹底して隠そうとします。だからわかりにくいのです。
ネット上で活動するバーチャル宗教にも注意
他にもホームページや信者が発信しているTwitterから引き込まれてしまうのは日本版自称再臨のメシア(中心者)を主張するRAPT(ラプト)理論です。教祖のラプトこと中村氏は、なんの根拠もない陰謀論をTwitterで撒き散らし、批判者や脱会メンバーの写真、実名をネット上に晒して誹謗中傷を展開しています。キリスト教福音宣教会(摂理)の元信者で辞めてから、自分が「中心者」だと主張するようになりました。ラプトは陰謀めいた過激な思想が一部の若者にウケて、興味をもった読者が公式サイトから御言葉集を購入しています。バーチャル宗教ですが遠隔で思想が支配される危険なグループであり異端です。この団体を警戒する教育機関も増えています。ラプトに限らず、聖書を使った正体不明の自称カウンセラーも存在します。
キャンパスでのサークル勧誘は要注意
キャンパス内での声掛けも未だ続いています。サークル勧誘には注意が必要です。こちらも宗教色を隠してさまざまなジャンルで活動しています。どの人も真面目で明るく優しいです。カルト信者は凶暴で見た目からして「怪しい」・・・これは正しい情報ではありません。まずは魅力的だなと思えるサークルでもすぐに入会しないことです。「一度検討します」と言って案内をもらうだけにしましょう。
初対面の先輩に個人情報を渡してはいけません。求めてくる方も非常識です。そのようなことは「おかしいことだ」という常識を持ちましょう。キャンパスは安全でしょうか。問題は起きないと思いますか。カルト被害だけではなく、サークルを通した犯罪はよくニュースになります。「ノリ」で判断しないことです。じっくり検討し、友達と話し合い、可能ならそのサークルがどんなところか大学側に相談してみるのも良いでしょう。
サークルを通じた勧誘は親密な人間関係から強い絆が生まれ、学生同士が依存しあっているので簡単には抜けられなくなります。日本は義理の文化です。「よくしてくれたので」という思いからだらだらと関係を深めてしまうことがあります。実際に国内の大学が名指しで警戒を呼びかけているキリスト教福音宣教会は、この偽装サークル、イベントを通じて学生勧誘に取り組んでいます。学生信者は専門のセクションでどうしたら学生を無警戒のまま教会に引き込めるか、また学生の心理状況なども日夜研究しており、勧誘も巧みです。
最近は検索しても見つからないような無名の新しいカルト宗教が増えています。キリスト教系も例外ではありません。大学によっては積極的にカルト被害防止を訴えているところもあります。注意事項をよく見て、「気を付けよう」という心構えで過ごしてほしいと思います。
カルト団体が個人情報を必要とする理由
カルト団体の多くはイベントやサークルに誘った時点で電話番号、メールアドレス、LINEを聞き出そうとします。また彼らの教会に足を踏み入れる頃には入信の過程(レベル)で親の名前、職業、生年月日から住所、連絡先まで書かされることがあります。家族構成、親戚がどこに務めているのかまで記入する場合も。脱会者によると辞めた途端に実家に電話や手紙が送られ、脱会をさせまいと説得したり、なかには家の前や最寄り駅で待ち伏せされたこともあったそうです。カルト側は脱会して組織の秘密(教理、内部事情)を漏らされることを極端に恐れています。個人情報を書いたことで後悔し、脱会後にトラブルに巻き込まれた人もいます。十分に注意してください。(異端・カルト110番)