コロナ感染拡大のかげでカルト宗教の布教が勢いづいた。事件、裁判、今年を振り返る

現代宗教 2020.12.28

2020年は韓国社会においてキリスト教異端、カルト問題が社会的に大きく注目された極限の年だったと言えます。「新型コロナウイルス」によって社会的批判に晒された新天地イエス教をはじめ、女性信者を性的暴行した万民中央教会の李載禄氏(服役囚)は被害者に損害賠償が命じられ、恵み路(ウネロ)教会の申玉洙氏も懲役7年が確定した年でした。またコロナによる影響でオンライン活動が活発化した一年だったとも言えます。現代宗教が報道した事件の中で10大事件を選びました。(編集長注)

1 新天地の教祖・李萬煕が逮捕されました

拘留先の留置場から保釈され出てきた李萬煕被告。国民に土下座して謝罪した姿は世界配信された(画像:現代宗教)

新天地(正式名称=新天地イエス教証拠〈あかしの〉幕屋聖殿)の総会長李萬煕(イマニ=89)氏は信者が感染した新型コロナの防疫調査を組織ぐるみで妨害、隠蔽した感染症予防法違反と教団献金の横領、業務妨害などの罪で逮捕されました。コロナがきっかけとなり国際規模の反社会カルト宗教としての実態が明るみに出ました。ソウル市と大邱市から損害賠償請求を受け、教団が運営する平和運動団体HWPL(天の文化世界平和復興)法人設立許可の取り消し、国税庁による強制捜査と告発、教祖を含む主要幹部らの自宅や関連施設への一斉家宅捜索、イ・マニ被告をトップとする13人の幹部逮捕など新天地のニュースは世界的に注目を浴びました。肉体が死なない「永世」の存在として神格化される自称救い主は、拘置所から出廷した公判で「自殺してでもこの苦痛を免れたい」と泣きながら保釈許可を求めたことも話題となりました。裁判所は89歳という高齢を主な理由に条件付きで保釈を許可しました。検察はイ・マニ被告に懲役5年を求刑、判決は1月13日に言い渡される予定です。

2 異端の教え、カルト宗教の宣伝活動がオンラインで活発に

YouTube配信でグッドニュース宣教会・朴玉洙氏の聖書セミナーが行なわれた(画像:現代宗教 出典・グッドニュース宣教会)

コロナの感染拡大で社会は「非接触型」という新しい暮らしに入りました。異端、カルトと規定を受ける宗教団体もすぐにオンラインに切り替えて生き残りを賭けた新しい戦略に出ました。故・安商洪(アンサンフン)氏を再臨のキリストと拝む神様の教会(神様の教会世界福音宣教協会)はYouTubeチャンネルよる説教を約50カ国語で配信。統一協会(天の父母様聖会・世界平和統一家庭連合)や万民中央教会(GCNTV)なども様々な言語でイベントや説教を生中継するなど力を入れました。中国発祥のカルト集団として警戒が強まる全能神教会は隠されていた秘密教理をネット上に公開し始めています。自称再臨のキリスト楊向彬(ヤン・シャンビン)氏の存在をほのめかす宣伝用の映画とオリジナル動画を9カ国語で配信しています。またアメリカ発祥のモルモン教も彼らの経典をベースに短編映画を製作しました。救援派(クオンパ)のグループ「グッドニュース宣教会」は朴玉洙(パクオクス)氏のオンライン聖書セミナーを中心にオンラインキャンプ、関連団体のイベントPRに精力的に取り組みました。同じく救援派のグループ「大韓イエス教浸礼会・命の御言葉宣教会」(代表イ・ヨハン氏)もオンライン聖書講演会を立ち上げました。

2020年は異端教理がネット上に駆け巡った異例の年となりました。誰でも無料で視聴できることから既成教会の牧師まで影響を受けるなど十分な注意が必要です。

3 キリスト教福音宣教会が月明洞薬水を販売

神秘的な効果が期待できるという摂理の聖地「月光洞薬水」が問題となった(画像:現代宗教)

自称再臨のメシアとして教団内部で信仰される鄭明析(チョンミョンソク)氏が率いるキリスト教福音宣教会(通称:摂理 CGM)は聖地月明洞(ウォルミョンドン)の薬水を「神秘の水」と謳って信者に販売していたことが明らかになりました。摂理は「世界で一番良いとされるミネラルウォーターよりミネラル成分が8倍も豊富に含まれている」と主張。「さまざまな皮膚病や生活習慣病、癌、不治の病など40年間にわたり、月明洞の薬水を飲み病気が治った人は数万人にのぼる」と宣伝しています。後援金1万ウォン(約千円)を振り込めば薬水が自宅に配送され、専用のコップまで販売されています。この水を飲み続けたという信者たちは、摂理で薬水の効果について体験談を聞いたが実際に治った人を直接見たことがないと告白して注目を浴びました。

4 カルト宗教の二世信者問題は極めて深刻です

キリスト教福音宣教会の経典「30講論」を学び終えた信者たち、修了式は二世たちが参加した(画像:現代宗教)

カルト宗教に入信した両親から生まれた子どもの人生は苦労の連続です。二世信者たちは生まれた時からカルトの組織が唯一の居場所だからです。幼い時から聞かされる教祖の偉大性と武勇伝、特別な内部の教理、独自文化に触れれば自然と信仰をもつようになります。自宅には教祖の写真や掛け軸が飾られ、友達との遊びも断り、塾にさえ通えない子は大勢います。自分の意思と関係なく教会に通い、成長するにつれ現実と教会の溝に疑念を抱くようになるのです。両親に比べ教えにコントロールされていないケースが多いと言われています。日々葛藤しているのです。辞めたくても簡単に抜けることはできません。家族を置いて未成年や学生の身分である二世はどこへ行けるでしょうか。カルト宗教だと目覚めて離れたくても自立して暮らす貯蓄すらありません。「脱会すれば地獄へ落ちる」「辞めたら不幸になる」という教祖の言葉が頭から離れず苦しみもだえているのです。

社会が二世信者のケアや相談にどのように取り組むべきか考えさせられる一年でした。

5 永遠の福音チャンネル「2020年世の終わり、携挙を宣言」またしても不発

クォン牧師(パスター・クォン)が運営する「永遠の福音」YouTubeチャンネルで今年も世の終わりを宣言したが不発に終わった(画像:現代宗教)

キリスト教宣教団体でクォン牧師(パスター・クォン)が率いる永遠の福音は終末思想に焦点を合わせた「携挙(けいきょ)」「空中再臨」を日時指定で預言するグループとして有名です。今年も「終わりが来る」と宣言したものの不発に終わりました。2020年9月中旬にクリスチャンは瞬間的に消え、空中に引上げられる(キリスト教用語で携挙という)と預言しました。その後、空中再臨が起き7年後には苦難の時代が世界を襲うと教えました。2027年に地上にキリストが再臨し世界は終わるという主張です。しかし何も起きませんでした。多くの信者はクォン牧師の言葉を信じて活動拠点があるフィリピンに集まっています。今回の失敗についてクォン牧師は動画で「神によって引き延ばされた」と解説しました。信者は自分たちの信仰が未熟だから神は計画を延ばしたと信じているようです。新しい啓示では2021年9月7日に世界が終わると語っています。この団体は2017年9月23日にも世界が終わると主張して物議を醸しました。このような預言を「期限付きの終末論」と言い、人々の不安を煽り、自分に従う信者の共同体を作ろうとするなど注意すべき点が多いのが現実です。

多くの異端教理、カルト宗教は世の終わりを定めています。それを目標に活動しているのです。

6 新天地の教理が盛り込まれた聖書が一般の書店で販売されていた

韓国の人気大型書店「教保文庫」で販売されているグッドバイブル。内容が新天地教理と一部酷似していることが発覚した(画像:現代宗教)

グッドバイブルが出版する改訳韓国語聖書の一部の内容が新天地で教える独自教理に酷似していることがわかりました。新天地の解説書「ヨハネ啓示録の実像」とよく似た内容の注訳が見つかりました。解説書では「ヨハネの啓示録(黙示録)が成就する時に新天地のイ・マニ総会長が実状を見て証拠とするためイ・マニという証拠を得なければ救いに達しない」と書かれています。なぜ、新天地の啓示録を説く独自教理がグッドバイブルに書かれたのか、新天地を擁護していると誤解を招く恐れがあり早急な実態解明が急がれています。この聖書は大韓聖書協会が定めた規定に違反している恐れがあり問題になる可能性がありそうです。

7 万民中央教会と李載禄氏に12億8000万ウォンの賠償命令

自分を聖霊と信じさせ女性信者に常習的に性的暴行を加えた罪で懲役16年の有罪判決を言い渡された万民中央教会の教祖李載禄氏(服役囚)(画像:現代宗教 出典・中央日報)

自称聖霊様として信者を率いる万民中央教会の堂会長李載禄(イジェロク=現在は服役囚)氏は教会女性信者に「聖霊様との交わり」などと言って性的暴行を加えた「準強姦罪」の罪で有罪となり懲役16年の実刑判決を言い渡されました。教祖は現在も刑務所に服役しています。高裁は万民中央教会に対し、被害女性に12億8000万ウォン(約1億8000万円)の賠償命令も言い渡しました。被害女性らは損害賠償請求訴訟で一部勝訴し被害者4人に2億ウォン(約2千万円)、他の3人に1億6000万ウォン(約1600万円)をイ服役囚と万民中央教会が共同で賠償するよう判決が下されました。裁判所は「イ・ジェロク氏が被害者たちの心理的拒否能力を奪い、意のままに性的暴行を加え、強制わいせつ行為を犯し続けた。これは常習的な準強姦罪で明確な犯罪と見なすことができる」と指摘。教祖が収監されると娘たちによる権力闘争が勃発。教団は分裂しました。2つの勢力で互いにいがみ合っています。

三女イ・スジンは後継者として堂会長代行を務めましたが幹部信者との不倫が発覚。のちに代行を辞職する意思を明らかにしました。万民中央教会は教祖の過去の録画説教を繰り返し聴きながら等身大の人形やパネルを作り、拝むなど神格化は続いています。

8 フィジーが最後の楽園 恵み路教会の教祖が懲役7年で服役

恵み路(ウネロ)教会の申玉洙(シンオクチュ)氏。韓国社会に激震を与えた暴力的カルト宗教の教祖は刑務所へ送られた(画像:現代宗教)

フィジーが最後の楽園、そう主張して信者を移住させた恵み路(ウネロ)教会の教祖・申玉洙(シンオクチュ)氏が最高裁で懲役7年の有罪を言い渡されました。シン氏(現・服役囚)は自称聖霊様として信者から崇拝されています。信者は集団生活をしながら異国の地フィジーで無償の重労働を強いられました。悪霊を追い出すという理由で一日の反省を懺悔しながら信者同士で激しく顔、頭を叩き、腹部を殴るという宗教儀式を行ないました。シン氏は未成年の女子中学生を殴り、剪定バサミで髪の毛を切るなど異常な行動が明らかになったのです。原因不明の死者も出ています。脱会を試みた信者を拉致監禁し暴行を加えた罪で指名手配され逮捕されました。シン氏は共同傷害罪、特殊暴行罪、特殊監禁罪、詐欺罪、児童福祉法違反の罪などで起訴されました。裁判所は「ウネロ教会の信者から報復されるのではないかという恐怖を抱く人たちは多い。(中略)シン氏や信者から虐待を受けた被害児童たちは依然、ウネロ教会で暮らしている。児童たちの正常な発育に支障をきたしている」と指摘しました。過去には主要教団の総会を妨害しようと実力行使に出たり、敵視する牧師を襲撃するなど過激な思想に支配されている信者が多いです。

教祖が収監されたことに抗議してYouTubeチャンネルを開設。釈放を求め過激な発言を繰り繰り返しています。露骨に他人を誹謗中傷するため共感を得ているようには思えません。信徒数はわずか。今後も拡大する見込みは低いと言われています。暴力行為を正当化する教会だけに警戒は必要です。

9 統一協会の二代目再臨主、韓鶴子氏を神格化する動きが加速

統一協会は文鮮明氏の妻である韓鶴子氏が実権を握り神格化を加速させている。自分の石像をつくり信者を拝ませた(画像:現代宗教)

旧・統一協会(正式名称=天の父母様聖会・世界平和統一家庭連合)は再臨のメシアとして信仰された教団創設者の故・文鮮明(ムンソンミョン)氏が死去すると妻の韓鶴子(ハンハクジャ)氏が事実上のトップに登りつめました。驚くことに文鮮明氏を批判するメッセージを発信し自分こそ再臨のメシア(真のお母様)だと宣言したのです。最近は「天の両親が休む場所」と称して聖地清平に次々と建造物を新設しています。鶴子氏が率いる統一協会は初めて「独生女(トクセンニョ)」という言葉を使いました。神の独り子イエスのように自分は神の独り子(女)鶴子だという主張です。神格化がエスカレートしています。この一年はイベントが続き、オンラインを通じた世界配信にも力を入れていました。

10 中国発祥のカルト集団「全能神教会」 新しい活動拠点を各地で作り始めている

3月に全能神が約36億ウォン(約3億6千万円)で購入したユースホステル(出典:韓国観光公社)

韓国で活動が活発化している中国発祥のカルト集団「全能神教会」は今年になり江原道平昌(ピョンチャン)に活動拠点を設けました。さらに江原道でユースホステルを約36億ウォン(約3億6千万円)で購入しました。韓国の全能神は地下教会ではなく、教会として建物まで保有し公に活動しています。中国人信者だけの部落まで見つかっています。彼らは不動産購入に力を入れているようです。いまや韓国全土で全能神の広がりが社会的脅威となろうとしています。中国で殺人事件を起こし、暴力的な宗教であることは一目瞭然です。また、宗教弾圧をうまく利用して自分たちが被害者であるという主張をネットで配信しています。各地で確認されている全能神の施設は中国から入国する信者が寝泊まりする場所として利用するものと思われます。

2020年、コロナ被害拡大のかげで異端教理とカルト集団の動きは活発だったことがわかります。ネットは誰でも自由に見ることができます。内容が面白く、視覚的な効果も工夫されているので引き込まれやすい危険があります。事前に情報を調べ、どのような点が問題なのか十分に吟味した上で正しい判断を下してほしいと願います。