J.Y.Parkのエッセイに疑惑が。異端・カルト問題の専門家やメディア「一般の福音理解からかけ離れている」。救援派の教理そのものとの意見も

NiziU、TWICEなど人気アイドルグループをプロデュースし今をときめく超人気プロデューサー、パク・ジニョン(J.Y. Park)氏は2010年頃から芸能活動を通じて自身を「クリスチャン」「聖書を信じている」と公言するいわゆるクリスチャン芸能人の一人として認識されてきた。その人柄も魅力で「プラス思考」の発言はアイドルユニット輩出でますます注目されるようになった。2017年から18年にかけてパク氏はキリスト教の聖書勉強会やサロンなどに芸能界仲間を呼んで熱心に伝道(布教)する様子が話題になった。しかし、直後に週刊誌などがパク氏は救援派(クオンパ)と呼ばれる韓国の異端・カルト集団規定を受ける教会メンバーではないかとスクープで報じた。そんなパク氏が自分の人生について綴った著書『何のために生きるのか』を出版。その内容に様々な意見が飛び交っている。

韓国の既成教会から「救援派」と呼ばれるグループは3つあるが、パク氏が信者ではないかと疑惑がもたれるグループは、2014年4月16日に修学旅行中の高校生らを乗せて沈没事故を起こした旅客船セウォル号の運行会社「清海鎮(チョンヘジン)海運」の会長や従業員らが関係していた「キリスト教福音浸礼会」だ。通称兪(ユ)グループはこの教会を母体に関連事業体として運営されていたと考えられている。

故・兪炳彦氏(画像:現代宗教)

2014年4月16日に修学旅行中の高校生らを乗せて沈没事故を起こした旅客船セウォル号。関連会社のずさんな運営はバックにある宗教団体の教理が深く関係していると指摘された。

その後、沈没事故は事件として立件され関係者が立て続けに逮捕起訴。不正と金にまみれた代表故・兪 炳彦(ユビョンオン)氏のファミリー企業、教団の闇の実態が明らかになった。兪会長(当時)はこの教団の事実上の教祖だったのだ。周辺では過去になぞの遺体遺棄事件が起き、事件のカギを握る兪氏も逮捕直前に行方不明になり後日ソウル郊外のリンゴ畑から変死体で発見された。悲劇的な事故で子どもたちを亡くした遺族は現在も追悼式や抗議運動を続けている。現在も教団は事故との関係を否定し、明確な謝罪は述べられていない。

パク・ジニョン著『何のために生きるのか』

パク氏は人気絶頂のこのタイミングで、自称クリスチャンとして「信仰書」(自分をキリスト教徒だと公言する著書)と言って過言ではない本を出版した。クリスチャンとして、彼は福音を伝える伝道師だと紹介している。本誌は、韓国主要教団の総会規定を判断基準に聖書の教えから明らかに逸脱した「異端」とその教えによって反社会的な活動を行なう「カルト」について様々なニュースを報じるメディアだ。今回の著書について韓国の異端・カルト問題研究家や主要教団を母体とするメディアは、救援派(キリスト教福音浸礼会)の教えに酷似した内容だと断言した上で一般の教会が説く福音とパク氏が強調する福音の違いなどを取上げている。本紙はパク氏個人を非難するものではなく、読者に事実を知らせるという意味で特集を組むことにした。救援派の教理はそれほど危険だと多くの教会が危機感を募らせているからだ。

パク氏「誰かに届けたいという思いで書いた」

パク・ジニョン氏は韓国の人気歌手であると同時に大手エンターテイメント会社JYPの創業者でもある。有名ドラマでも俳優として出演するなど多彩な活躍で常に注目されてきた人物だ。人気アイドルグループをプロデュースする才能は韓国にとどまらずアジアで大きな影響力を持ち始めていることは確かだ。そんな彼が1冊の本を出版した。『何のために生きるのか』、その冒頭で彼は出版を決意した理由をこう書いている。「この本を通して空しく、寂しく不安や恐怖に悩む誰かに、そしてなによりも人生を諦めようとする誰かに生きる明確な理由を与えられたらと願う」(10ページ)。誰かに届けたいという彼の思いは、キリスト教の福音を伝えたいからだとはっきり紹介している。

自分が体験した平和を語りたい 

さらにパク氏は「何のために生きていますか?」と読者に問いかけ、本を通じて読者が自分の過去から解放され、不安で揺れる人に自分が体験した心の平和について語りたいと書いている。

パク氏は芸能活動という厳しい現実の中で死生観について考える機会があったという。「なぜ私は生まれ、死んだらどうなるのか。何のために生きるのか」。彼はある出会いを通じてキリスト教の聖書に答えを見つけた。そこで学んだ教えから自分の罪を知り、信仰が成長して初めて救われた体験をしたことが紹介されている。熱心なパク氏は2010年から2年間かけて毎日10時間以上も聖書勉強に費やしたという。色々な牧師に出会い、神学生さながら聖書漬けの生活をしたと告白している。本には「救い」についてたくさん書かれているが、この救いの解釈や理解が一般の教会と異なることがはっきりわかるのだ。この部分を専門家たちは「救援派」特有の教えだと指摘している。

「悟り」による救いを強調 救われたら何も問題がないという単純な理論

彼は神との関係を通じて人間の罪を知るのではなく、存在論的に「救い」と「罪」を解釈しているのだ。わかりやすく言えば「人は救いの確信を体験して初めて、救いが何かを知り、救われる」と繰り返し紹介している。「悟りの救い」だ。また、救われたのだからそのまま天国という考えも顕著に現れている。教会では神を信じて、日々の生活の中で神と自分の関係を築きながら学び、失敗すれば悔い改め、赦しを体験して成長するように教える。ところが、パク氏は救われたらもう何も問題がないと主張している。救われてから人は「過去」、「現在」、「未来」どれも無駄ではなく大切な人生であるはずだが、彼はそう書いていない。単純な理論で聖書の救いを片付けているようにみえてしまう。

韓国基督教異端相談所協会会長の陳用植牧師は次のように指摘している。「『罪を悔い改めない』。この教えは大変危険です。教理的な問題に留まらず道徳的に歪んでいく思想だからです。自分自身が犯す罪も否定し、重大犯罪を犯そうが反省する必要がないという高慢にも繋がる思想です。」(本紙 2020年6月24日号「救援派(クオンパ)その実態と問題点を整理する」より)

罪がなくなると天国へ 独特な罪理解

パク氏は独特な「罪理解」を示している。著書245ページ「死ぬ前に一人でも多く天国に送ることこそ私が生きる理由であり、私のような醜く偽善的な人間がイエス様のおかげで罪がなくなり天国に行けることはとても恥ずかしく思ってしまうほどだ」とし、「生きている限り、神様のためになんでもしたい」と綴っている。これだけ読むとクリスチャンの模範のような言葉に聞こえてくる。しかし、「罪がなくなり」という理解はここだけで終わらず、彼の著書全体で強調されている。

他にも、クリスチャンは神の恵みを語るはずだが、パク氏は「救い」と「罪」について多く取上げるものの「恵み」という言葉を一度も使っていない。何か不自然ではないか。この点を強調するのも既成教会の教えと異なると指摘されている。

韓国の異端研究の第一人者で教会と信仰(専門メディア)で編集長を務める崔三卿(チェ・サムギョン)牧師はパク氏の著書について「明らかに内容がおかしい」と指摘。まず最初に「天国に行く基準」について、その問題点を指摘している。

パク氏、末期癌の患者に「罪がなくならないと天国に行けない」 罪はなくなるものなのか?

「私はある方と対話を深めるにつれ、天国に行く基準を誤解していることがわかった。イエスを熱心に信じて善良なクリスチャンならそのまま天国に行けると考えていたからだ。私は天国に入るには罪が一つもあってはならないと教えた」(パク氏著書239-240ページ)この「罪が一つもあってはならない」という言葉はおかしな福音理解だ。クリスチャンは罪が赦されたとは言えても、罪が一つもないという考えは救援派の「悔い改め方」に酷似しているからだ。

彼は病院の集中治療室で処置を受けている患者にも福音を伝えるため駆けつけることがある、と紹介している。A氏という患者は幼児洗礼を受けたクリスチャンだったという。末期癌で危篤だった。パク氏はその彼に「福音を伝える」ため「天国に行くには罪は一つもあってはいけない」と語りかけたという。A氏がこの語りかけにどのように答えたかについては書かれていない。ただ、A氏はパク氏の話に驚き動揺したと書いてある。「罪が一つもない人しか天国に入れない」という言葉に驚いたのだろう。しかし、A氏というクリスチャンは「救われた」存在であり、聖書の教えどおりなら「天国」へ行くことができる。しかし、パク氏は自分が救われた者としてA氏に語り、「罪がまったくない存在」という立場で福音を伝えたことになる。彼は著書の中でもクリスチャンに福音を伝えていることが多く確認できる。結局、A氏は息を引き取った。パク氏は絶望の思いに駆られ病院を後にしたという。「救われなかった」「天国に行けなかった」そうA氏について紹介している。「救われない者は地獄に行くから」というくだりが彼の独自の神学を示していることがわかる。

韓国オンラインメディア「オーマイニュース」は、パク氏の著書「何のために生きるか」や本人のYouTubeなどの発言から既成教会にはない解釈について指摘している。「(パク氏は)人は完璧な救いを確信してこそ本当に救われたのだと言い、(確信がない)救われなかった人に洗礼を授けることは救われる機会を奪うことだと教えている。また救われた瞬間を時点として正確に特定しようとする印象を受ける。真の教会と偽りの教会など4つの基準を定めており、彼は既成教会の大多数が偽物の教会だと主張している」。完璧な救いとそうではない救いの基準があり、救われた日時を正確に記憶する必要性や既成教会を批判する考えも救援派にみられる特徴だ。

パク氏が関係していると指摘される救援派の一つ「キリスト教福音浸礼会」は韓国主要教団(保守プロテスタント)から、聖書の教えから明らかに逸脱する「異端」であり、聖書の教えから逸れ反社会的な要素が見受けられる「カルト集団」(韓国ホーリネス1985年第40回総会規定)と規定されている。「悟りによる救い」を強調し、「いつどこで何時にあなたは救われたのか」という確信をクリスチャンに何度も迫ることで有名。自分たちの特異な教えに引き込んでいく特徴を持つ。また、救われる基準は自分の罪を悔い改めることで完了し、救われてから人は罪を悔い改める必要がないと説く。3つのグループとも、そのような教えではないと否定しているが、実際に特異な教理を今も信じていることは確かだ。

陳用植(チンヨンシク)牧師は「救援派の教理は悔い改める必要がないと考えるため、社会的な犯罪や日常の様々な問題なども『信じたのだからそれでよい』と開き直るような信じ方をする。反省や改善という言葉は彼らの信仰にはないようだ。これは傲慢だし、極端で危険な思想だ」と指摘している。陳牧師はパク氏がキリスト教福音浸礼会(救援派)の教会信者だとした上で、最近も論文やメディア出演で問題点を指摘している。

キリスト教ポータルニュース(2018年5月3日付け)はパク氏と救援派の関係性を追及する記事を掲載した。「パク氏は2018年5月2日『私は救われた』というテーマで『救いを悟る』という内容の説教を行なった。(中略)2018年3月にパク氏はソウルの某所で7日間にわたり聖書集会を開いていた。関係者はキリスト教福音浸礼会(救援派)の人間たちだった。パク氏はパーティーで信者らと食事をし、カフェでも信者たちと時間を過ごした。聖書集会を開いたA某ビルも元オーナー(故・兪ビョンオン氏)の系列会社だ。カフェもパーティー会場も兪グループだとわかった。さらに聖書集会はセウォル号事故を起こした関連会社「清海鎮海運」とつながる実業家B氏が支援していた。当時、B氏は兪グループで3億ウォン(約3000万円)を横領した罪で3年の禁固刑を受けた人物だ」。

パク氏が一人でクリスチャンの聖書セミナーを非公開で開催することは一般的に考えにくい。自分が所属する教会や支援団体を公にすることもしていなかった。彼が関係した場所や支援先も救援派という事実は何を意味しているのだろうか。

救援派の教えは宗教的道徳観に欠けるのではないか?カルト集団として警戒今も続く

改めて整理してみよう。パク氏が影響を受けているとされるキリスト教福音浸礼会(救援派)は、2014年に修学旅行中の高校生を乗せたまま沈没事故を起こしたセウォル号の運営会社「清海鎮海運」の事実上の会長だった故・兪炳彦(ユビョンオン)氏が率いる教団だ。兪氏は教団のトップであり教祖だった。高校生らを含む死者299人、行方不明者5人、捜索作業員の事故による死者8人を出した悲劇的な大事故は、最終的に兪氏とその親族にまで司法の手が及んだ。事故の運営責任に留まらず、教団系列会社の不正が次々に明らかになり逮捕者が続出した。彼らは巨万の富を得て贅沢三昧な暮らしをしていた。逮捕された親族らも出廷時に全身金色の衣装を着て高級ブランドの腕時計をつけるなど若者たちの悲劇の死を嘲笑うかのようにふるまったことで、韓国社会は救援派を痛烈に批判した。このような異常体質が反社会的「カルト」と主要教団が規定した要因だと考えられる。その根底には救われたら罪はなくなる、という宗教的道徳観も強く影響していると考えられている。

最終的に教団は事故を起こした海運会社の直接的な責任は問われなかったものの、キーマンとされた会長で教団トップでもある兪氏は逮捕直前にソウル郊外のリンゴ畑から変死体で発見された。ところが、その遺体は兪氏と似てもつかない容姿などから実は別人で本人は逃亡したのではないか、などとメディアはこぞって報じた。結局、事件の真相は闇に葬られたまま警察は捜査を終了した。

最近の救援派「キリスト教福音浸礼会」はかつてのような勢力はないと言われている。日本で活動は確認されていない。他2つのグループである朴玉洙(パクオクス)氏の「グッドニュース宣教会」とイ・ヨハン氏の「大韓イエス教浸礼会(命の御言葉宣教会)」は日本国内で活動している。

韓国で以前ほどの勢力はないにせよ、それでも芸能界に影響力をもつと言われ、パク氏もその一人だと考えられている。実際にパク氏に誘われ有名芸能人たちが救援派とみられる聖書勉強会やサロンに顔を出しているからだ。当時、パク氏本人は救援派との関係を強く否定した。本人曰く、自分が主催する(もしくは参加する)聖書勉強会に数人の救援派信者が紛れ込んでいてその様子が外部に伝わり疑われたという。韓国の異端問題研究家や主教教団の研究者、関連メディアはパク氏を「救援派の信者」と断定する報じ方ではなく、彼の疑惑と彼が出版した著書の内容について取上げている。ただ、主要教団の専門からは、パク氏は信者だとみて警戒を強めているという。「そうでなければ、救援派の教理をわざわざエッセイに紹介する必要はないはずだ」(某専門家)。

どの研究者もパク氏の「福音理解」は一般的なものではないとし、いわゆる救援派の教えに「酷似している」、または「そのものだ」と指摘している。パク氏は2018年に芸能関係のインタビューで救援派とは関係がないと反論、一部の記者を訴えると騒いだことがある。その後、救援派(キリスト教福音浸礼会)のものと思われるイベントに出入りしていることが撮られるとそれ以上反論しなくなった。

影響力がある人物から発信されるクリスチャンとしてのメッセージはファンに届き、良いかたちで広がることが期待される。今回の本を通じて読者にどのような影響を及ぼすのだろうか。もし、救援派の教えとして広がるなら聖書の理解が違うという批判だけではなく、あのような悲惨な事故と少なからず関係している部分があることを思うとただただ黙認することが良いことなのか非常に悩むところだ。異端でありカルト集団と規定される教理を広める救援派の教えの背後には若い(当時)高校生や関係者の痛ましい死という現実が今もあることを忘れてはならない。だからこそ、パク氏が語る「言葉」には、出版に携わる者を含め慎重に事実確認を行なうべきだと考える。異端・カルト宗教の信者やその教えに影響を受けている者は、関係性を否定することが多く、また実態を隠すケースも。韓国の異端研究の専門家をはじめ、本誌のアドバイザーやキリスト教情報に精通する人物らに広く意見を求める必要がありそうだ。国内では2月26日に某出版社から日本語版が発売される見通しだ。

ソウル在住の韓国人読者に質問すると「人により捉え方が異なる内容だと思う。救援派との関係性はさておき、彼の福音理解が一般とは異なることを取上げた方がよい」と答えた。また「あの事故を風化してはいけない。救援派の教えによりあの事故は起きたようなものだ」。

また、救援派の某教会から脱会し深刻な被害を受けた日本人女性はパク氏の著書に関する報道を見て「主張が救援派の教えにそっくりだと思った」と証言した。「これ以上、あの教えにより若者が惑わされてほしくない」と危機感を募らせた。「この(本紙)記事を若い方にも読んでもらいたい。自分で何が正しいか判断してほしい」と述べた。

 

出典・参考  教会と信仰、現代宗教、オーマイニュース、韓国基督教異端相談所協会、日本キリスト教異端相談所協会、韓国主要教団異端総会規定(2020年版)、CBS、国民日報、クリスチャン新聞