偽の難民申請書を作成し不当に利益を得る弁護士が後を絶たない。背後にはカルト集団全能神と通じるブローカーの影が

中国発祥のカルト集団「全能神教会」の中国人信者らが韓国で就労すること等を目的と称して入国し、中国からの宗教弾圧や迫害を理由に難民認定を求める動きが広がっている。手続きを代行する弁護士らが違法なブローカーを介し、多額の報酬を得て偽の難民申請を作成する「虚偽難民申請ビジネス」が横行していることがわかった。

2019年、ブローカーに依頼され、偽の難民申請を行ない見返りに多額の利益を得ていたA弁護士が逮捕され起訴された事件で韓国の高等法院は11日、出入国管理法違反の罪で同被告に対し、懲役1年執行猶予2年の有罪判決を言い渡した。共に起訴された共犯の法律関係者も罰金刑500万ウォン(約50万円)が確定した。

11日、韓国の高等法院は偽の難民申請を行なったA弁護士に有罪判決を言い渡した。(画像:現代宗教

A弁護士は2016年5月、偽の難民申請作成をブローカーB容疑者から依頼され、同年10月から12月までの2か月間にわたり不法滞在を目的に韓国に入国した中国人184人を「難民認定」させるため申請書類を作成した疑いが持たれていた。先に逮捕されたB容疑者の供述からA弁護士の関与が明らかになった。

中国人184人は「全能神教会(CAG)」、「法輪功(ファルンゴン)」などの信者とみられ、中国政府から宗教弾圧や迫害を受けて韓国に逃れてきたなどと嘘の理由で難民申請を行なったとされる。ブローカーは報酬として一人当たり200万から300万ウォン(約20~30万円)を支払っていた。しかし、実際に宗教弾圧などを受けた事実はないことが確認された。弁護士も全能神の信者であることがのちに判明した。

またA弁護士は2017年2月1日から16日にかけて滞在資格のない中国籍の男性一人を自分の法律事務所に雇用し、これら難民申請の通訳業務をさせていたことも明らかになった。一審では「不正な方法で在留資格変更許可申請を斡旋したり、勧誘したりしてはいけないにもかかわらず、被告は中国人の虚偽難民申請の諸手続を代行してほしいという依頼を引き受けた」とし、A弁護士の罪を認め、懲役1年執行猶予2年を言い渡した。A弁護士側は「難民申請を行なった行為は出入国管理法違反にあたらない」と主張。「虚偽申請を斡旋したとしても出入国管理法を適用して処罰することは不当」と反論。即時控訴していた。

11日に言い渡された二審判決ではA弁護士の控訴は棄却された。「A弁護士の虚偽申請及び斡旋行為を出入国管理法で処罰することが不当とは認められない」とし「不正な方法で在留資格変更許可申請行為を出入国管理法で処罰することは難民法の趣旨を無視するとは考えにくく、法務部長官(日本の法務大臣)の業務を妨害する危険があると判断する」と棄却理由を述べた。

全能神は中国発祥のカルト集団 日本でも活発に活動している

全能神は女性の自称再臨のキリスト・楊向彬(ヤン・シャンビン)氏を信仰する中国発祥の宗教団体。教祖を「キリストの肉体と霊を纏った存在」と崇め、ヤンというキリストが既に中国大陸に再臨したと信じている。趙維山(チョウ・ウェイシャン)という男性がこの宗教団体を設立した。中国政府を「龍(サタン)」と敵視し自分たちは神によって中国にエデンの園を再建させる真のクリスチャンだと主張する。既成教会の教えは誤りで神を正しくない目で見ているので「不十分なクリスチャン」だと批判。「女性の肉体を纏ったキリスト(ヤン)を知れば、全能神という存在を知って目が開かれる」(経典「神の経営」より)

教えの初期の段階で聖書を一部引用するものの「神の経営」という経典を通じて段階的に「比喩(たとえ)」の扉を開き、隠された秘密を悟らせるという方法で信者を獲得する。最近は工作教育を受けた信者が既成教会に潜入して信者を引き抜く被害が各地の教会から報告されている。教理は二元化されており共産党と自分たちの最終戦争が主な内容だ。日本でも各地から被害相談が聞かれるようになった。

自分の子どもを探しに韓国まで来た被害者家族。「中国政府の迫害で家に帰れない」と書かれた垂れ幕を掲げ中国を非難し抵抗する全能神教会(画像:キリスト教ポータルニュース)

中国政府はキリスト教が急速に広がり、信者らが社会に影響力をもつことを警戒していることは事実だ。しかし、全能神は2014年5月に山東省のマクドナルド店内で一般女性を勧誘中の信者らが携帯電話の番号を教えないことに腹を立て「サタンの行為だ」と批判した上で殴る蹴るの暴行を加え殺害した事件を起こしている。この事件を受け、中国政府は全能神を「邪教(カルト)」と認定。全国で活動を禁じ関連施設を一斉に取り締まった。

摘発を恐れた信者らは韓国や日本、欧米に渡り、現地で地下教会を運営しながら信者を獲得。現地の中国人コミュニティーに浸透しながら組織を拡大。最近はビザ目的の国際結婚も増えているという。入信した信者はある日、忽然と姿を消して海外に渡るため家族が中国で失踪届を出すケースも。本紙に寄せられた中国在住の林氏(仮名)の情報では「海外旅行に行くと言って妹が韓国に行ったきり帰国していない。妹には夫と幼い子どもがいる。知人の伝手で最近になって日本で暮らしていると聞いた。妹は全能神に入信したことを後で知った」と言い、コロナが収束したら日本へ行き妹の捜索を考えていると被害を訴えた。韓国では中国から入信した家族を探して全能神の教会前で抗議活動を行なうケースも増えている。全能神側は大音量で中国を批判する声明を流すなど対抗している。

この信者による「家庭放棄」は香港のキリスト教団体が運営するカルト情報メディア「新興宗教関注事工(CGNER)」が事態の深刻さを報じている。入信する際、「家庭放棄」を宣誓書にサインさせるというのだ。香港でも入信した女性が突然、家出したり、一方的に離婚を求めたりするなどトラブルが社会問題となっている。同紙が「毒性の強い危険なカルト」と注意を促すほどだ。また韓国では家庭放棄して入国した女性信者が組織に引き込むためハニートラップで中年男性を勧誘する問題まで指摘されている。韓国基督教異端相談所協会会長の陳用植(チンヨンシク)牧師は「全能神では勧誘に成功すると報酬が与えられる」とし、「それ(報酬)が手段を選ばない勧誘を引き起こしている原因だ」と説明している。

全能神は中国における宗教弾圧や人権侵害行為を逆手に利用して「自分たちは拷問にあったり捉えられ殺害されたりしている」などと被害を主張。SNSやブログ通じて中国に批判的な情報を配信している。キリスト教の人権派グループなどでも全能神の情報を鵜呑みにして過度に擁護する動きが見られる。

韓国では2015年頃から宗教弾圧などを理由に難民認定を求める関係者らによる抗議活動がネットやビラなどで確認されるようになった。韓国では金銭で買収される弁護士や法律関係者が後を絶たないことから、専門家は「組織的な犯行が闇で行なわれている」とし警戒を呼びかけている。

ただ、全能神信者が宗教弾圧を理由に韓国で難民認定されたケースはない。年々、審査基準が厳しくなり難民認定されるのは全体の1%にすぎないという。

日本でも一部の弁護士が全能神を擁護する主張を行なっている。今後、活動がエスカレートする可能性もあることから十分な警戒が必要だ。