代案教育推進もずさんな運営と衛生意識が明らかに。クラスター発生で判明した信仰という名の虐待

2021年2月4日号

韓国のキリスト教ポータルニュースを運営するチョン・ユンソク牧師(編集長兼記者)が執筆を手がけたIM宣教会問題の特集です。一部日本の読者向けに編集しました。(異端・カルト110番編集部)

在校生の9割が新型コロナに感染しても「ただの風邪」だと学生に適切な医療機関での診察を行なわせなかったとして、韓国の自称キリスト教宣教団体IM宣教会(インターナショナル・ミッション)代表理事マイケル・チョウ氏に韓国社会は厳しい批判を強めています。また代表の言動に韓国社会は憤りを超え呆れかえっています。この事件はキリスト教界にも大きな衝撃を与えました。IM宣教会が運営するIEM(インターナショナル・イングリッシュ・ミッション)の学生寮でクラスターが発生しコロナ感染再拡大に歯止めがかからない状態です。

クラスターが発生したIM宣教会の英語教育機関IEM国際学校(画像・news1)

このIM宣教会はこれまで誰も存在を知らなかった「無名」の団体です。無名というより関係者が「見つからないように隠していた」そんな印象を受けました。そして「国際学校」と名乗り活動していました。国際とつければそれだけで信頼されると考えたのでしょうか。名ばかりで信仰の名の下で教祖化した指導者による虐待が行なわれていたことがわかりました。まだ主要教団から問題を指摘され、異端調査委員会などが調査に乗り出したという情報はありません。これだけ連日報道されている様子から、どこかの教団からIM宣教会に対し反対する声明を発表する可能性があります。

事件発覚後、IM宣教会は無許可で教育機関として運営し、行政に届け出るべき各種登録も怠っていたこともわかりました。学校運営法に違反した疑いで捜査が進んでいます。もっと悪質なのは代表で牧師を名乗るマイケル・チョウ氏の経歴です。彼は牧師ではないのに牧師と名乗り、忠清南道(チュンチョンナムド)の公的な常任通訳者と嘘をついていました。そんな実態も確認されていません。IM宣教会も無認可の代案学校(フリースクール)でした。なぜ、こんな人物が今まで誰にも指摘されることなく活動することができたのでしょうか?誰が彼を推薦したのでしょうか?未だ彼の正体ははっきりしていません。IM宣教会は韓国を拠点に海外にも進出していました。保守プロテスタント教団のひとつ「大韓イエス教長老会白石総会」を母体としていると他紙が報じましたが、その情報もあやふやで実際の運営には関与していないと思われます。

健全な代案学校として機能していなかった

韓国社会では「公教育は地に落ちた」と言って学校教育を批判する声は今も昔も変わらず聞かれます。ありきたりの教育ではなく、いわゆる上質な英才教育や専門性に特化した指導に需要が高まっています。IM宣教会はキリスト教主義の英才教育を推進するプログラムを取り入れ、一部では障害児の入学も認めていました。またIEMという教育機関を運営し英語教育に力を入れていました。しかし、肝心のネイティブ講師の確保に失敗し、フィリピン人の講師を中心に一時的にカリキュラムが組まれていただけでした。

韓国教会は「進化論とLGBT」の二文字をクリスチャンが耳にするだけでも不信仰であるかのように教えようとする傾向が強いため、保守的なクリスチャンの親は公立教育機関で学ばせたくないと代案学校に入校させるケースが増えているのです。

IM宣教会はこうした偏った思想や熱心すぎる信仰が作り上げてしまった偽代案教育機関なのかもしれません。授業では創造論を教え、LGBTを批判していました。健全な代案学校はたくさんあります。このIM宣教会はクラスター発生の原因となったずさんな衛生管理だけが問題でなないことを強調したいと思います。元学生と関係者が同宣教会の現状を証言しました。

IM宣教会フィリピン支部に子どもを預けていたという親の証言です。「劣悪な生活環境でした。校規に反したという理由で子どもが罰金を払わされたこともあります。1回で5000ウォンから13000ウォン(約500円から1300円)、何度も払った子がいます。韓国に帰りたいと泣くと代表から“神様をあきらめる失敗者”、“逃亡者”、“卑怯者”というレッテルを貼られるので恐くて何も言えなかったそうです。耐え抜くことが信仰の美徳だと言われ、代表から殴られた子もいたと聞きました」

元学生の証言です。「礼拝の時間は代表が祈り方を厳しく指導していました。大声をあげ泣き叫んで『あの人を救ってください』と言わせていました。救ってほしい人をイメージさせました。狂ったカルト集団のような雰囲気でした。狂信的な教育で洗脳しようとしていました。神を信じることが目的だと言い、どんなプロセスを踏んでも構わないと言っていました。不信仰だという理由で殴られる子もいました。聖書を読む時間や神学について学校の求めるレベルに到達しないと罰金を払い悔い改めることもさせていました。そして授業の最後には感想文や反省文まで書かせていました。」

「宣教訓練と称して寮生活の子どもたちは皿洗い、掃除洗濯、清掃活動に取り組みます。代表がチェックして少しでも汚いと怒鳴りつけることは日常茶飯事でした。恐怖でした。」

「IM宣教会の学生たちは自ら学び、礼拝を捧げ、宣教師を目指しているわけではありません。代表らに強引にそうさせられていたのです。実は宣教師教育といって学生からさらに費用を負担させていました。神様のためにという理由でスマートフォンの娯楽的なアプリの削除、ゲーム禁止、SNSの登録禁止と閲覧禁止を強制していました。私もここにずっといたら心療内科に通うことになるなと思ったほどです。皆、病的な表情をしていました。虐待だと思います。」

「代表のマイケル・チョウ氏は自分が神のような存在だと私たちに印象付けたかったのでしょう。神の正義という言葉をよく熱く語っていました。しかし、学生個人の考えや自由は制限され、代表の説く正義を優先する場所でした。IM宣教会は代表に対して、誰も意見が言えない北朝鮮のような環境だと思います。障がいがあって集団生活になじめない子たちもIM宣教会に送られてきます。こうした子たちまで代表の期待に応えようと苦しみながら頑張っていました。マイケルという神の信念に操られている団体です。」(SNSなどに寄せられたコメントを含む)

常識から逸脱する指導者にアーメンと言ってすがる韓国教会の現実

MBC放送によると代表のマイケル・チョウ氏は1月26日、同宣教会に関係する講演で「コロナ渦でも私たちは修養会やっています。本当ならこの状況で私がスーパー感染者だと言われると思いますが、よく見てください。誰も感染なんてしていません」と語り、「ある方がこう語りました。ある方とは神様です。神様は科学的にIM宣教会を守ってくださいます。(中略)私たちがコロナに感染したとしても(行政は)もう手遅れというわけです。なぜなら学生たちは(神のために)ずっと活動しています。全国から私のもとを訪ねに来る人もいます。私も各地を巡回しています」と述べ、コロナ感染予防を怠っていることを自慢するような発言をしていました。この発言は日夜感染者の治療に勤しむ医療従事者や防疫当局をバカにするようなコメントです。

2018年アメリカの韓国系キリスト教番組でIM宣教会の教育方針を語るマイケル・チョウ氏(画像:キリスト教ポータルニュース)

クラスターが発生してから代表は「ただの風邪だと思っていた」と釈明。「診察をさせなかった」とずさんな運営と防疫意識の低さについて認め謝罪しました。しかし、その翌日には関係者への説明会でメディアや行政を批判しており、自分の神学と使命は正しいと主張したのです。9割もの在校生とその家族、関係する教会関係者に感染が広がるも反省する様子をみせませんでした。代表は3密を徹底して感染を防ぐ対応を怠り、「神様が科学的に守ってくださる」と発言していたのです。

こうした常識のない指導者の言葉を信じて、それにすがる信仰者がアーメン(その通りですという意味)と答える構図は現在の韓国教会で最大の懸念材料だといえます。こうした体質がコロナ感染拡大を含め、今後も大きな事件や事故を引き起こしかねない問題だと考えます。

残念なことに韓国のコロナ感染拡大はキリスト教界があらゆるところで関係しています。カルト集団である新天地(2020年2月発生)から始まり、異端疑惑があるインターコープ宣教会、今回のIM宣教会、報道に出ない小規模な感染は各地の教会でも起きています。小さな町の教会が「ナイフを突きつけられても礼拝に出席せよ」と入り口に張り紙をしたこともありました。極右系キリスト教政治団体はコロナ渦でも違法集会を続けました。

マスクは要らない、手洗いは不要、信仰があればコロナにかからない、コロナはサタンの攻撃だ、こんな主張によって地域社会に迷惑をかけているのです。こうした人物に従う信者たちは信仰という名の下で何も疑わず活動してしまいます。私に言わせれば「シートベルトをしないで運転しなさい。事故に遭っても神様が守って下さる」と教えることと同じ話だと思います。信仰があるからコロナにかからないのではなく、信仰があるなら神の哀れみを祈り、隣人を愛する行動を取るべきです。コロナを利用して牧師が自分への求心力を高めようとしている姿にがっかりしてしまいます。コロナにより隠されたカルト問題が表面化した例もありました。それでも韓国の世論は「また教会か」と呆れています。怒りを通り越して呆れているのです。

韓国ではキリスト教を「基督教(キドックキョ)」と発音します。コロナによる問題がキリスト教界から発生している現状にメディアは「ケ(犬=どうしようもない奴)ドックキョ」と言って批判するほどです。

非常識なクリスチャンの行動が信仰的な美談として広がり脚光を浴びている韓国教会の現状を憂いています。今回のIM宣教会も代表の嘘の経歴からはじまり、ずさんな運営と衛生意識、信仰という名の下で学生をコントロールしようとしていました。元学生は暴力を受けたとも証言しています。マイケル・チョウ氏は極端な神学を説き、異端性がうかがえる二元論を主張していました。神側かサタン側かで物事をすべて判断するという教えです。

私たちは今一度、冷静になって何をするべきか考えてほしいと思います。陰謀論で信者に不安を与えてはいけません。信仰が非常識な判断を下す道具とならないよう一人ひとりが「自分」を見直す機会だと思います。