元最高幹部級信者として大学生を教育していた朴スジンさん
2020.11.30 現代宗教
今年4月末に新天地を脱会した朴(パク)スジンさんが本紙のインタビューに応じた。彼女は新天地12支派(教区)を率いる全国大学部長まで上り詰めた元最高幹部級信者だ。8年間にわたる信者生活の実体と現在の心境について語ってくれた。
新天地との出会い
2012年、当時18歳だったスジンさんは推薦で大学の入学が決まっていた。高校卒業までまだ時間的にも余裕があった。当時通っていた教会で小学生を対象に歌を教え、聖歌隊の指導担当としても活動した。音楽と楽器がとても好きだったという。そんな中、兄と親しい友人(男性)がギターが好きだと知り、その演奏も上手だったのでスジンさんは興味を持つようになった。この友人も教会に通う信者だった。
その友人は自宅に遊びに来るほど兄と親しい仲だった。ギターに憧れたスジンさんはその友人から家で週2回のペースでギターを習い始めた。ある時、「演奏するだけじゃつまらないよ。曲の歌詞に意味があるんだよ。聖書の意味がなんであるか詳しく調べてみない?」と言われた。彼はゴスペルの意味を教えてくれると言い、スジンさんを「ある教会」に誘った。何も疑わず付いて行った場所が新天地だった。これがスジンさんと新天地の最初の接点となった。
新天地という泥沼にはまっていく
2013年1月、スジンさんは新天地に入教(にゅうきょう)した。福音部屋という聖書講義の過程を経て、それから3ヶ月後の4月末頃、スジンさんが新天地に入信したことを家族が知った。新天地が危険な宗教だと分かっていた家族から反対されることを警戒した彼女はトラブルを避けるために自宅を出てしまった。それでも6ヶ月後には実家に戻ることにした。家族関係もなんとか戻そうと努力した。新天地であることを明かしてはいけないが、知られた以上は親を安心させなければならなかった。
自宅には戻ったものの新天地の宗教活動が忙しさを増すと家族と過ごす時間はだんだんと減っていった。大学に入学しても新天地の偽装布教に参加したり、様々な教育を受けたり集まりも多く忙しかった。学業より新天地に全身全霊を注ぐことを求められたからだ。専攻科目の授業や課題、試験勉強などに集中して取り組めず単位を落としてしまうこともあった。新天地と大学生活を並行することは無理だと感じた。スジンさんは2年間休学し、その後、復学して26歳で卒業した。休学中は朝から晩まで新天地の活動に没頭したという。
スジンさんは当時を振り返る。「新天地のトレーニング過程を一生懸命受けました。聖書勉強はもちろん、新天地で割り当てられる伝道活動、運営全般、各行事にも取り組みました。シムパンといって信徒の行動管理や活動記録、個別指導を担当する部署でも働きました」。そのうち、副区域長、区域長、チーム長、課長などのポジションに就いた。新天地では能力に応じて役職が指名されるがスジンさんは部長に抜擢され、全国の大学を率いる管理者として働くことになった。この役職は大学生信者の伝道教育、教理指導、礼拝の参加管理、信仰心の管理などを担う。全国12支派(教区)を統括する部署であり、いわゆる教団執行部のひとりだったことがわかる。
スジンさんは今年2月、韓国で感染拡大した新型コロナの渦中にいた。韓国社会が混乱に陥った中でも新天地という教団に疑いの心を持つことはなかった。新型コロナ感染拡大は新天地信者が原因ではなく、韓国政府が責任を免れるために自分たちに罪を負わせたと本気で信じていた。実際に大学生信者たちに国家の陰謀だと教えてきた。この事態に「これが我々に対する社会からの迫害か」と思ったと述べている。組織的にコロナは陰謀だと教えられていた。
しばらく我慢すれば新天地への迫害も収まり、無実が証明されると信じていた。新天地では「白黒が明らかになる」と教えていたという。組織的に新天地を守り、無罪を証明するために信者リストをねつ造する必要性に同意したことも認めた。その考えは正しいと信じていた。スジンさんは感染拡大中も国のルールを破って新天地の信者として揺るぎなき信仰心で活動を続けた。
こんな状況でも新天地を辞める信者はほとんどいなかったという。スジンさんは「新天地信者は皆さんが考えている以上にマインド・コントロールされている」と主張する。「また信者は使命者の言葉に必ず従う」と言う。使命者とはスジンさんのような幹部信者のことだ。「迫害の概念が変わっている。自分たちの教会が非難されることは天にいるイエス・キリストが迫害されることと同じと受け止める」。新天地はイエス=教祖イ・マニと信じているので批判されれば、教祖への攻撃とみなして社会を敵視するのだ。
信者は「自分たちこそがこの地で最も重大な使命に仕えていると洗脳され外部の声を聞き入れない」と証言した。
新天地は距離感が近い宗教だ。精神的にも環境的にも近い。同じ空間で長時間過ごす。信者同士は疑うこともなく、不安や悩みを打ち明けることもない。だから脱会する必要性を感じない。スジンさんは外部から非難されるほど信者は信仰心が強まったと打ち明けた。
ついに新天地を脱会
こんなに信仰心が強かったスジンさんが今年4月末に新天地を脱会した。彼女は教祖を救い主と信じていた。8年間、教団に仕え最高幹部級信者として活動していたにもかかわらずだ。なにが彼女を促したのか。スジンさんは脱会を決意した理由をこう述べた。「幹部として内部の不正を目にしてしまいました。責任者らの問題行為とお金の不正もさんざん見て来ました」と話す。スジンさんは心を痛めたが脱会に踏み切ることはできなかった。「一般社会でよくありそうな話しだから」と深刻に受け止めることができなかった。少し疑問を抱いても「新天地は正しい。悪いのは個人の信者だ」と自分に言い聞かせたそうだ。
その後、母親が娘の問題を韓国基督教異端相談所協会(陳用植牧師)のソウル九里(クリ)相談所(九里初代教会付属)に相談したことを機に新天地の実態に気付くようになる。「世の中の教会はサタン。正統な教会だと言って新天地信者を呼び込む異端相談所は強制改宗者だ」とインプットされていた。新天地の社会に対する嫌悪感はとても強いという。だから相談所の話しを聞いて間違いを指摘してやろうと目論んだという。
相談所では専門家が反証教育というプログラムを通じてカルト教団の教理的問題点を教える。「確かに新天地の教えが変だな」と感じた。するとスジンさんはYouTubeチャンネル「終末論事務所」(ユン・ジェドク所長)で配信している「新天地教育問題」を何度も観て、そこで教える内容に強い衝撃を覚えた。自分が染まりきっていた聖書解釈が間違いだとわかったのだ。冷静になって聖書を読むと新天地で学んだ比喩(たとえ)は都合良く当てはめたに過ぎず、前後の聖書を読ませないように細工されていることに気付いた。「子どもでも分かるような国語の問題を新天地はわざと分からないようにして教えていましたね」。スジンさんは「これはおかしい」と直感した。
すると聖書の原語も調べてみたくなった。新天地は比喩を解く専門用語にギリシャ語の単語を当てはめていることにも気付いた。「これで分かりました。新天地は聖書を比喩だといって教え、決まった答えを当てはめてイ・マニ教祖が救い主、約束の羊飼いだと教えようとしたんです。聖書の答えとまったく違いました。」スジンさんによると新天地の講義は答えが予め用意されているという。目が覚めた瞬間だった。
イ・マニ被告(総会長)は感染症予防法違反と横領などの罪で逮捕起訴され収監され、104日ぶりに保釈された。現在も刑事裁判は継続中である。被告に不利な証言が続いている。また被告(教祖)を批判する現役幹部らが証言に立つなど新天地の内部分裂をうかがわせる動きもみられる。しかし、まだ彼を救い主と信じ、永遠に死なない存在と信じて活動する信者が大勢いる。スジンさんは次のように述べた。「新天地の比喩だけを見ないで一人の時間に聖書をゆっくり最初から最後まで読んでみてほしい。自分で正しくないと思ったら脱会してほしい」。また「真理は新天地にあり」と言うのになぜ人々は新天地を批判するのか考えてほしい。迫害は思い込みにすぎないと指摘した。
スジンさんは脱会直前の心境を振り返った。その上でその感覚を信者にも知ってほしいと語る。「新天地に疑問を抱き脱会したいと1%でも思ったら新天地の教えと世の中の教会の教えを比較できる牧師やカウンセラーに会ってみてほしい」。それが新しい人生を再スタートできるチャンスなのだと切実な気持ちを語った。
スジンさんは今年9月、記者会見を開き新天地のイ・マニ氏が学生伝道団体CCC(韓国)に信者を送り込み組織破壊を命じたという衝撃の事実を暴露し、新天地の問題を告発した。彼女は脱会後、被害者を救出するためのカウンセラーとして活動している。切り株(クルトギ)相談協会ソウル異端相談所という施設で新天地信者救出に取り組む。
スジンさんは言う。「新天地で過ごしたあの時間は無駄ではなかったと今は思えるようになりました」。あの経験が今に結びついたからだ。スジンさんの決意は固い。「脱会すると怖くて連絡先を変える人が多いと聞きました。私は変えていません。当時の番号を今も使っています。いつでも元部下たちから“脱会したい”と相談を受けられるように」。