天地日報のイ・サンミョン代表らは証言者を刑事告訴。新天地と教祖とは無関係と主張。検察は「新天地を擁護するメディア」と事実認定

韓国の異端・カルト教団は自前のメディアを運営していることが多くあります。彼らはキリスト教界に有益と思えるような情報を配信しながら、読者に不信感を抱かれない程度に自分たちの教祖と教団を擁護する記事を小出ししています。教団カラーや独自の教理をメディアにはほとんど紹介しません。あくまでキリスト教メディアとして正統派を装い続けています。これが韓国系異端・カルトのメディア戦術の特徴です。

有名なものでは、旧・統一協会(正式名称=天の父母様聖会・世界平和統一家庭連合)が運営する世界日報があります。最近、同紙を読んでみましたが政治色の強い保守的な一般紙であり、簡単には統一協会だと分からないように作られていました。教祖である故・文鮮明氏はワシントン・タイムズを創設しました。ワシントン・タイムズは宗教色を感じさせない有力紙の一つに名を連ね、何も知らなければ統一協会が運営母体だとわかりません。

 キリスト教福音宣教会(通称=摂理)、神様の教会、タラッパン運動の柳光洙の教団であるソウルインマヌエル教会、救援派(クオンパ)も自前のメディアを運営しています。多くの場合、外部から追及を受けるとメディアと教団は「無関係だ」と反論してきます。「あくまで個人的に働いている」と弁明するのです。また関係性を曖昧にして明確な回答を避けようとします。特に韓国の情報をよく知らない日本の読者には異端・カルトのメディア戦術が伝わりにくいのです。だから簡単に混乱が起きてしまいます。

 今回紹介するのは李萬煕(イ・マニ)を救い主と信仰する新天地と、その自前のメディア「天地日報」に関する2015年の記事です。少し古い内容ですが。新天地とメディアは関係性を長年否定してきました。韓国の異端問題の専門誌「月刊現代宗教」(2015.06.17)からお届けします。

天地日報の記事

天地日報(代表取締役社長イ・サンミョン氏)は長年疑惑がもたれていた新天地(正式名称=新天地イエス教証拠〈あかしの〉幕屋聖殿))との関係性について否定し続けてきた。新天地脱会者らの証言や数多くの資料を扱う「新天地カフェ」を運営するチョ・ミンス氏はインターネット上で天地日報と新天地が一体であると主張。その根拠と問題をまとめた資料集をキリスト教関係先に配布した。チョ氏は何も知らずに天地日報を後援する団体にも注意喚起を行なった。

天地日報はこれまで反社会的カルト集団である新天地を積極的に弁護し擁護する報道を続けながら、新天地とは無関係で「知らない」と主張してきた。

天地日報で「新天地」と検索すると教団を擁護する記事が次々と表示される。(出典:天地日報)

2011年4月14日、チョ・ミンス氏の証言を受け、天地日報はサイト上で代表取締役のイ・サンミョン氏が新天地信者であることを認めたもののメディア設立のために個人的に創設したもので登記上も新天地となんら関係がないと強調した。登記簿には教祖の名前はなく、教会との関係性を伺わせるものはないことも主張。正統なキリスト教メディアであり疑惑の追及は営業妨害にあたると反論した。

新天地の機関紙との疑惑には「無関係」だと弁明した。同紙は韓国内の一般的なキリスト教情報が定期的に掲載される、いわゆるキリスト教メディアの体裁を維持してきた。新天地の教理など宗教的な勧誘目的の記述は一切扱われていない。ただ、長年疑惑が持たれてきた理由がある。天地日報は、新天地の活動を否定的に報じず、教祖であるイ・マニ氏を擁護する内容が目立っていた。さらに既成教会とは正反対の視点で記事を報じるなど、他のキリスト教メディアには見られない特徴を示していた。

2015年1月から4月にかけて天地日報に疑惑の目を向けて記事を分析したという国民日報(汝矣島純福音教会系列の大型キリスト教メディア)は、「天地日報の記事は新天地の教団機関紙ではないという主張がまったく理解できないくらい紙面の至るところで教祖の活躍を紹介し、毎回紙面には韓国教会を批判する記事も目立つ。新天地を擁護するメディアだ」と結論を報じた。

韓国キリスト教放送CBSが「観察報告書-新天地に陥った人々」という番組を放送すると、新天地信者らは2015年4月8日、ソウル光化門世宗文化会館で記者会見を開き、「CBSの虚偽・歪曲報道を糾弾する」と主張。制作会社とCBSに対し国民に向け謝罪するよう要求した。すると関係がないはずの天地日報までが即座に反応し、新天地の要求を1面で掲載。連動していることが確認された。

新天地カフェを運営するチョ・ミンス氏は、「天地日報は新天地が背後で組織的に運営するメディアだ。このメディアは国家の機密機関のような情報操作に力を注いでいる。メディアを通じて信者の結束を強め脱会を防ぎ、広告収入などは教団の拡大に充当されている」と明かした。この証言をきっかけに、天地日報はチョ氏に攻撃を仕掛けた。

天地日報の代表らはチョ氏の証言に対し、「私たちは新天地の信者だが運営する天地日報は教団から派遣された社員ではなく、教団とも無関係だ。チョ氏が反新天地から虚偽の証言を行ない、我が社を後援する機関にまで通知し、ネット上で拡散させたことは名誉棄損であり業務妨害だ」として2011年3月にチョ氏を刑事告訴に踏み切ったのだ。

天地日報代表イ・サンミョン氏から刑事告訴された新天地カフェ運営者チョ・ミンス氏。2011年12月27日「罪にあたらない」と不起訴処分が言い渡された。

天地日報側から刑事告訴されたチョ・ミンス氏は、水原地方検察の取調べの結果「罪にあたらない」として不起訴処分となった。逆に検察は▲天地日報代表であるイ・サンミョン氏らが新天地の教会信者である事実 ▲「天地日報」に新天地関連の記事が他紙に比べかなり多く掲載されている事実 ▲天地日報の担当記者と新天地の教会員の名前が重なり、同一人物である事実などから「新天地の機関紙などと信じるに相当な理由がある」と判断した。(不起訴決定の通知 2011年12月27日判決 事件2011年第15771)

検察は「MBCテレビ『PD手帳』で報じられた新天地脱会者らの体験談などを総合するとチョ氏の主張は公共の利益に値する」とし、故に「罪にあたらない」と判断。チョ氏を不起訴処分とした。

チョ氏が不起訴処分を言い渡されたにもかかわらず、天地日報の代表らは判決を不服として控訴した。事件を担当する検察は捜査を進めているという。(追記:その後、捜査は終了、チョ氏の無嫌疑が確定)

天地日報には新天地と教祖イ・マニ氏を擁護する記事が多く掲載されている。また、新天地を批判するとその対象を攻撃するような記事を載せる傾向が強い。検察は同紙の担当記者と信者が同一人物である点を教団が運営するメディアだと判断する理由だと述べている。あからさまに教祖を擁護するメディアでありながら、追及されると一貫して無関係を主張する。そして攻撃的な姿勢を崩さない。ウソをついて布教する新天地式の戦略がはっきりと見えた結果といえよう。

 

異端・カルト110番編集後記

天地日報の日本語版は配信されていません。ただ、最近になって自称「新天地」信者を名乗る人物らが一般の報道各社宛に教祖の正当性を主張する文書をメールで配信していることがわかりました。また、新天地は世界的な宗教として認められ、平和を追求する善良な教団であることも強調しています。日本では正体を隠し地下組織として活動していた新天地が教祖を守るために宣伝活動に取り組むようになった体制の変化に注意していく必要がありそうです。