自称再臨のメシアの名をかけた大規模裁判で請求を棄却。キリスト教福音宣教会内部に大きな打撃か
(現代宗教 2020.12.02 CBS放送から)
MBC文化放送に対する裁判
2019年3月に韓国MBCが番組で放送した「キリスト教福音宣教会」(通称:摂理)の信者家族らの葛藤を特集した「実話探査隊-うちの娘を返してください」の内容について、摂理側が「放送内容は虚偽事実であり、名誉を棄損されたため当該放送の予告編および本放送の削除と損害賠償金を請求する」としてMBCを提訴した裁判で、ソウル中央地裁は請求を棄却する判決を言い渡した。
MBCとはMunhwa(ムンファ)Broadcasting Corporationの略で韓国大手テレビ局の1つだ。日本のフジテレビやエフエム福岡とも提携している。同局内にフジテレビソウル支局がある。MBCの実話探査隊は事件や宗教トラブルなどを被害者の証言をもとに特集する告発型番組。今までに数多くの事件、問題を世に明らかにしてきた。
同番組は「私の子どもが摂理の鄭明析氏に夢中で心配です」と語る信者の父親を取材して制作されたもの。昨年の3月に放送された。放送後に摂理は最高指導者である鄭明析氏を含む14人の教団幹部信者らを原告に訴訟を起こし、教団と鄭氏に各3億ウォン(約3000万円)、12人の教団長老らに各500万ウォン(約50万円)の慰謝料を支払うよう求めた。
裁判所、原告の人格権侵害より言論の自由を優先すべきと認定
ソウル中央地裁民事第14部は「本放送により、長老らの社会的評価が侵害される可能性があるとは考えにくい」とし、「原告である鄭明析氏が女性信者らに性的暴行を加え、それを原告宣教会(キリスト教福音宣教会)内部で幇助(ほうじょ)したり、黙認したりする人物が存在しているとみられる点、情報提供者である家族が葛藤する根本的な原因は兄妹が原告宣教会の信者になった点」などを根拠に同放送の真実性を認定。判決は「放送で指摘した事実は虚偽と認めることはできず、その内容は公益性が認められるものであり、原告の人格権侵害より言論の自由が優先されるべきと判断する。よって、原告の請求をすべて棄却する」と言い渡した。これにより、原告が求めていた損害賠償と当該放送削除請求は摂理側が敗訴した。
この裁判の経過を見守ってきた元幹部級信者A氏は、「キリスト教福音宣教会が起こしてきた数々の裁判で原告に教祖・鄭明析の名前が加わるケースは非常に珍しい。裁判に勝てるという自信から出た動きと思われる」とコメントした。また、「メディア各社との裁判に勝訴することで教祖が起こした性犯罪事件の汚名を晴らそうとした可能性が高い」と指摘した。
さらにA氏は「摂理ではイエス・キリストが十字架にかけられたのは洗礼者(バプテスマ)ヨハネがイエスについて間違った証言をしたと説く『洗礼者ヨハネとイエスの関係使命』という教理がある。だから鄭明析(自称再臨のメシア)の名前で起こした裁判が敗訴したとなれば、明らかに彼が責任を負わなければならなくなる。摂理側は今回の判決を受け控訴すると思われるが、請求がすべて棄却されたことで教団内部は大きな打撃を受けるだろう」と分析した。
キリスト教放送(CBS)を刑事告訴、そして民事でも提訴
(CBS 2020年12月2日)
女性信者らに対する強姦致傷罪等で有罪判決を受け10年間服役後、2018年2月に出所した鄭明析(75)氏が率いるキリスト教福音宣教会は、韓国でキリスト教メディア各社を相手取った訴訟を起こし続けざまに敗訴している。キリスト教放送「CBS」を訴えた訴訟では、裁判所は「摂理関連の報道内容は虚偽事実と見ることはできない」との理由で摂理側の主張を退けた。
摂理は2020年3月4日に放送されたCBS「キム・ヒョンジョンのニュースショー」の番組内で、ズンバダンス講師を務める信者A氏が新型コロナウイルスに感染したという放送内容が「名誉毀損に当たる」として告訴した。さらに同日、報道番組で「JMS(※)鄭明析直筆のコロナ防止薬を配布・・・。感染者が出ると一線」などと報じた内容が名誉毀損だとして刑事告訴、同時に民事でも提訴した。※)JMSとは摂理の韓国での呼び名Jesus. Morning Starの略
韓国検察が捜査した結果、CBSの放送内容は「嫌疑なし」との結論を示し不起訴処分とした。しかし、摂理はこれを不服として裁定申請を行い、ソウル高等裁判所第30刑事部は9月10日、「検察の不起訴理由を記録と照らし合わせると不当とは認められない。申請者(摂理)が主張するような誤りがあるとは考えにくい」として裁定申請を棄却した。
摂理は攻防を続けた。CBSの報道に対する訂正報道を求め裁判所に調停を試みたのだ。しかし、CBS側はこれを拒否。最終的に双方決裂し民事裁判で争うことになった。これだけではない。摂理はズンバダンス講師の信者A氏が所属する天安S教会を原告として10月23日、取材を担当したCBS記者4人を相手どって不当利得請求訴訟まで起こした。
摂理脱会者、「教団内部では教祖の性的暴行事件を嘘だと信じる人が多い」
脱会者A氏は「信者の多くは教祖が最高裁で強姦致傷罪等が確定した事実を信じていない」と述べる。メディア各社を相手に訴訟を起こし続ける理由については、「摂理内部には訴訟専門チームがあり選任の弁護士もいる」として、「信者らは自称メシアと信じる鄭という存在のために最善を尽くす姿を見せなければならないのでここまでやる」と説明した。
脱会者B氏は、「鄭氏はベトナム戦争に参戦しながら敵を殺さず敵を愛したとか、自分は平和の王だと言って毎日自分を非難する人々のために祈るのだと自慢していた」と言い、「教祖が犯した性犯罪は被害者だという人物らが金目当てでねつ造していると教えている」と証言した。
キリスト教福音宣教会は統一協会元信者の鄭明析氏が1980年に創設した宗教団体
キリスト教福音宣教会の創設者である鄭明析氏は故文鮮明(ムン・ソンミョン)氏を再臨のメシアと信仰する旧統一協会(現在の正式名称:天の父母様聖会・世界平和統一家庭連合)出身者である。統一協会を抜け1979年から80年にかけてソウル南加佐洞で愛天(エチョン)教会を開拓。ここから今の宗教団体がスタートした。その後、全国に広がりをみせ「MS宣教会」、「韓国大学生宣教会」、「国際クリスチャン連合」と名称を変えながら現在は「キリスト教福音宣教会」を正式に名乗っている。また、最近はクリスチャン・ゴスペル・ミッション(CGM)の名称でボランティアやイベントに参入している。韓国では自分たちの宗教的枠組みを「摂理」と呼んでいる。そのような理由から日本では通称「摂理」と呼ぶことが多い。
鄭氏は信者らから「牧師先生」、「先生」と呼ばれている。主に若者を中心に大学での布教活動に力を入れている。韓国を特別な地と教え、生まれ故郷である忠清南道錦山郡に建設した月明洞修練院という聖殿を中心とした信者向けの緑地公園を聖地に定めている。
鄭氏が説く聖書論、堕落論、復活と再臨論、救い論、教会論などはキリスト教プロテスタント信仰の全分野において異端的要素が多く認められ、韓国主要キリスト教団から異端と規定され警戒されている。教理は旧統一協会の原理講論とほとんど変らない。
ここで言う異端とは明らかに聖書の教えから逸脱している状態を言う。鄭氏は十字架で失敗したイエス・キリストに次ぐ再臨のメシアだと信者たちは信じている。現在、韓国内に約2万人の信者がいる。2007年に女性信者らに対する強姦致傷罪などの容疑で逮捕され、10年間も刑務所で服役した。2018年2月に出所した。