脱会を望む若き摂理2世信者たちの葛藤 本音トークで気持ちがすっきり。話せてよかった。「共感こそ最大の励み」

韓国では年々カルト問題が深刻化している。カルト教団も設立から十数年と時間が経過し、今や2世信者も増加している。今回は旧統一協会出身の自称再臨のメシア鄭明析(チョン・ミョンソク)が設立したキリスト教福音宣教会(通称:摂理 韓国ではJMS)の2世信者を取上げる。摂理は、正式名称であるキリスト教福音宣教会の他にCGM(クリスチャン・ゴスペル・ミッション)の団体名で世界的に活動する宗教団体だ。

摂理2世とは両親が信者で生まれ育ったときから摂理に通う世代をいう。熱心な信者である両親のもと教理もよく理解できず、ただ通うだけという2世も少ないようだ。彼らは教団の矛盾や教理の不合理に気付きやすい。今回は脱会者支援活動を続けるA氏が企画した「摂理2世の会」をレポートした。A氏もかつて摂理に所属していた元信者だ。同じ境遇にあるからこそ理解できる。今まで誰にも言えなかった悩み、お互いに本音で語り合うことで共感し、少しずつ心の傷が癒えるきっかけになった。韓国の月刊現代宗教2020年3月30日号の記事からお届けする。

30講論を学び終えて修了式に参加した2世信者たち(画像:現代宗教)

摂理2世の会「ここではお互いに共感し合える」

今回、初めて2世信者の集いを主催したA氏は「互いに理解し支え合える友達を作ってほしかった」と語る。A氏によれば、摂理を脱会したいと悩む若者は共通した考えをもっており、それがわかるとすぐに打ち解けられるという。「共感こそ最大の慰めになる」と語った。

この会に参加した2世は主に2つのグループに分かれている。両親が現役信者で本人は脱会を望むが経済的に自立していないため躊躇しているタイプ。もちろん、脱会を望むことは摂理側には一切相談していない。もう一つは、すでに脱会に成功したもののアルバイトで生活を凌ぎとても苦労しているタイプ。居場所を知られないように実家を出て地方で暮らす人たちもいた。

A氏は、事前に参加予定者と個別面談をし、一人ひとりに時間をかけて交流を続けてきた。すでに信頼関係が成立しているメンバーのみ参加が認められた。このような集いは誰でも自由に参加できるものではない。摂理は国防部という内部のセクションがあり、脱会者を装ってこのような集いに紛れ込むことがあるからだ。いわゆる情報収集隊だ。彼らは脱会希望者の割出しと情報を収集して教団に報告する。だから不用意に人を入れてしまえば本気で脱会を考える信者が危険に晒されてしまう。今回の集いも誰にも知られず、安心して話し合えるように主催者側は徹底した準備と調査を行なってきた。「とにかくセキュリティーの強化は手を抜けません」A氏はそう語った。

最初は簡単な自己紹介から始まった。名前、年齢、所属教会を紹介。次に話せる人から摂理を辞めたい理由、もしくは辞めた理由を短く話した。2世のBさんはまだ脱会していない。摂理を一日も早く辞めたいが信者である両親の存在がネックだと明かした。Bさんは、「突然、親から電話が掛かってくることがあるんです。教団が私を連れ戻すよう指示したようです。辞めたい雰囲気が向こうには伝わっているのだと思います」。Bさんの両親は「理性で物事を判断することは堕落だ。何を迷っているんだ。信仰から離れたら経済的にも不幸になると言ったではないか」と説得してくるという。何度もこういうことがあったと頭を抱えた。摂理では自分の人生計画を頭で考えるだけで理性的堕落だと批判されるという。Bさんは両親に説得されるたびに「やはり、辞めたら経済的な祝福は受けられなくなるのかな」と不安になるそうだ。

意を決して摂理を辞めた人もいた。見つからないように実家を出て地方で一人暮らしをしているという。「自分で生活するのは本当に大変です。それでも自由があります。」ようやく掴んだ自由に安堵しながらも現実は厳しいとつぶやいた。

やはり教祖の性的問題が広く浸透していることがわかった。20代(女性)のCさんは、「摂理ではヌード写真や水着姿の写真を撮る習慣がありました。どう考えてもおかしいと思ったんです」。「摂理での日々は地獄のように苦しかったです。普通に暮らせることがどんなに幸せか」。Cさんは具体的に何を体験したのか話そうとはしなかった。別の参加者も思いを語り始めた。「とにかく悔い改めの連続です。これもダメ、あれも罪、何をしても悔い改めるように言われました。もう疲れました」。

周囲の熱狂ぶりについていけない2世も多い。某さんは「私は摂理で啓示者として皆さんの前に立ち御言葉を取り次いでいました。今、正直に告白します。私は啓示者ではありません。あれはやらせでした」。やらざるを得ない熱狂的な雰囲気が恐くて、自分で考えて神の言葉らしく語ってしまったと明かした。参加者は誰も彼を批判しなかった。「ここではお互いに共感し合える」。緊張した表情も次第に緩んでいった。

ある女性がこんなことを話した。「私はカカオトークのプロフィール名を自分が好きなキャラクターの名前に変えてみたんです。すると指導的立場にある先輩から、名前を変えたのはイエス様(鄭明析)がそうさせてくれたんだよと言われました。いやいや、何をデタラメ言っているんだと思いました」。

2世たちは摂理で劇団に所属していた。当時の写真(画像:現代宗教)

2世たちが脱会を望む理由「とにかく大変。とにかく辛い」

カルトからの脱会相談を行なう専門家は教理の誤りを示しながら矛盾点に気付かせる方法を取り入れている。2世ではない青年たちはさまざまな背景を抱え、摂理信者と出会い、すんなりと聖書勉強に参加してしまう。彼らは教理から入信していく。そして、鄭明析氏を再臨のメシアと信じる。2世の場合、教理を深く信じることは少ない。むしろ、教理の矛盾点に気付いてしまう。だから教理ではなく両親に付き添って通っているだけだ。こちらは環境的要素が強い。気が付いたら摂理の信者だったというケースだ。

両親の熱心さが子どもたちを傷付けていく。これは2世が直面する深刻な被害のひとつだ。ある2世は幼いときから両親に連れられて摂理の教会で活動してきた。両親が鄭明析氏を崇拝しているので当たり前のように自分の将来設計を鄭明析氏にフォーカスしていたという。「私は将来、先生(鄭明析)のカバン持ちになりたい」そんな目標をもっていた。ある女性は驚くような発言をした。「摂理の女性信者は共通して背を伸ばす努力をしていました」。鄭明析氏は背が高い女性を好むという理由から幼い子どもたちは漢方薬を両親に飲まされてきたという。また別の女性は「鄭明析は前髪をおろす女性を嫌っていました。だからおでこが見えるように髪型を整えなさいと指導されました」。「先生(鄭明析)が好きな服ばかり持っていた。その服は街中で普段着としては着るには恥ずかしいデザインだった。友達に会うにも服がなく困った。とにかく大変でした」。こうした話に参加したメンバーはうなずきながら共感する様子だった。

参加者は一様に摂理の厳しさを口にした。特に青年らしさを抑制する教会だと述べた。ある2世はゲームをしたことが発覚し徹底して悔い改めを迫られた。ペナルティーに断食は日常的なことだったという。卒業式に異性からクッキーをもらった。卒業記念に手作りクッキーを全員に配っていたという。思い出にと焼いてくれたのだ。2世は、その事実を牧師の前で告白し、何時間も話し合い鄭明析氏への忠誠心の弱さを悔い改めさせられたという。牧師は両親を呼びつけ、罰として3日間食事をさせないよう指示した。心がえぐられるほど辛かったという。両親は子どもより摂理のしきたりを重んじることにショックを受けたという。

ある子はカカオトークで友人とメッセージのやり取りをしたことが発覚。ごく普通のたわいもない会話だった。荷物チェックをする両親に見つかり教団に報告された。このときも牧師は罰として3日間断食を命じた。女性信者がごく普通に男性とメッセージをすれば、それは鄭明析氏の愛を裏切る不貞行為と見なされる。摂理では30講論を通じて、メシア(鄭明析)と信者は恋人(※)花嫁の関係だと教わる。

(※)30講論の直訳では愛人

脱会に成功した2世は辞めてはっきり分かったことがあると打ち明けた。「女性信者たちは鄭明析の性的な眼差しで管理されていました」。このようなマインド・コントロールに両親も陥っていた。そして加担していたという。とにかく異性と接することは摂理にとって大罪だった。発覚すれば犯罪者のように扱われ、信者から変人扱いされた。汚いものを見るような目でみられた。女性は鄭明析氏以外に男性に好意を抱けなかった。教祖が認めるまで結婚もできなかった。摂理は自由恋愛を認めない。信者ではない異性との結婚も禁止している。そして信者同士の内部結婚も密かに続いている。これは鄭明析氏の指示だという。

両親の監視の目は厳しかった。机の中、カバンの中身まで全部確認された。勝手に日記も読まれた。だから、日記には鄭明析氏への恋心を綴った。少しでも青年らしいことをすれば罪だと叱られ、家でも教会でも悔い改めさせられた。いつ断食させられるのか、今度は自分の番ではないかビクビクしながら過ごした。「2世は自己肯定感が低いと思います。自分は罪深い人間だと教え込まれるので」。参加者はとにかく辛いと胸に秘めた思いを吐き出した。

主催者A氏は言う。「2世は教理を確信していないケースが多いと思います。とくに鄭明析という人物がメシアだとは信じ切れていないようです」。信者は愚痴をこぼせない。人生の悩みも相談する相手がいない。だから本当の愛は感じられなかったという。全員が幸せそうに笑い、熱狂的に鄭明析氏に手をふり、どんな仕打ちも涙を流して喜ぶ。「そうしないと叱責されるから。皆と同じように笑っていないとすぐ気付かれます」。「摂理には相談できる相手はいません。牧師は新来者には親切な隣人を演技します。でも、組織に長くいればいるほど牧師は信者を懲らしめる存在なのだと気付きます。輝いて見えるのは最初だけです」。「少しでも不安げな表情をすれば報告され厳しい罰が待っています」。

こんなふうに叱責されるという。「頑張れ!」「もっと努力しろ」こんなのは序の口だ。牧師は「まだ自分の考えが残っているのか!」と怒り、祈れと指導する。「教団は矛盾だらけです。でも、少しでも不満を口にすれば教会中から問題児扱いされます。これが恐くて皆よい子を装うんです」。脱会に成功した某さんは、「無感情になるコツを掴めば叱責されずに済むよね。」この言葉に皆共感していた。自分の感情を出さないことが安全だという。「摂理の愛は最初だけですよ。そして罪探しに長けた仲間はいっぱいいるけど本当の愛を教えてくれる存在はいません」。

完全な脱会はとても難しい

今回参加したメンバーは両親を想うと簡単には脱会できないと語った。いくら辛い経験をしたとはいえ、やはり親だからだ。親の顔に泥を塗りたくないという。脱会した某氏は「本当に苦しい選択でした。脱会すれば本当の自由が待っています。でも親は摂理に残されます。どうなるかわかりますか? ただ失望するだけではありません。教会では子を逃した不信仰者と批判され、いくつものペナルティーを負うことになります。2世は心情的にここが難しい部分です。」

「脱会後は経済的な難しさに直面すると思います。離脱すると両親とは暮らせないので」。脱会後の経済的な問題を考えると簡単には抜けられないと躊躇する2世も多い。親から離れれば自分で稼がなければならないからだ。「まだ、自立する覚悟ができていない」多くは大学生だ。主催者A氏は「最低でも1ヶ月100万ウォン(約10万円)ないと生活できない」という。

2世たちは人間関係のすべてが摂理とつながっている。脱会しても友人もいないし個人的に頼れる親戚もほとんどいない。こうした血縁関係と断ち切らなければならないからだ。教会とその信者がすべてだという。なかには摂理に没頭するため大学中退をさせる両親もいるほどだ。閉鎖された世界でしか人間関係を築けなくなる。大学生と聞けば自由なイメージがある。ある人は「大学で自由を満喫できるではないか」と主張する。「それは何も知らないから言えることだ」。A氏はきっぱり否定した。2世は語る。「自由ではありません。大学に通っても友達がいないんです。だって授業が終わると信者が待っていてそのまま教会に直行するんですよ」。

今回の集いでは多くの2世が今後もこうしたミーティングに参加したいと感想を述べた。摂理ではない友達、先輩が必要だとみな口々に言った。「話せてよかった」。活発に意見を交わせたようだ。

A氏は、「今までの傾向から2世が脱会した場合、再び宗教をもつことは少ない。特にキリスト教に入信することは稀だ。2世はキリスト教=摂理という認識が強い。また同じような経験をするのではないかと敬遠するのだ」。摂理信者の心理状況を研究するノ・ジミン氏(支援センター・カウンセラー)は次のように説明する。「彼らは神という存在とつながった体験は乏しい。むしろ、キリスト教という存在は摂理時代の苦しみを呼び起こしてしまう否定的なワードだ」「摂理信者は同じ雰囲気、特有の表情、専門用語を使う傾向がある。体で覚えている記憶は簡単には矯正できない。だからすぐに宗教ではなく、摂理の経験から十分に回復が必要だ」と述べた。

脱会して名前を変えたい

参加したメンバーが驚きの事実を明かした。「私たちの名前は鄭明析が名付けました」。親が決めた名前ではないという。摂理に詳しい専門家によると20代以上の信者は鄭明析が直接命名したという。当時は鄭明析が収監される前だったからだ。「この名前は嫌だ」「改名できるならしたい。」「何にしたい?」「そうですね」こんな会話がやり取りされた。以前の摂理の記憶を捨てて新しい人生をスタートしたいという気持ちだろう

鄭明析が収監中に生まれた子には直接命名は行なわれなかった。教団内で鄭明析氏は好んで光(グァン)愛(エ)洙(ジュ)という名前を選ぶことが多かった。このような名前がついている信者が多いという。

主催者から2世たちへ「さあ、豊かに暮らそう」

「摂理2世の会」を主催したA氏は、これまで数十人の2世から連絡を受け相談にあたってきた。 時間が許す限り、彼らと直接会って共感し励ましてきた。「友達になること。まずここからです。一緒に考えて一緒に泣く。怒りたいときは怒っていい。感情を自由に表せる場が必要なんです」。A氏が作り上げたネットワークは2世救済に必要不可欠な場となるだろう。

A氏は今後の課題を語った。「2世は社会常識があまりありません。ごく当たり前な人間関係も上手に築けなくなっています。驚くかもしれませんが信者ではない人を前にすると何も話せなくなるのです。摂理は自分たち以外の環境や文化を否定し、関わることは罪だと教育しています。その洗脳から解くことはとても時間がかかるのです」。A氏は「皆、豊かに暮らそう」と励ますという。「とにかく脱会後苦労はあっても豊かに自由な生活ができることを実感してもらえるように前向きな事例をたくさん示して努力しています」。

摂理2世が抱える問題は深刻だ。このように本気で救済に取り組む人がいて、その人を信じて新しい人生を期待する2世が集まる。彼らの傷が癒え、慰めがあることを強く願う。

 

日本脱カルト協会による声明「キリスト教福音宣教会(摂理)に関する声明と注意喚起」(2018年2月19日)