3月3日にネットフリックス動画サイトで公開され大きな反響を呼んだカルト被害の証言番組「すべては神のために:裏切られた信仰」が、韓国メディアで次々に取り上げられ、激震が1週間たっても収まらない。

大手通信社ニューシスは3月11日に配信した記事「扇情性問題に隠された真実」で、MBCテレビのプロデューサー(PD)チョ・ソンヒョン氏が明かした同番組制作の背景を伝えた。それによると、番組は当初MBCテレビの時事・教養番組「PD手帳」で放映する予定で企画した。通常のドキュメンタリーのようにモザイクをかけたり音声を変調したりせずに性暴力被害者の証言を伝える手法をとったところ、テレビ局の「内部事情」で放送はボツになったようだ。チョ氏は企画を表現基準が比較的に低いオンライン動画サービスのネットフリックスに持ち込み、公開が実現した。

「すべては神のために:裏切られた信仰」では、摂理(キリスト教福音宣教会=JMS)の鄭明析(チョン・ミョンソク)、五大洋事件の朴順子(パク・スンジャ)、アガドンサンのキム・ギスン、万民中央教会の李載禄(イ・ジェロク)ら、自らを「再臨のメシア」「中心者」「聖霊」などと自称している4人のキリスト教系カルト(異端)の教祖を取り上げ、それぞれで起きた性暴力事件や殺人事件、集団死事件などについて脱会者証言などをもとに追っている。

「メシア」を自称する摂理のチョン・ミョンソク総裁(78)。画像はすべてネットフリックスの予告編より

中でも、多数の女性信者らをマインドコントロールし性暴力を繰り返して逮捕され、懲役10年の服役を終えて2018年に出所したあと再び準強姦容疑で拘束された、摂理の総裁チョン・ミョンソクによる被害者の実名・顔出し証言に注目が集まった。証言したのは香港出身のメイプルさん(29)。自身が受けた性暴力を名前も顔も出して証言したことについて、メイプルさんは「私みたいな被害者を増やさないために、真実を公にしたい」と番組で語った。

チョン・ミョンソクによる性暴力の被害者メイプルさんは、あえて名前も顔も出して証言した

ネットフリックスでも性暴力被害者の実名・顔出しには慎重だったが、「また別の被害者が出ないために」という番組の企画趣旨にゴーサインを出した。制作陣は、被害者の中で希望者だけ顔を公開し、トラウマになった記憶を思い出してインタビューに応じた人たちには心理相談の支援をしたという。チョPDは、メイプルさんの場合「国籍・文化が違うので顔の公開が可能なのかと思ったが、そうではなかった」と明かす。「あまりに信じてもらえないような恐ろしい目に遭って、彼女は果敢に顔の公開を選択したのだ。JMSは、証言者が顔を隠せば事実ではないと常に攻撃してくる。顔を公開したことによって信頼度が高まり、何が真実なのかを(視聴者は)感じ取ることができるだろう。」

とはいえ性暴力の被害実態はあまりに醜悪であり、扇情的だという声もある。だが、とチョPDは続ける。「チョン・ミョンソクは(番組を)扇情的だと言うかもしれないが、一般の人々は惨憺たる気持ちになるだろう。これは映画や芸能ではなく、実際に誰かが受けた被害事実だ。どんなことがあったのかをそのまま見せてこそ、その中にいる1人でも2人でも事実を正確に知って出てくることができる。」

「メシア」と信じているものの実態を見せてこそ、中にいる人は被害事実に気づくことができる

ニューシスは、この番組が韓国社会全般に警鐘を鳴らした影響は大きいと評価する。すでにネイバーカフェ「カナアン」には「このドキュメンタリーを見てJMSを脱退した」との声が投稿されるなど、肯定的な反応が見られる。番組を契機として、カルト宗教の信者たちが社会のあちこちに浸透していることも分かったという。摂理は名門大学を中心に伝道し、エリート層にも信者が多いと言われる。

3月9日KBS局で放送された番組「ザ・ライブ」に出演した反JMS団体「エクソダス」代表のキム・ドヒョン氏(檀国大学教授)は、「チョン・ミョンソクを擁護する人がKBSにもいる」と発言し、現役信者のプロデューサーと通訳を名指しした。KBSは直ちに真相調査に着手することを表明し、キム教授に名指しされたプロデューサーらを制作業務から外す事態となった。

MBCのチョPDも、「MBCの中にも(JMS信者が)いると聞いた。取材情報が流出したとき、私たちのチームも、さらにはネットフリックスのスタッフも疑ったほどだ」という。だが「信者たちを探し出し、魔女狩りをすることは危険だ。信者の過ちではなく、誤った道へ進ませた教祖が問題なのだから」と、信者探しの風潮に釘を刺した。実際に、自分の周りにもJMSの信者がいるのでは? という大衆の好奇心を刺激したことは事実のようだ。ネット上では、すでに「わが町のJMS教会探し」のアカウントが立ち上げられており、身元を公開した人たちへの二次被害を憂慮する声も高まっているという。

カルトの教祖の犯罪に対して処罰が軽すぎるのではないか? との疑問も

摂理のチョン・ミョンソク総裁は、2018年に出所後も常習的に性的暴行を続けていた容疑で昨年10月に拘束され起訴されたが、427日の拘束期限を控え、検察は追加起訴の案件を検討している。ニューシスは、チョン・ミョンソクに科せられた10年の刑期が、米国で同様の性犯罪で有罪になったカルト教祖の終身刑に比べてあまりに軽いと指摘。「なぜ私たちの社会は教祖にとってより安全な国になったのか? 私たちの社会は宗教にあまりに傍観者的な立場をとっているのではないか?」というチョPDの投げかけを受け、悩んでみなければならない時が来ていると結論づけている。

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