キリスト教メディアを自称する「クリスチャントゥデイ(CT)」が、名誉を毀損されたとして本紙編集顧問・クリスチャン新聞顧問の根田祥一氏に損害賠償を求めた裁判の判決が4月に東京地裁で出されたことを受け、キリスト教カルト問題連絡会の主催による裁判報告会が613日に都内で開かれ、同連絡会に加盟する日本基督教団、カトリック教会、聖公会、在日大韓基督教会などの主流派と、日本福音同盟傘下の福音派・ペンテコステ派を含む幅広い諸教派から70人余りが参加した。

根田氏とその代理人弁護士の久保内浩嗣氏が、判決の概要について、特にその「事実認定」の意味・意義を中心に報告したほか、韓国でCTの異端・カルト疑惑を追及し続けてきたキリスト教メディア「ニュースNジョイ」の担当記者チェ・スンヒョン氏が、この問題の韓国での最新状況と今判決への受け止めなどを語った。

報告会後、取材を受ける「ニュースNジョイ」のチェ・スンヒョン記者、右は被告の根田祥一氏(写真:クリスチャン新聞提供)

最初に久保内弁護士が、本訴訟の概要を説明した。原告などダビデ張こと張在亨(ジャン・ジェヒョン)氏の共同体を脱会した元信者らが、匿名で証言した「ダビデ牧師と共同体を考える会」ブログの記事のうち、原告は5つの記事について名誉毀損を主張し、それらの記事を自身のSNS上でコメントを付けて拡散させた根田氏の行為に対して損害賠償を求めた。久保内氏は、ブログ証言が匿名であり、ブログの管理者だった中橋祐貴氏(元本紙編集長)も、CTから起こされた訴訟で精神的に追い詰められ、当事者の証言が得られる状態ではなかったことがこの訴訟の難しさだったが、同様の経験をした2人の元CTスタッフの証言によって、ブログ記事の真実性が立証できたことを述べた。

今回の判決は、被告に対して損害賠償として50万円を払うよう命じた(請求は110万円)。CTはこれを「根田氏に賠償命令、体験装った匿名ブログの記事拡散で本紙の名誉を毀損」との見出しで報じた。これについて根田氏は、「CTは判決の主文だけを報じ、判決理由の事実認定には一切触れなかった。事実の一部だけを伝え、都合の悪いところは伏せ、あたかも原告の主張が判決理由であるかのように見せかけた。この偽装こそがクリスチャントゥデイ問題の核心だ」と述べた。「ダビデ張牧師が再臨のキリストと信じていると正直に明かして活動するなら、私は、その信仰に賛成はしないが、信教の自由があるから、これほど疑惑の責任を追及するつもりはない。」

CT2008年にも、救世軍の山谷真少佐がCTの隠されていた正体を突き止め、自身のブログで異端・カルト疑惑を追及していたことに対して、損害賠償請求訴訟を提起した。その判決時(2013年)にも、CTは事実認定には触れず、表現の一部について賠償を命じた判決の主文だけを報じ、原告が全面的に勝訴したかのように印象操作をした。今回の提訴でも、山谷訴訟判決が山谷氏の主張をすべて否定したかのように見せかけた内容を訴状で述べている。

根田氏は今回の裁判で、賠償額の減免ではなく、こうしたCTの隠された実態についての事実認定を目標にしたとして、概要次のような重要な事実が認定されたことを報告した。

◎原告CTは、ダビデ張ともその「共同体」とも関係ないと主張し続けていたが、判決は、(補足:すでに山谷訴訟判決で事実認定されていたとおり)原告が張牧師の設立した諸団体・教会と関係があり、張牧師の宗教的な影響下にあることを認定した。

◎張氏が米国で設立したオリベット大学は、不正融資事件(補足:詐欺及びマネローダリング等の罪)で罰金刑を受け、設置州当局から閉鎖を命じられたことを認定した。

◎(原告関係者が属した)東京ソフィア教会では、「ダビデ牧師」を「キリストの再臨」と関連づけて示唆していたが、そのような宣教の支障となる事実を打ち明けないことを「知恵」であると説き、その教えの内容を他言しないこと、既存の他の教会に所属することを求めたことを認定した(補足:共同体では「嘘も知恵」と教え、虚偽が正当化されている)。

◎信者に無償労働や借財(カードローン)で献金させ、公共交通機関の料金を払わずに「これも御国のため」と述べた(補足:違法行為を宗教信条で正当化した)ことを認定した。

CT関係者が、ダビデ張を「再臨のキリスト」と信じ東京ソフィア教会に通っていることを、峯野牧師に秘して淀橋教会に通ったことを認定した。

CTはダビデ牧師の韓国人宣教師が日本に入国する際、虚偽内容を記載した入国管理局宛の文書を作成し、同宣教師に交付した(補足:宣教師の不法入国に加担した)。

CTは、記事の内容等について張牧師から指示を受けた。

また原告は、元本紙編集長で「ダビデ牧師と共同体を考える会」ブログの管理人であった中橋祐貴氏が、(ブログ記事が)いずれも原告の名誉、信用を毀損するものであることを認めるとともに、原告の社会的評価を貶める活動を展開していた被告の思想や情報発信に多大な影響を受け、事実に反する内容や過激な表現を発信したことを認め、真摯に謝罪するに至ったなどとして、中橋氏の「謝罪文」を証拠提出した。だが判決は、「中橋が、原告から訴えを提起されたのを機に精神的に追い詰められ、訴訟の終結を優先する意向を強めていたことを考慮すると、原告との訴訟による疲弊を避ける目的で、本件謝罪文等を作成したと認めるのが相当である」として、この謝罪文等によってブログ記事の真実性は否定されないと認定した。

事実を判別するメディアリテラシーが問われている

根田氏は、「ダビデ張氏が原告など共同体の内部で『再臨のキリスト』と信じられ、それを峯野牧師に秘して淀橋教会に所属するようになったことなど、これまで隠蔽されていた事実が、判決文という誰でも閲覧できる公文書で認定された意義は大きい。2人の脱会者が勇気を奮って真実を証言してくれたことを感謝している」と述べるとともに、「疑惑を追及してきた山谷さん、中橋さんが、最後は訴訟で追い詰められて発言を封じられたが、今回の事実認定で彼らの訴えてきたことが無駄ではなかったことが証明され、2人の名誉が回復されたことがうれしい」として、事実の積み上げによって立証ができたことを強調した。

また、事実に基づくクリスチャン新聞の疑惑追及報道に対し、CTはそれを否定する事実を一切示すことなく、批判する記者の信頼性を貶めるような印象操作に終始してきた、と指摘。「『異端捏造の黒幕根田祥一氏』などの見出しを見ただけで、普通ではないおかしなメディアと見抜いた牧師もいる反面、『自分たちは後発メディアなので、競業社の根田氏に妬まれ誹謗中傷されている』などの言い逃れを真に受け、信じて協力した牧師もいた。情報から何が事実かを読み取るメディアリテラシーが問われている。株式会社の取締役になるということは責任ある立場だ。牧師が自らの直感を過信して判断したり、著名な牧師が大丈夫だと言ったからと、自分で確かめずに取締役に名を連ねるなど、社会的に通用しない教会文化は終わりにしたい」と問題提起した。

韓国も実情は同じ、ニュースNジョイ記者「判決の影響は大きい」

ニュースNジョイのチェ・スンヒョン記者は、「今回の判決で多くの事実が認められたことは大きい。この問題を解決するための良いきっかけになると思う」と期待を述べた。チェ氏によると、張氏の共同体はクリスチャントゥデイのほか、基督日報、ベリタス、財経日報など複数のメディアを運営し、保守派から進歩派まで幅広い読者層に対応している。公式には相互の関係を明らかにしていないが、人事交流があることをつかんでいるという。

また、これまで張在亨氏に関して「張ダビデ」と表記したことはなかったが、最近CTが初めて両方の名前を併記する記事を出したという。チェ記者は、「なぜそう表記したのか分析しようと思う」と述べた。

CTの特徴は一般的なキリスト教ニュースを報道するので、異端の新聞かがわからないことが日本と共通している。「多くのクリスチャンはCTを異端だと思っていないのでニュースNジョイが報道すると批判される。ニュースNジョイはアカだとか、北朝鮮とつながっているとか、CTは盛んにフェイクニュースを書いているが、それを信じてしまう牧師もいる。カルトプログラマーと結託してフェイクニュースを散布している、とも書かれた。」

昨年7月、ニュースNジョイが「CTは異端擁護言論」と記事を出すと、CT15時間後に「アカのニュースNジョイが嘘を報じた」と対抗記事を載せた。批判するならきちんと取材して判断することが大事だが、当事者に聞くことは1回もなかった。残念なのは、多くのクリスチャンが問題を知らないことだ、とチェ記者は言う。今回の判決について、韓国CTは一切報道していないという。「それは判決が彼らにとって有利ではないからで、もし有利なら大きく報道しているはずだ。」チェ氏は、韓国の読者に日本での判決を伝えて、事実を明らかにしたいという。

今回の判決については、「ニュースNジョイがこれまで提起してきた疑惑が事実と認められたことが大きい。根田さんが20年前からクリスチャンジャーナリストの良心にかけて追及してきた。彼らの主張をよく聞き、被害者の声に耳を傾け、その苦しみをよく知っている。それが認められたことの意味は深い」。特に「(共同体の)教理について、被害者の証言が認められたことに意義がある」と評価した。

韓国のメディアでCTと交流するところはないという。しかし、執拗に個人攻撃されたり個人情報をさらされたりするので、初めは熱心に追及していた記者たちの中にもやる気を失う者は出てくるという。「この判決をきっかけに、偽装をこれ以上できないようにしなければなりません。キリスト者であるなら、きちんと判断して識別する必要がある。口を封じようとすることは極めて不適切。止めようとすればするほど、疑惑はさらに膨らむと思う。キリスト教メディアとして正しく対応するとはどういうことかを考えてほしい。」

ネットメディアの情報操作に警鐘

パネルディスカッションでは、日本基督教団カルト問題連絡会の齋藤篤氏も発言に加わり、CTが他のカルトと共通する点、異なる点についての質問に答えた。齋藤氏は、「正体を隠して人を騙そうとするところは共通。CTはインターネットを媒体にしているところに大きな特徴がある」と指摘。「インターネットは今、生活する上で無くてはならないもの。彼らはインターネットの盲点を巧みに使っている。断片的な情報をつなぎ合わせて、意図的に情報を操作する。対面で話し合うことが苦手で、インターネットに頼り切るような人々は取り込まれやすい」と警告した。

松谷信司氏(キリスト新聞社社長)も、「キリスト教の情報を探すと必ずクリスチャントゥデイの記事が出てくる」として、それを安易に利用する姿勢に疑問を呈した。

ウェスレアン・ホーリネス教団はどうするのか?

参加者の中から、「自分はウェスレアン・ホーリネス教団の常任教職として出席している。今日の内容は常任教職の会議で報告するので、伝えることがあったら教えてほしい」と発言があった。それに対して根田氏は、「司法の公式文書に峯野牧師と淀橋教会の実名が書かれたことは重みがある。判決文は裁判所で誰でも閲覧できる。今回の判決を受けてウェスレアン・ホーリネス教団はどうするのか、周りの諸教団・教会はみんな気にしている。組織としてきちんとした対応を決めてほしい」と要望した。

クリスチャントゥデイvs根田裁判 一審判決《報告資料》

クリスチャントゥデイvs根田裁判報告会ver.2