政府は11月18日、統一協会の被害者救済等に関し、「被害救済・再発防止のための寄附適正化の仕組み(概要)」を発表し、消費者契約法及び独立行政法人国民生活センター法の一部改正法案を閣議決定した。これに対し、全国霊感商法対策弁護士連絡会は11月21日、この政府案は世界平和統一家庭連合の加害行為の実態に即しておらず、被害救済のためにはほとんど役に立たないとする声明を発表した。
声明は、対処すべき家庭連合の加害の実態は、献金をさせる意図の下、被勧誘者に対して、正体を隠して長期間の働きかけを加えることにより、献金をすることが自分や家族の不幸を避けるために必要なことだと思い込ませ、以後はその思い込みを刺激することによって寄付をさせるという方法である、と指摘。したがって、献金をさせる時点だけを見ると、新法概要が寄付勧誘の際の禁止行為とする、消費者契約法第4条第3項に規定する行為によって「個人の困惑させる」ことはさほど多くない、としている。
そして、家庭連合の問題を解決するためのこれまでの議論が行われてきたにも拘らず、その被害防止や救済にほとんど役に立たないのでは意味が無く、政府は被害に関する実態把握が未だ不十分であると言わざるを得ない、と批判。「上記のような加害実態に対処するためには、宗教法人ないしこれに類する団体の正体を隠した勧誘方法そのものを正面から規制する立法がなされるべきであるし、高額献金について必要な規制を設ける場合には、立憲民主党・日本維新の会が既に提出している法律案を、上記の実態に合致したものに修正して検討すべきである」として、政府案の個々の内容について、次のように問題点を指摘し、あるべき法整備の代案を示した。
2 新法概要について
(1)「対象」について
個人から法人への寄附、だけを対象とするのでは範囲が狭すぎる。金銭収奪を図ろうとするカルト的な団体は法人格を有しないもの、個人に近しいものも存在するのであり、少なくとも団体ないし団体幹部個人に対する寄附は規制対象に含めるべきである。
(2)「寄附に関する規制」について
ア 「寄附の勧誘に関する一定の行為の禁止」について
前記の通り、家庭連合による被害は、「困惑」しないで行う献金が多く含まれるのであり、困惑類型として規制だけでは不十分であり、「正常な判断ができない状態にあることに乗じた」勧誘も規制対象とすべきである。
また、禁止行為対象として、「健康不安商法」を規制する消費者契約法4条3項5号が脱落しているのは承認しがたい。家庭連合の場合、高麗人参商法が現にあり、実際に薬事法違反で摘発され有罪となったケースすらあることを看過している。同号と同様の規定が不可欠である。
さらに、不利益を回避するために当該寄附を行うことが「必要不可欠」である旨告知されることを要件とするのは余りに厳格に過ぎ、これでは実務上、結局被害救済に用いることが今以上に困難となる。
加えて、霊感商法では、単に不安を煽るだけでなく、それに乗じて、当該契約締結により運が向上する、良い結果が生じると告知するような事例も多い。したがって、「不安の告知」のみならず、不安に乗じた「開運等の告知」も規定に盛り込むべきである。
また、「不安を抱いていることに乗じて」に関し、当該不安と財産上の利益の供与の間の因果関係について推定規定を設けるべきである。
イ 「借入れ等による資金調達の要求の禁止」について
「居住する建物等の処分により寄附資金の調達を」「要求する」行為だけでは狭すぎる。「勧誘する」行為も禁止すべきであるし、居住用不動産に限らず、本人や家族にとって重要な不動産を処分して献金するよう勧誘する行為や、それらの不動産をそのまま寄附する行為も禁止すべきである。
更に、土地建物を売らず借金もせずとも重要な財産を寄付して本人及び家族の生活を破綻させるような行為についても、一定の制限を設けるべきである。
同様に、生命保険金も故人が家族のために遺した重要な財産であり、残された家族にとって必須の生活手段であることが多いことから、それを原資とする献金も明示的に禁止すべきである。
また、本人が家族または第三者の財産から献金するよう勧誘する行為も禁止すべきである。
最後に、こうした「借入れ等による資金調達の要求の禁止」に違反した場合、勧告等の措置や罰則対象(新法6項、7項)になっているものの取消権の対象(同3項)とされていない。こうした重要財産を原資とする過度な献金は類型的に自由な意思に基づくものとは考え難いものであり、同違反の献金についても取消権が付与されるべきである。
(3)「寄附の取消し」について
準用される消費者契約法の取消権が霊感等の場合追認できるときから3年、意思表示の時から10年とされているが、被害者保護に欠ける。少なくとも民法に準じて意思表示から20年とするか、取消権の付与ではなく無効とする規定を検討すべきである。
(4)「子や配偶者に生じた被害の救済を可能とするための特例」について
債権者代位権構成において、被保全債権を扶養義務等に係る定期金債権に限ることは、特に二世信者にとって余りにも射程が狭く、救済にならない。
扶養義務の限度でしか取り戻せないようでは貯金すらできなくなる可能性もあり、また、本来は公的年金や社会保険など国が用意した社会保障制度に支払われるべき金銭を献金に使ってしまうことに対する歯止めにならない。
そうした歯止めがなければ、信者家族は、介護に必要な資金も取り返せずに介護資金に困窮極まることになるし、老後資金が2000万円必要とも言われる中、そうした財産を確保することも到底できない。
そうした困窮者が増加すれば、最終的には、国民の税金で賄われる生活保護対象者が増えることにもなる。結果として、家庭連合への献金で失われ、取り戻すことのできない介護費用や老後資金を、国民の税金で補填することになるのであり、救済の範囲が不当に狭いことは明らかである。
また、債権者代位権構成を用いているため、信者本人の無資力が要件となるが、それでは信者本人が献金し尽くして経済的に破綻した場合しか取消しができないことになり、狭すぎる。
さらに、信者本人が取消権を有することも要件となるため、家族は、信者本人が困惑させられて禁止規定に該当する寄附をしたことも立証しなければならないが、それ自体かなりハードルが高い。しかも、未成年の二世が親による寄附に対して取消を図ろうとする場合、親権者である親が信者である以上、事実上裁判ができない結果となり、救済が著しく困難である。
3 消費者契約法等の改正案等について
(1)不利益を回避するために当該消費者契約を締結することが「必要不可欠」とする要件が厳格に過ぎるなどの点は、新法概要と同様である。
(2)取消権の期間が伸長されたことは被害救済の途を拡げることにはなるものの、脱会後、時間をかけて精神的にも回復して初めて被害救済を求めることができるという実情に鑑みると、追認をすることができる時点から5年は必要であるし、前記の通り、意思表示そのものを無効とすることを検討すべきである。
4 献金等の受領金銭の記録の作成・開示義務規定の創設
家庭連合は、信者に献金等の財産的給付をさせる際に、領収書に相当する書類を交付することがほとんどない。そのため、長年にわたって多額の金銭給付をさせられた信者が、後年、被害を認識した場合であっても、いつ、いくら、何の理由で金銭給付をさせられたのかが不明となり、元信者及び家族が、被害の全体像を把握することができず、その結果、被害救済が著しく困難になるケースが少なくない。新法概要及び消費者契約法等改正案は、上記の点について、被害者救済の視点が欠けている。
したがって、一回あたり、一定額(例えば10万円)以上の献金等の財産的給付を受けた宗教法人ないしこれに類する団体は、信者ごとに、給付を受けた年月日、金額、給付を受けた理由を明記した帳簿を作成し、信者等から請求を受けた場合には、帳簿の開示することを義務とし、これを履行しない場合の罰則規定を設けるべきである。
5 結語
以上から、当連絡会は、上記不足点を解消できる法案の作成と今臨時国会での成立を強く求めるものである。
翌22日には、政府案に対する意見と法律案の提案書を、以下のように発表した。
https://www.stopreikan.com/seimei_iken/2022.11.22_teian.pdf