自称“キリスト教メディア”クリスチャントゥデイ(CT)とその関連組織の元メンバー(脱会者)らが2019~2021年に開設していた証言ブログ「ダビデ牧師と共同体を考える会」に掲載した記事を、フェイスブックなどSNSでコメントをつけて拡散させた行為が社会的評価を低下させたとして、株式会社クリスチャントゥデイ(矢田喬大代表取締役)が本紙の根田祥一編集顧問を相手取り、110万円の損害賠償を求めていた訴訟が2月5日、被告・原告双方が最終準備書面を提出し結審した。判決は4月22日午後1時10分から東京地裁802号法廷で言い渡される。
最終準備書面で被告側は、昨年12月6日に証人尋問で証言した2人の元CT記者らの証言内容を整理し、証人らの証言が信用できることなどを主張した。原告側は、尋問結果を踏まえた真実相当性に関する反論を主張した。この裁判で原告側は、被告がSNSで拡散させたブログ記事のうち5つの原記事の一部表現のみを取り上げ、名誉毀損を主張している。それに対して被告側は、原記事の表現はCTのみならず、自らを「来臨(再臨)のキリスト」と密かに信じさせているダビデ張牧師こと張在亨(ジャン・ジェヒョン)氏および張氏が支配する共同体についての証言の一部であり、全体として真実の証言であると反論している。原告は原記事1~5と、張氏およびその共同体との関連を認めていない。
名誉毀損訴訟の判決においては、個々の表現行為が名誉毀損に当たるか否かに従って責任の有無が認定され、賠償額が算定される。被告の行為に公益性および真実性(表現行為が真実であると言える根拠がある)、相当性(真実であると信じたことに相当な理由がある)が認められれば名誉毀損は阻却される(責任を問われない)。一般に、原告側の請求が棄却されるか、あるいは請求がどの程度認められるかで勝訴・敗訴が評価されるが、被告側は当初から、原告が隠していたダビデ張氏とその共同体の実態が、判決文の事実認定においてどこまで解明されるかを問題にしてきた。元メンバー2人の証言と併せて被告側が提出した証拠が判決でどこまで採用され、キリスト教界での評価を二分してきたCT問題の真相が明らかにされるかが注目される。
最終準備書面で整理された2人の証人の証言要点は下記のとおり。証人A氏(法廷では実名)は2003年4月から2006年8月までダビデ張こと張在亨が指導者の共同体のメンバーであり、張在亨氏によって「牧師」に任命され、2005年3月から2006年8月までCTで記者をしていた。証人B氏(法廷では実名)は2002年7月から2009年9月まで共同体のメンバーであり、張在亨氏によって「幹事(信徒リーダー)」に任命され、2004年4月前後の数か月間CTの記者をしていた。
●A氏の証言で明らかにされたこと【要旨】
① 原告は本件共同体の文化使役を果たす団体であること
② 張在亨が本件共同体及び原告を作ったこと
③ 本件共同体において、張在亨が再臨のキリストであると教えられていたこと
④ チチェらは共同生活をし、家賃滞納や食費すらない経済状態であったこと
⑤ 韓国人宣教師の指示によりカードローンで借り入れをさせられたこと
⑥ 教会の家賃を負担させられ、親から100万円借金させられたこと
⑦ 韓国人宣教師には収入がなく、日本人信者がその生活を支えていたこと
⑧ 韓国人宣教師とともに無賃乗車を10回以上行ったこと
⑨ 本件共同体では、嘘をつくのは知恵という教えがあったこと
⑩ 嘘は知恵という教えによって、無賃乗車という犯罪行為について、御国のためと正当化する思考にさせられていたこと
⑪ 張在亨は、チチェが経済的に困窮している原因は不信仰である、伝道をしてその人にお金を払わせろと説いていたこと
⑫ A証人は張在亨から原告で働くよう指示されたこと
⑬ A証人は、無給で原告で働いていたこと
⑭ 原告には収入がなく、事務所家賃の支払いができていなかったこと
⑮ 張在亨が原告事務所に来て記事について指示を出していたこと
⑯ 張在亨は、原告の異端疑惑を払拭するために、A証人らに対して、東京ソフィア教会以外の大きな教会に行くように指示したこと
⑰ 張在亨の指示を受けた原告代表取締役の矢田は、東京ソフィア教会に所属していながら淀橋教会に通っていたこと
⑱ A証人は脱会後に自身の体験を中橋及び被告に話したこと
●B氏の証言で明らかにされたこと【要旨】
① 原告が本件共同体を守るために作られた一部門に過ぎないこと
② 本件共同体において、張在亨が再臨のキリストであると教えられていたこと
③ B証人は張在亨から原告で働くよう指示されたこと
④ 張在亨が原告の記事作成に関わっていたこと
⑤ B証人は、無給で原告で働いていたこと
⑥ 張在亨が、高柳泉ら原告の役員、従業員らに対し、東京ソフィア教会以外の大きい教会に行くことを指示したこと
⑦ 本件共同体において、教会等の家賃の滞納が常態化していたこと
⑧ B証人は韓国人宣教師に頻繁に金銭を貸し、返済されていないこと
⑨ ジョンミン宣教師が日本に入国する際、B証人に入管の職員に対して虚偽の説明をするよう指示していたこと
⑩ クリスチャントゥデイ福岡支局は存在しないこと
⑪ 甲8号証(原記事1)はY氏(法廷証言では本名)の体験談であること
なお被告最終準備書面では、証人申請していたが尋問当日は仕事の都合で出頭できなかった証人C氏についても、証言する予定ですでに提出されていた宣誓供述書の内容の中核を提示した。
●C氏の証言で明らかにされたこと【要旨】
① チチェは本件共同体のためにローンを組んだり、親に嘘をついてお金を借りるなどしていたこと
② 本件共同体には、原告、ベレコムなどの使役先があること
③ チチェには、金銭について自分のお金という感覚はなく、御国のために働ける幸せという気持ちが強く、無報酬で労働させられていたこと
④ 張在亨、安マルダ宣教師、リ・ジヨン宣教師などの韓国人宣教師が、日本人チチェに対し、借金をするように指示していたこと
⑤ 本件共同体では、嘘をつくことは信仰的に正しいとされていたこと
⑥ 本件共同体では日本人チチェに一切金銭が支払われないこと
⑦ リンダ(ソ・ジンハ)宣教師は、宣教活動が本当の目的だったが、学生ビザで西南学院大学の留学生を装っていたこと
⑧ ほとんどの宣教師は学生ビザ、観光ビザで滞在していたこと
⑨ 株式会社ベレコムは、共同体を維持させることが運営目的であり、収益はそのまま献金となり、無報酬だったこと
⑩ 株式会社ベレコムは、資本金1000万円となっているが、実際には見せかけにすぎないこと
⑪ Cが本件共同体脱会後も同社の代表取締役のまま登記されていること
⑫ 原告やベレコムは、張在亨の管理下に置かれた本件共同体の事業であること
*証人尋問調書には、証人および証言内容に登場する人物は本名で記載されていますが、証言者がネット上で誹謗中傷された前例があるため本稿では一部を匿名としました。