救援派「キリスト教福音浸礼会」関連事業体「セモグループ」不正事件

現代宗教2021年7月5日号

救援派(クオンパ)と呼ばれるグループの一つで「キリスト教福音浸礼会」という宗教団体を率いた韓国籍の故・兪 炳彦(ユ・ビョンオン)牧師が実質的オーナーを務めていた運営会社「清海鎮(チョンへジン)海運」の大型旅客船セウォル号が2014年4月16日、修学旅行中の高校生を乗せたまま公海上で沈没した。死者・安否不明者300人以上という大惨事となった。事故発覚後、業務責任放棄などの罪で逮捕された船長らをはじめ、違法性を問われた清海鎮海運にも捜査のメスが入った。事故後、運営会社の経営陣らは海外に逃亡を図ろうとしたが、検察が身柄を拘束するなどして阻止した。この会社は教会の関連事業体であり、ほとんどの従業員が信者であることも発覚した。

韓国への送還が決定した兪ヒョッキ氏。現在は米国で収監されている(画像:現代宗教ニュースサイトから)

警察は、牧師でありながら巨大事業のトップに君臨した兪ビョンオン氏の行方を追った。兪氏は横領、脱罪の容疑がかけられ主犯とされていたからだ。しかし2014年6月12日ソウル近郊のリンゴは畑で兪氏と思われる変死体が発見。その後、息子や関連する人物らが相次いで逮捕された。この事故はずさんな経営と運営会社、そして全体を取り仕切るセモグループの汚職、不正を世に暴くきっかけとなった。

事件発覚後、韓国検察はセモグループの経営陣を相次いで逮捕した。特に父親である故・兪ビョンオン氏の信頼が厚く最も経営に関わっていたとされる次男、兪ヒョッキ氏は横領の罪で起訴された。しかし米国で永住権をもつヒョッキ氏は、韓国検察からの3度にわたる出頭命令を拒否したため、当局はインターポールを通じて米国側にヒョッキ氏の身柄拘束と韓国への送還を要請していた。ヒョッキ氏は偽造パスポ-トを所持しており、南米に逃亡したこともわかっている。

このような「逃亡」、「潜伏」などの問題を受け、当時の韓国マスコミは故・兪ビョンオン氏の変死体は本人ではなく、実際は生きていて南米に潜伏しているのではないかという疑惑を大きく取上げた。2020年7月、次男ヒョッキ氏は米国ニューヨークの自宅で逮捕された。潜伏先の南米から戻った直後のことだった。

米連邦裁判所は拘禁状態のヒョッキ氏について韓国側の要請に基づいて審議した結果、「韓国に身柄を引き渡すことが可能である」との判断を示した。ジュディス・マッカーシー連邦治安判事は、およそ80ページにわたる判決文から、韓国側が起訴した7つの容疑すべてについて立件が可能と判断した」と明らかにした。この判決を受け、ヒョッキ氏の弁護人は不服として抗告する方針だという。第一報をロイター通信が報じた。7月4日、韓国のメディアも一斉にこの決定を報じている。

ヒョッキ氏は会社の資金290億ウォン(約29億円)を横領した疑いで韓国検察に起訴されている。このような決定がなされても、実際的にはヒョッキ氏の送還は相当時間がかかるとみられる。米国で犯罪人引渡しの決定は控訴が不可能な単審裁判だが、引渡し対象者には人身保護請願の権利が与えられているからだ。この請願が裁判所で認められた場合、引渡しは猶予される。しかし、米国永住権をもつヒョッキ氏だがセウォル号事件が起きた2014年、検察の出頭命令を無視し米国で逃避行を繰り返した。セモグループ兪ファミリー(容疑がかかった)の中でヒョッキ氏だけが韓国の法廷に立っていない。あの事故から7年。韓国の異端・カルト集団「救援派」が起こした大惨事とその不正は、今後どのようなかたちで清算されるのか注目が集まる。