「友達が熱心に聖書の勉強をするようになったが、言動が一般の社会通念から逸脱している」「やさしかった娘がある団体に関わるようになってから、急に家族をサタン呼ばわりし敵視するようになった」−−−こんな相談が増えています。それはカルトに特有の「善悪二元論」を吹き込まれているからです。
統一協会(現・天の父母様聖会/世界平和家庭連合)の教典『原理講論』は、すべての事象を「神の側」と「サタンの側」に区別する善悪二元論で成り立っています。この世界はサタン(悪魔)に主管(支配)されてしまっている。その世界を神の側に復帰しなければ(取り戻さなければ)ならない。再臨主(教祖)からその使命を託されている……自分たちは神からの特別の使命を帯びた「神の側」にいる、自分たちの外の世界はみな「サタンの側」に牛耳られている、というのが善悪二元論の世界観です。
この善悪二元論でものごとを見るようになると、家族も社会も「サタンの側」ですから、「神(自分たち)の側」に復帰しなければならないということになります。言動や性格が一変してしまったように見えるので家族や友人は心配して引き戻そうとしますが、その行為は、善悪二元論にマインドコントロールされている本人からするとまさに「サタンの攻撃」に見えているのです。だから「お父さんはサタンにやられている!」と叫んだり、異端・カルトの実態を伝えて目を覚まさせようとする牧師たちや異端・カルト110番のような機関を「サタン側の勢力」と敵視したりします。
この善悪二元論の発想で世の中を見るようになると、霊感商法のような詐欺的違法行為も「善意」に基づいてできてしまうようになります。世の人が持っている財産は「サタンの側」に主管されていると考えるので、「神の側」である自分たちの組織に復帰(奪還)するのは彼らにすれば「良いことをしている」のです。お年寄りから虎の子の何千万円をだまし取っても、サタンに主管されていた財産を神の側に復帰したのだからその人のためにも良いことをしたのだ、という理屈で自分を納得させるようにマインドコントロールされているのです。もちろん、こんな理屈は社会的に許されるものではありません。世の常識からすれば反社会的カルトに他なりません。
オウム真理教事件はその最たる例です。オウムだけが善の側で、オウムに反対する国家も警察も弁護士もメディアも敵だと思い込まされた若者たちが、「絶対者」と信じ込まされているグル(指導者)から命じられるままに悲惨なテロ事件を起こしました。殺人を犯してもそれは「ポアしてあげる」ことだと身勝手なすり替えをして、尊い人の命まで奪う恐ろしい行為を正当化しました。「ポア」とは人が悪業によって地獄へ堕ちるのを防ぎより高い世界へと転生させる、という意味で使われた麻原彰晃の独善的な教えです。常識で考えればそんな屁理屈が通用するわけはないのですが、オウムの組織の閉鎖された環境の中で一方的に情報を吹き込まれると、殺人さえ正当化するような考えに染まり、実行までしてしまうのです。
現実世界には善悪を簡単には決められないグレーやグラデーションの領域があるのが当たり前ですが、善悪二元論のカルト的発想に染まってしまうと、すべてを黒か白かと決めつけるようになります。その構造の中では自分たちの組織だけが「白」に見えていますから、黒を白と言いくるめて法律や社会常識では通用しない理屈でも通そうとするようになります。カルトのメンバーには完全に上から目線で周囲が見えているのです。
現在、猛威を振るっている韓国由来の新興異端・カルトの多くは、多かれ少なかれ『原理講論』と同様の流れを汲んだ善悪二元論に基づく教理を持っています。オウム真理教ほどの大規模テロでなくとも、韓国や中国では異端・カルトのメンバーが暴力を受けて死亡したり、異端・カルト問題に取り組んでいる専門家が暗殺されたり、批判報道をしたメディアが襲われたりする事件がしばしば起きています。