柳本伸良(日本基督教団華陽教会牧師・カルト問題連絡会世話人・
中部教区「原理問題」対策委員会委員長)

カルト団体から脱会した人、脱会したいと思っている人、脱会しようか迷っている人の中には、「自分がカルトで教えられてきたこと」と「一般的な宗教で教えられていること」の間には、どんな違いがあるのか聞きたくて、牧師や僧侶へ相談に来る人もいます。

特に、カルトの教えに従わないことで、災いに遭ったり、不幸になったり、地獄に落ちたりするのではないか? と不安になっている人は、どこまでが正しい教えで、どこからが間違っている教えなのか、ちゃんと確認できないと、安心してそこから離れられないと感じることが多いです。

既に脱会している人も、身の周りで起こる不幸や、自身の不調、社会復帰の難しさは、自分がカルトの教えを捨てたせいではないだろうか? と思い、精神的に不安定な状態が続いてしまうこともあります。脱会後の回復のためにも、「教えの何が間違っていたか」を整理し、確認することは大切です。

また、カルトの教えは、信者をコントロールして、時間とお金と労力を搾取するようにできているため、相談者がカルト団体の教えによって、どのようにコントロールされていたかを知ることは、似たような破壊的カルトを渡り歩く「カルト・サーファー」「カルト・ホッパー」になるのを防ぐためにも重要です。

しかし、牧師や僧侶などの宗教者であっても、「あるカルト団体の教えはどこが間違っているか」「他の宗教の教えとどこが違うか」を急に聞かれると、自分はそのカルト団体に詳しくないので答えられない……と思ってしまうかもしれません。

けれども、そうした相談で必要なのは「特定のカルト団体についての知識」というより「相談者がどんな教えに支配され、どんな不安から解放されたいと求めているかを整理する力」です。相談を受けた人は、自分がその団体についてよく知らなくても、相談者自身が気になっている、怖がっている教えは何なのか聞きながら、一緒に整理することを心掛けてください。

カルト団体によっては、組織の教えを外部に漏らしたら罰を受けると脅したり、幹部でない信者が勝手に教えを口外しないよう厳しく制限しているところもあります。そのため、「あなたはその団体でどのようなことを教えられていましたか?」と聞いても、無意識に説明を避けようとする人もいます。

そこで、「団体の教えについて直接聞く」というよりも、「団体に入る前と入った後で自分の何が変わったかを聞く」ようにしてください。

たとえば、

団体に入る前は気にしなかったけど、団体に入った後で気にするようになったことはありますか?

団体に入る前はやっていたけど、団体に入った後でやらなくなったことはありますか?

団体に入る前はやらなかったけど、団体に入ってからやるようになったことはありますか?

団体に入る前は楽しんでいたけど、団体に入ってから楽しめなくなったことはありますか?

といった質問をして、何が禁じられ、何をやらなければならない教えだったのか、一緒に整理していきます。また、「どうしてそれが禁じられているのか?」「どうしてそれをやらなければならないのか?」という理由について、団体の中でどのように教えられていたか一つ一つ聞いていき、一緒に書き出すようにしていきます。そうすると、カルト団体の教えが、相談者をどのように支配していたかが見えてきます。

上記のことを相談者が上手く説明できないときは、「その教えを守らなかった場合はどうなると言われているか?」「その教えを破った場合はどうなると言われているか?」を聞くようにしてください。これによって、カルト団体がどのように信者を脅し、どのような恐怖でコントロールしているか、問題が見えてくるようになります。

そして、キリスト教の教会でも、仏教のお寺でも、自分の属するところでは、同じようにその行為を禁じているか? やらなければならないと教えているか? を答えていき、なぜカルト団体と同じように指導されていないのか(そのように指導することの矛盾や問題点)を説明していきます。

カルト団体では、「こうしないと地獄に落ちる」「こうしないと先祖が苦しむ」「こうしないと子孫にまで悪影響が続く」といった言葉で、信者をコントロールすることが多いですが、基本的に、相談者を恐怖で支配しているカルト団体の教えは、キリスト教系でも仏教系でも、本来の教えを歪めたトンデモ理論で成り立っていることがほとんどです。

キリスト教を装うのに多宝塔を買わせたり、仏教を装うのに終末思想が出てきたり、ニセ医学やニセ科学が教えに組み込まれていたりします。相談者から話を聞くうちに、まともな宗教者なら誰でも指摘できることが次々と出てきます。

このように、大切なのは、あくまで「相談者がどのように教えを受け取って苦しんでいるかを理解すること」であって、「カルト団体の教えを正しく理解していること」ではありません。そもそも、カルトの教えは教祖や団体の都合によって、ころころ変えられてしまいます。

相談者が何に苦しんでいるか、一緒に整理していけば、その団体の教えに詳しくなくても、カルト団体の教えのどこに問題があるか、指摘できるようになっていきます。たとえるなら、DVの相談を受ける人が、加害者本人のことをよく知らなくても、被害者の話を聞いて、一緒に整理していくうちに、加害者の問題を指摘できるようになっていくのと似ています。

その団体についてよく知らなければ、「あなたが所属していた団体についてよく知らないので、お話を聞きながら、私も学ばせてください」と正直に言ってかまいません。「どういう問題があったのか、一緒に整理して、一緒に学びましょう」という態度で向き合えば大丈夫です。

近くにカルト問題に携わっている専門家がいれば、相談者と一緒に話を聞くのも良いでしょう。相談者にとって、「自分が悩んでいる問題について、取り扱ってくれるところがない」というのが、苦しみを長引かせている大きな要因の一つです。「一緒に向き合ってくれる宗教者がいる」という事実は、それだけで回復の助けになります。

ぜひ、脱会した人、脱会を考えている人から「カルトの教えの問題について整理したい」「何が間違いだったか教えてほしい」という相談が来たら、よく知らないからと断るのでなく、まずは話を聞いていただけるようお願いします。必要なのは「カルト団体に詳しい人」というより「話を丁寧に聞いて一緒に整理する相手」だからです。