韓国キリスト教異端相談所協会(韓基相=会長・陳用植)と全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連=代表・山口広)は、日本と韓国のカルト被害者を助け、カルト団体に対処する働きで協力する協約を締結し、1月8日、東京・千代田区のリンク総合法律事務所で協約書を取り交わした。日韓のカルト団体による被害を予防し、対処する働きに、共同で取り組むことなどをうたっている。

協約書にサインし握手する韓基相の陳用植会長(左)と全国弁連の山口広代表(右)

韓基相から全国弁連へ、日本キリスト教異端相談所の張清益(チャン・チョンイク)所長の仲介で協約を申し入れた。協約締結にあたり、韓基相の3人の役員とともに来日した会長の陳用植牧師は、協約を要請した趣旨を説明し、次のように感謝の言葉を述べた。

「韓国には日本よりはるかに多いカルト団体があり、自らメシアと名乗る者が40人ほどいる。家族を含め200万人が苦しんでいる。韓国でも信教の自由が保障されているが、カルト被害者が守られる措置は何もない。教祖が悪いことをして服役しても、刑期を終えて釈放されればまた同じことをする。規制法が必要だ。韓国には日本のような救済のために活動する弁護士団体がなく、皆さんのように約300人の弁護士が1987年から活動していることに敬意を表する。韓国でカルト団体を規制する法律を成立させるために、皆さんが闘ってきた知恵をお借りしたい。経験や判例を紹介してほしい。韓国で規制法ができれば、日本にも良い影響を与えられると思う。韓国の国会にはクリスチャンの議員が多いので、協力を得て進めている。カルトの被害者500人が集まり、国会内で公聴会を開く計画がある。」

全国弁連代表の山口広弁護士は、「40年間、統一協会問題に取り組んできたが、中心はお金の問題だった。不幸は因縁のせいと言われ信じやすい真面目な市民が引っかかる。多い人は数億円、数十億円もの被害が続いてきた。1992年の合同結婚式に日本の有名タレントが参加し、95年にオウム事件もあって、カルト問題に関心を持つ人は増えたが、それでも(記憶が薄れ)弁連の活動がメディアで取り上げられることも減ってきた。しかし、2022年に安倍首相銃撃事件があり、犯人が統一協会の被害で家庭崩壊した青年だったことから、メディアも大きく扱うようになった。日弁連を励まして被害救済できる法律を作ろうと運動し、22年暮れに新法が成立した。統一協会と関わってきた保守系政治家への批判が高まり、202310月に政府が統一協会の解散命令請求を裁判所に申し立てた」と全国弁連の取り組みを説明。

そして、韓基相と協約を交わす日本側の意義を次のように述べた。「大きな悩みは、信者家族や迷っている信者をカウンセリングしてきた牧師が70代、80代になり、若い牧師はあまり関わらないこと。脱会カウンセリングをする人たちが日本ではあまり育たない。全国各地に相談所がある韓国の体制は羨ましい。私たちは牧師たちと一緒に取り組んでいきたいと思っている。」

後列向かって左から、韓基相の張清益(日本)、ソ・ヨンクック(ソウル)、カン・シンユ(光州)、コ・カンジョン(仁川)各相談所長、全国弁連の紀藤正樹、渡辺博、木村壮 各弁護士

韓基相は韓国に25か所、日本に1か所の異端相談所(支部)があり、日本キリスト教異端相談所は日本支部。弁連側からは、「皆さんはどういうカルト団体からの救出相談にあたっているのか」、「摂理(JMS)の鄭明析(チョン・ミョンソク)事件で9日に最高裁判決が出る予定だが、信者たちの反応はどうか。判決文を入手できるか」など、具体的な質問や要望があった。相談所長らはそれぞれ、新天地、JMS、神様の教会、クオンパ、タラッパン、インターコープなど、多様な異端・カルト団体の救出相談に取り組んでいる活動を説明。陳氏は、鄭明析の裁判記録を送ることを約束するなど、さっそく具体的な協力の話が交わされた。

渡辺博弁護士からは、「ネットフリックスの番組(「すべては神のために:裏切られた信仰」2023年3月から配信)によって、カルト団体から離れた方がいると聞いたが?」などの質問があった。

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陳氏によると、J M S‘(摂理)を離脱した4000人が「離脱者の集まり」を作っている。リーダーは摂理の牧師だった人で、教育のビジネスを立ち上げて活動している。カルトを卒業したのか、分派になるのかまだはっきりしないが、リーダーは陳氏を訪ねて来たという。一方で、最高裁判所周辺のホテルは、判決前から多数の摂理信者でいっぱいだった。陳氏は、「(信者らは)鄭明析はメシアなので無罪に決まっているという思いだが、有罪判決が確定すれば失望するだろう」との観測を示した。

陳氏からは、日本の文部科学省が統一協会に行使した「質問権」とはどういうものか?との問いがあった。山口氏は「質問の内容はたいしたことではないが、オウム事件の時に、解散命令の前に質問権を行使できる法律ができた。今回は1995年に法律が改正されてから初めての行使。実態について文部科学省が正式に聞けるようになったことに意義がある」と説明した。

協約により、両団体は今後、カルト被害者の援助や被害防止のために、情報やセミナー等を共有していく。

一方、日本キリスト教異端相談所所長のチャン·チョンイク牧師は、今回の協約の意義について、韓国カルトに対する予防と救出の働きが日韓の専門家による共同対処によって効率的に行われることを期待する。同時にこれまで韓国のカルトによって言い表せない苦痛を経験した数多くの日本人被害者を助けることは、民間外交的次元としても画期的な協約式になったと評価した。