安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、山上徹也容疑者は安倍元首相が「宗教団体」(統一協会=同家庭連合)と関係があると思い犯行に及んだと報道されたことに対し、世界平和統一家庭連合(旧・統一協会)の田中富広会長が7月11日の記者会見で、「友好団体(UPF)が主催する行事に安倍元首相がメッセージを送ったことはあるが、家庭連合との関係はない」という趣旨の説明をした。その中で田中氏は「当法人と、友好団体(UPF)の区別がついていなかったのではないか。どちらも創設者がご一緒なので、そういう観点から、すべてが同じに見えていたのかなと感じている」と発言したが、問題が表面化すると「友好団体がしたことで教会(統一協会本体)」は感知していないという論法は、霊感商法を追及された際に決まって持ち出されてきた統一協会の常套句だ。
統一協会は、国際勝共連合、株式会社ハッピーワールド、天宙平和連合(UPF)など多くの関連団体を設立してきたが、それらはすべて統一協会(家庭連合)の信者が運営しており、上からの「人事」によって配属されていることが、脱会者の証言や証拠により明らかになっている。かつて霊感商法の被害者らが統一協会に返金を求めた訴訟などでも、統一協会側は「友好団体の活動であり統一協会は関与していない」という論法で言い逃れてきたが、霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士らが地道に証拠を積み上げてそれが偽装であることが暴かれ、刑事裁判で統一協会の地方教会支部長が逮捕されるまでになった経緯がある。
家庭連合は「安倍元首相が当法人の会員に登録したことはないし、顧問になったこともない」という言い方で関係を否定しようとしているが、すでに明らかになっている関連団体(友好団体)との密接な関係をどう説明するのだろうか? 家庭連合側の巧みな説明に惑わされて、報道する側のコメンテーターらの中にも「山上容疑者が安倍元首相が統一協会(家庭連合)と関係があると思い込んで犯行に及んだようだ」という図式で捉えようとする動きがあるが、統一協会問題の偽装された実態を知らなさすぎる。メディアにはこれまでの統一協会問題の流れを過去の記事などからきちんと検証して報道してもらいたい。
この国の保守政治家が長年にわたり統一協会と癒着してきたことを、メディアの人間が知らないはずはない。安倍元首相殺害事件の直後、山上容疑者が実名で供述したにもかかわらず「宗教団体」とぼかして報道した大手メディアは何を忖度したのだろうか。近いところでは、昨年9月にUPFの大規模イベントで安倍元首相がビデオメッセージで基調講演をしたことを、大手新聞各紙もテレビ局も知っていたはずだ。2019年10月に家庭連合の総裁として韓鶴子(ハン・ハクジャ)氏が来日し、愛知県国際展示場で「孝情文化祝福フェスティバル」が開催されたときには、当時自民党愛知県第4区支部長の衆議院議員・工藤彰三氏が主賓として祝辞を述べ、大村秀章愛知県知事の祝電が読み上げられた。壇上の韓鶴子総裁の前に並んだ35組のカップルがウェディングドレス姿で日本の家庭連合会長・徳野夫妻から祝福・既成祝福(すでに結婚しているカップルに改めて家庭連合の祝福結婚を施す)を受けるという派手なパフォーマンスもあったが、その中には愛知県議会議員(新政あいち)の天野正基(まさき)夫妻の姿もあった。
捜査当局には、政権与党を含む保守政治家たちと統一協会との深いつながりを軽視することなく、事件の背景にある実態を解明することを強く望む。統一協会の不法行為や偽装が長年にわたって報道され数多くの書籍が出版されてきたにもかかわらず、多額の献金などによって家庭崩壊に至るような被害はいまだになくならない。その責任の一端は、国会議員から地方議員や首長に至るまで、政権に近い政治家らが統一協会と癒着してきたことにある。
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