各地の教会の牧師に「ゆり」あるいは「留学生の趙佳映(チョ・ガヨン)」と名乗る女性からメールや電話があり、「韓国人宣教師が帰国するため聖書講義の受講生を教会に託したいと言っているのでZoomで宣教師と話してほしい」という働きかけが相次いでいる問題。この手口は韓国で猛威を振るい主要教団から「異端似非(カルト)」規定されている「新天地イエス教証拠(あかしの)幕屋聖殿」であることが判明した(https://cult110.info/news/scj-biblestudy/)が、この“宣教師”とZoomで話した牧師たちの証言から勧誘手口の詳細が明らかになってきた。
証言によると、Zoomの相手は「ゆり」、日本名「オオタダイスケ」と名乗る自称“韓国人宣教師”と通訳者「サニー」の3人。「オオタ」は祖母が日本人なので日本名がある、米国テキサス州で宣教していた、日本宣教に思いがあり2018年秋に日本に来たがビザの関係で戻らなければならない、という触れ込み。「以前は大韓イエス教長老会に所属していたが、そこを出て今はどこにも属していない。韓国では教団に所属していると自由がないので、むしろある程度しっかりした教会は単立としてやっている場合が多い」などと自己紹介する。
そして、「オンラインで聖書の学び会(聖書講義)を伝え始めて1年半になるが、熱心に学ぶ方々がたくさん増えてきた。その方々が礼拝につながることが必要なので、いくつかの教会のYouTubeを勧め、合うメッセージを選んでもらっている。あなたの教会のYouTubeも見ました。あなたの教会のを続けて聴きたいと言っている求道者がいる。牧師が若いので特に青年たちをつなげたい。教会に集まっての礼拝が再開したらその方たちをぜひ送りたい。今後もコミュニケーションを取りながら、求道者の救いのために協力しましょう」という話に進んだ。教会(教派)ごとの特色に合うよう訓練された潜入スパイ「収穫の働き人」を送り込み、教会員を自分たちの聖書勉強に誘ってシンパを増やしていき、しまいに教会を乗っ取るのが典型的な新天地イエス教の手口だ。
そこからさらに14日、15日のZoomセミナーに誘われる。内容は「説教の学び」で、韓国人の牧師が説教をするのでそれを聴いて評価してほしいとのこと。「難しくはなく、良かったとか聴きにくかったとか、思ったことを伝えるだけでいい。たくさんの牧師たちが参加する。●●教会の牧師も参加する予定。若い牧師がセミナーに出てくれるとZoomの画面が明るくなるし、みんなも励まされる」と何度も勧められたという。「参加したらあなたの教会に献金もできる」とも言われた。求道者をフォローしてほしいという動機付けにしても、献金をほのめかすことにしても、少人数で伝道のために苦闘している日本の教会の牧師の心理をくすぐるようなトークだ。
このZoomセミナーに参加した牧師の証言から、「説教の学び」の内容も明らかになった。以下はその実況レポート。
(以下Zoomセミナー参加レポート)
マタイ福音書24章における、ディスペンセーション、携挙、千年王国などの、韓国の牧師がしている説教を「先入観なしに聞いてください」とのことで、牧師の名前紹介も画像もなしで音声のみ、内容を日本語で表示しながら、3人ぶん聞きます。そのあと「どの説教がいちばん良かったですか。参加者のなかで牧師先生は選んでください」と司会者の牧師が日本語同時通訳で尋ね、投票画面が出ます。
わたしは1人目をとりあえず選びましたが、申し合わせたように皆が3人目に投票していました。ほんとうに牧師たちが投票したのかは分かりません。そこでようやく、3人の牧師の紹介がなされます。前の2人はいずれも韓国で急成長している教会の牧師で、素晴らしいが異端の疑いも持たれているという趣旨でした。そしていちばん説明が長かったのが3人目です。
3人目も異端の疑いがあるが、新天地の創始者で、前の2人は神学校を出ているが、この人は独学で神から示されたと。新天地は異端やコロナ拡大の嫌疑を持たれたが、今では何十万人(具体的数字)の信徒がおり、韓国の牧師たちも認め始めていると。ここで、新天地をかつて糾弾していた韓国の二大新聞に掲載された、新天地の一面広告画像が表示されます。コラージュ画像かもしれません。
そのような一連の説明が終わると「福音を語り始めた教会も最初は迫害されましたが、福音はこんなに広がったではありませんか。新天地も今はまだ理解されていなくても、必ず認められます。本日はありがとうございました」で散会、という流れでした。zoomの参加者は皆が日本人のようでしたが、誰も一言も発言しませんでした。
(引用以上)
「以前は異端として迫害されていたが、今では誤解が解け理解されるようになっている」というのは、韓国の異端・カルトがよく使う常套句だ。もちろん、そのような事実はないフェイクだ。
異端・カルト110番では、上記3人の韓国人牧師の説教という画像を入手し視聴した。韓国語の説教は音声のみで、画面にはその日本語訳が文字で表示される。画面の日本語訳は、1人目と2人目のものは長い文脈がまとめて映し出されるので読みにくいが、3人目のものは短いセンテンスが説教の進行に合わせて次の画面に切り替わるので頭に入ってきやすく、わかりやすいように感じる。説教は3人とも「小黙示録」と言われるマタイ福音書24章の終末に関する箇所からで、途中でヨハネ黙示録のいくつかの記述が対比される。1人目と2人目は20分に満たない長さだが、3人目は35分あまり。1人目と2人目の説教は神学用語をまじえ、ときに無千年王国説を批判したりするのに対し、3人目の説教には神学的な説明がなく、一見「聖書そのものを語っている」ようにも見受けられる。
新天地の創始者(李萬煕=イ・マニ=総会長)のものだという3番目の説教は、明らかに「異端的」とはわからないが、注意深く見ていくと、新天地が強調する教えを示唆するような「収穫」「新しい天、新しい地」などの用語が散見されることに気づく。
(以下Zoomセミナーの李萬煕氏の説教の一部抜粋)
黙14章を見ると、シオンの山に救われた者たちが立っていて、シオンの山には神様の御座があり、イエスがいました。
そして、必ず地域だけがシオンという名前を持たなければならないわけではなく、神様が立てた牧者もシオンと言ったならば、そこに行かなければならないですね。
神様が立てたまことの牧者がいるならば、そこに行ってこそ、救われるのではないでしょうか?
このように、救われる山に行きなさい。それは滅亡者の中にいては救われないという意味になります。
この時に、イエス様の前兆が現われましたが、イエス様が、イエスの再臨、イエス様の再臨と言いますが、御使いたちとともに来ると言いませんでしたか?
イエス様が来て、御使いたちと共に来て、(御使たちを)東西南北に遣わして、一つずつ、二つずつ、収穫して集めると言ったのでした。
神様が、その昔、初臨の時、来て、蒔いた種の熟した穀物たちを刈り取って、収穫するのではないですか?
刈り取って、新しい国を創造するためですね。
今、新しい時代を迎えるのではないですか? 以前のものがなくなったからという事です。
新しい天、新しい地が創造されると、黙21章に言ったように、この以前のものたちはなくなるが、わたしの言葉はなくならず、この通り成し遂げられるという事ですね? どれほど本当に強力に話したでしょうか?
それで、一つは連れて行くと言い、一つは残される。あ、御使いたちが、もう、収穫しに出て行って、一つずつ連れて来ているのではないですか?
私たちは、マタイ24章を見る時には、イエス様が、弟子たちが尋ねる言葉に答えた、イエス様が将来に起こる事を預言した御言葉になります。
弟子たちが、いつこのような事が起こって、イエス様が再び来られる時の前兆は、どんな事ですかと言って尋ねました。
あの黙示録をのぞいてみれば、どれくらい知るべき内容が多いのか、分かりません。そうです。
このように、私たちは、この聖書の言葉の意味をわからなければならないし、この世を終らせて、新しい時代を開く神様のこの事件の事々をわからなければならないと思います。
(引用以上)
新天地は従来、正体を隠した潜入スパイ「収穫の働き人」を教会に送り込み、信者を奪う手法を常套手段としてきたが、一方で近年、新天地イエス教は危険な異端というイメージを払拭しようとするかのように、教えの内容をアピールする動きを見せている。今回の自称“宣教師”による求道者を託したいという働きかけと、Zoomセミナーで「新天地創設者の説教」と開示して聞かせる手法は、両者を組み合わせたハイブリッドの新しい手口だろうか?
新天地イエス教のホームページでは(2021年10月15日)現在、次のように既成教会の黙示録の解釈を批判している。
(以下、新天地イエス教HPより。傍線は本紙)
黙示録は例え話で書かれており、現実の世界を通して説明されたものではないとして、現在宗教界で語られる黙示録の解釈は、人間の考えや聖書に基づかない推測によってのみ説明されており、それが信者を惑わせ、社会の混乱を招いている……新天地教会は、黙示録の真の意味を理解するには、例え話で表現された預言が、聖書に基づいて今日の世界で物理的にどのように成就したかを見ることだと強調しています。
(引用以上)
新天地イエス教が10月15日に発表したプレスリリースによると、10月18日〜12月27日にかけて毎週月曜日と木曜日に、『ヨハネの黙示録』の解説を日本語訳付きでYouTube配信する。
その内容は「『ヨハネの黙示録』の1〜22章全ての秘密について、世界で初めて証拠と共に証しするセミナー」だと予告されている。第1回目のセミナーでは、ヨハネの黙示録1章と要約に加え、イ総会長が「イエスキリストが諸教会に遣わした使者」についても説明する予定という。黙示録を「確かな証拠」と共に解説するというキャチコピーにつられて信徒や求道者が興味本位で視聴して惑わされることがないように、注意が必要だ。