違法行為の可能性 全国の教会、宗教施設を無断で掲載 サイトから全能神教会へ誘導
中国発祥のクリスチャンを名乗るカルト「全能神教会」が国内で偽装布教を活発化している。全能神教会(以下、全能神)は中国人の趙維山(チョウ・ウェイシャン)が1989年にウィットネス・リー(地方教会)の影響を強く受けて設立した教会だ。しかし、中国当局に摘発され趙氏は河南省へ逃亡。1983年に全能神教会の名称で本格的な活動を始めたとされる。激しく中国共産党を敵視し、聖書の教えを「神(自分たちの教会」と「サタン(中国共産党)」の戦いだと主張。貧困層や農村部で絶大な支持を得た。
趙氏は信者の社会に対する不満を巧みに利用し、楊向彬(ヤン・シャンビン)という女子学生を中国に再臨した女キリストだと祭り上げた。香港のカルト問題追及メディア「CGNER」によると「当時、楊氏は重い精神疾患にかかっており、判断能力がほとんどなかった」という。趙氏は彼女を利用し、裏で操りながら勢力拡大をはかった。趙氏は大祭司と名乗り、女性幹部7人を「七霊」として崇拝させた。全能神の教会では聖書をほとんど使わない。入信させるための聖書研究会では聖書を一部利用するが、彼らは独自の経典を用いて信仰に導いている。全能神は中国人信者を中心に構成させる巨大コミュニティーだ。国内の正確な信者数は不明だが本紙は「相当数」いるとみている。
全能神も偽装布教を行なう。最近になって彼らの事実上の公式サイトにあたる「宗教と人権を考える会」に信者らが清掃活動をする様子が取上げられるようになった。自分たちを「本物のクリスチャン」と宣伝している。しかし、実質的な活動は隠されたままだ。この団体も従来の所在地である文京区の某ビルから撤退していた。埼玉県川口市差間に「東川教会」を構えるもここも活動している様子はうかがえない。本紙が独自に確認した。再び地下化した可能性がある。都内では新宿区の新大久保にアジトがあることはわかっているが、主に信者の自宅で入信させている。
韓国の新天地は既成教会に忍び込み、信者を引き抜く手口が有名だ。最近は全能神が新天地以上に既成教会に入り込んでいる。本紙には多数の相談が寄せられ、なかには「教えに傾倒し人が変ってしまった」などという深刻な内容もあった。被害は拡大していくと思われる。
本紙は地方の某教会から情報提供を受けた。教会名を伏せることを条件に問題を記事にする承諾を得た。様々な宗教施設を紹介するサイト「LocalPrayers」(ローカルプレーヤーズ)に無断で教会の情報を掲載されたという。一体どんなサイトなのだろか。閲覧してみるとポータルサイト風の作りになっている。教会などの公式サイトから無断転用した写真や一部説教、Facebookなどに投稿した内容がそのまま使われていた。他にも各地域のキリスト教会、カトリック教会、仏教系施設まで掲載されている。どのページも各施設を紹介しているが連絡先が表記されていないのだ。つまり、紹介している教会などに連絡できないようになっている。(*)
(*)一部の情報には連絡先が掲載されている。意図的に掲載情報を操作している。
問題はこれだけではない。ページの左側に「コメント欄」が設けられ、全能神が閲覧者を誘導するようにリンクをいくつも貼っている。リンクに入ると全能神の公式サイトや専用に立ち上げたと思われる勧誘向けのページに繋がる仕組みだ。情報提供元の某教会はすぐに警察に事情を説明したが「海外から発信されているものだからどうすることもできない」と言われたという。本紙は、実際に掲載されている複数の教会に確認したところ、それぞれの牧師から「掲載を許可したことはない」、「初めて見た」などと回答を得た。明らかな無断転載だ。
情報提供元が保存した記録(証拠)を確認するとローカルプレーヤーズは全能神に誘導するための大がかりなダミーサイトであることがわかった。
ローカルプレーヤーズに接触を試みる
情報提供元の証拠資料から100%全能神の関連サイトであることは確認できたが、実際にどのようにサイト側が対応するのか自動チャット機能から問い合わせしてみた。まず、運営に関する情報がどこにも紹介されていない。見るからに怪しい。Facebookアカウントを入力するとサイトに入れるという説明が英語で表示される。見ず知らずのサイトに個人情報を登録するのは危険だ。しかし、このフォームは機能していないようだ。恐らくダミーとみられる。左端から出てきたチャットに質問した。「このサイトはどのような目的で運営しているのでしょうか?」。するとすぐに返信が来た。
「これは当社のウェブサイトサポートです。上場企業に連絡するには、そのページにアクセスしてください。そこに連絡する方法がいくつかあります。しかし、私が何らかの方法で支援できる場合は、私に教えてください」。実に不自然だ。教会や神社を中心に紹介するサイトでありながら「上場企業に連絡するには」と書かれていた。日本語がおかしい。その後、「ありがとうございました」「あなたによいところを紹介します」とも。聞いてもいないのに「キリスト教の教会を紹介するので住所を教えてください」と送ってきたのだ。最終的に不自然な日本語で「大勢ではなく少ない人と聖書を勉強してください。あなたによいところがあるように祈ります」とコメントし、そのまま通信が途絶えた。全能神は既成教会の教えを否定し、ひとりのターゲットに対し複数の中国人信者が囲むように聖書(彼らの経典)を教える。「大勢ではなく」という言葉は、その特徴をよく現すコメントだった。
全能神教会の公式サイトから確認へ
では、全能神側はどう答えるのか。本紙は全能神の公式サイトに入りチャット機能を通じて問い合わせをした。「神様の愛」という人物が登場。途中で名前をN(台湾国籍)と名乗った。女性だといい夫は日本人信者だと言う。こちらはローカルプレーヤーの話題を徐々に出しながら質問に及んだ。長時間のやり取りの末、「全能神のサイトに関係していますね?」との質問に信者Nは「サイト管理の方ですね了解です。よろしくお願いします。」と関連サイトであることを認めた。「(よろしく)伝えてくれますか??」と返すと「はい」と答えた。
LINE登録すればなんでも話すというので、いくつか質問に答えてほしいと返信した。するとローカルプレーヤーズについては、「実際全能神教会のサイトはネット公開しているので、たくさんの証、賛美歌、動画、寸劇、漫才などですね。誰でも見られますね」と回答した。日本語の不自然さと断定的な回答を避けていることは感じたが、全能神がネットを介してさまざまな活動をしていることを認めたことになる。
全能神の信者は中国政府から宗教弾圧を受けたと主張し、世界各地で「宗教難民申請」をしている。日本でも弁護団を立てて難民認定を求める裁判を起こそうとしている。彼らはキリスト教界にも「人権問題」「迫害」だとして賛同を求める働きかけを行なっている模様だ。地方の某教会には、教会関係者の弁護士に自称弁護団が協力を求めてきた。本紙が調査したところ全能神のコミュニティーは拡大中で、首都圏のみならず地方ごとに地下教会が存在することがわかった。
全能神は中国2014年5月、中国山東省で勧誘中の女性を集団で撲殺するという事件を起こしている。いわゆる「マクドナルド殺人事件だ」。被害者の女性は信者に個人情報を渡すことを拒み殺されたという。逮捕された容疑者らは死刑が執行された(香港CGNER参照)。中国では邪教(カルト)として警戒され活動は禁止されている。このような危険性をもつグループであることを忘れてはいけない。韓国では主要教団が教理的な「異端」、反社会的な「カルト」だと規定。勧誘するためにハニートラップや脅し行為も確認されているという。韓国基督教異端相談所協会(会長=陳用植牧師)はたびたび注意喚起を行なっている。組織に依存させ、神に背くことは罪だとして自分たちに服従させている。
教祖らはアメリカに逃亡したとされ、多くの信者が海外に散った。日本でも中国人信者が留学生や就労ビザで入国し、偽装布教で信者を獲得している。女性信者が日本人男性と結婚して滞在しながら布教するパターンだ。全能神信者は日本人男性が夫であるケースが多い。これも本紙が調査し明らかになったことだ。
宗教施設の情報を無断転用するという、違法性がうかがえる手口で全能神のサイトに誘導する悪質な手口について、今後、専門家らと情報共有し実態をさらに明らかにしていく方針だ。
女偽キリストの全能神は教会の礼拝に突如訪れる。十分に警戒したい。
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