キリストの贖罪の有効性と価値を低めようとするその構造は原理講論を引き継ぐ教理と類似
礼拝式や説教をネット配信する教会が増えています。実際に足を運ばなければ触れられなかった、別の教会で語られるメッセージや聖書講座に出会えることは恵みです。けれども、そのようなものの中に、聖書を逸脱した教説が紛れ込んでいる、あるいは意図的にそれが語られていることがあります。最近問い合わせがあったユーチューブとツイッターの「めめちてれび」も、そのひとつのようです。
これは、カジュアルな装いで聖書の解説を行っていますが、この人に聖書の基礎的な素養がないことは初回の開始後1分もせず明らかになってしまいます。そしてなお聞いていると、なぜか「御国、ギリシャ語のバシレイア」をバッシリアと読み、これは「王国」という意味だと強調しながら、「イエス様は王国について何万回も話をされてきた」と言うのです。(新約聖書にバシレイアという単語は162回出て来ます。1万回でも大袈裟です。)さらに、イエス様の十字架の死と復活が神様の御旨ではない、福音ではない、それはキリスト教会が作り出した教義=宗教の教えであって、イエス様が世に来られたのは十字架で死ぬためではないとまで言い始め、もはやこれのどこがキリスト教で聖書の福音なのか理解不能となってしまいました。第2回目の「再臨」の話は…(自粛します)。
ところで、世界平和統一聖殿日本支部〔略式名称・日本サンクチュアリ協会〕という団体があります。「サンクチュアリ教会」とも名乗ります。「めめちてれび」は、キリスト教を装いつつ、このサンクチュアリ教会の教説を流布していると思われます。銃弾をつなぎあわせた王冠をかぶり、迷彩服を着て説教壇に立ち、その説教壇の上には機関銃を掲げている〝異様〟な指導者に率いられ、信徒たちも同様の冠をかぶり、ライフル銃、機関銃、拳銃などを持って合同結婚式などの集会を行う集団です。使われている用語から、統一協会の原理講論を思い出した人もいるでしょう。サンクチュアリ教会の指導者である文亨進(ムン・ヒョンジン)さんは、統一協会の文鮮明(ムン・ソンミョン)さんと韓鶴子(ハン・ハクジャ)さんの7男です。
「統一協会(教会)」は2015年に「世界平和統一家庭連合」と正式に名称変更し、更に今年4月に「天の父母様教団」に名称変更すると発表したところですが(本紙2020年4月6日記事)、文鮮明さんの影響力が落ち始めた頃からずっと、分裂や幹部の「くら替え」など混乱が続いています。そして、「サンクチュアリ教会」の指導者である文亨進さんは、父である故・文鮮明さんから「王権」を継承したと主張し、自らを正統な「王・King」であると自称している、おおよそキリスト教の教理から遠い人です。
経緯や実態を知りながら、このような団体に近づく人は少ないでしょう。ところが驚くべきことに、「めめちてれび」をフォローしている人は数百人います。キリスト教ではあり得ないものが、偽りの看板を掲げて聖書の真理を求める人を惑わそうとしているなら、一人の牧師として警鐘を鳴らさずにはいられません。また、この「めめちてれび」で解説する人も、自分が解説した内容が本当かどうか調べてみたら、赤面するしかないでしょう。深く同情しています。
聖書を用いて異なる教えをする団体は、「既成キリスト教会は、イエス様が本当に伝えようとしていることを理解していない」という主旨の主張をするのが常です。激しく間違っているギリシャ語解説と無茶苦茶な聖句の引用も、視聴者をチンプンカンプンにさせる効果がありました。そうやって視聴者を混乱させておいて、次第にキリスト教とはかけ離れた教理を語り聞かせ、最後にまた再度どう関連するかも分からない聖句を並べて、もっともらしい装いをする。これは統一協会の原理講論の教え込みでも多用されていた、マインド・コントロールのテクニックのひとつです。
今の時代には、多くの異端・カルト団体が、ネットやSNSを活用して釣り糸をたれています。ですから、どうか聖書全体をふまえ、よく吟味してください。聖書は実にすぐれた信仰の書物です。聖句の一部分を取り出して誤解させることはできても、前後のつながりを調べてみれば、その解説・その読み方はおかしいと気付かせてくれる力があります。皆さんが信ずべきではないものを信じて、神様と自分と周囲の人たちを悲しませることのありませんよう、聖書に親しむ毎日を神様が守ってくださいますように。
執筆:豊田通信(日本基督教団小田原教会牧師・日本基督教団カルト問題連絡会世話人)