教祖は服役中。過激な言動を繰り返す信者らの動きを警戒

 2019年末頃からYouTubeやインターネットを通じて「恩恵路(ウネロ)教会」が過激な抗議活動を行なうようになった。動画サイトでヒットすることもしばしば。気になっていた人も多いのではないだろうか。興奮した様子で韓国人の教会信者が声を荒げ、既成教会やカトリックを名指しで批判。ウネロ教会の牧師、申玉洙(シン・オクチュ)氏を聖霊だと主張し擁護し続けている。日本語専門のチャンネルや、教会が出版する書籍も国内に出回っている。今回、韓国の主要教団から異端規定を受け、教祖が逮捕され、暴力事件や奇妙な言動が目立つウネロ教会について詳しく報じてみたい。

恩恵路(ウネロ)教会の申玉洙(シン・オクチュ)牧師(現在は受刑者)

ウネロ教会は日本ではほとんど知られない韓国の単立教会だ。教団や組織に属していない。教会の規模も小さく、信者数は推定600人前後、海外にいる信者を含め多くて1000人以下だと考えられている。牧師を務める申玉洙(シン・オクチュ)氏は2019年7月25日、詐欺、監禁罪など9件の罪で懲役7年の実刑判決を言い渡され現在も服役中だ。ウネロ教会は「自分たちだけが特別な存在」と主張し、申氏が説く異言の真理を信じ聞き入れない者は、病気、飢饉、災害によって神から罰せられ地獄へ落ちると信じているのだ。

教会が設立した2013年から、他教会を激しく罵倒する申氏の過激な説教に加え、集う信者同士の暴力的儀式が繰り返し行なわれてきた。そのような点から韓国では、社会的にも危険な教会と認知されている。キリスト教メディアもウネロ教会の問題を報じてきた。

キリスト教ポータルニュースによると、申氏は教理的に明らかに聖書から逸脱しているとして、主要教団は2014年から2018年にかけてウネロ教会を異端、参加禁止、集会参加禁止と規定した。この規定に反発した申氏は長男であるダニエル・キム氏を中心とした幹部を動員して主要教団の定例総会を妨害させ、異端研究者を「地獄へ落ちるサタン」などと決め付けて教会を襲撃するなど行動がエスカレートしていった。

申氏はもともと中国で活動する宣教師だった。帰国してすぐにウネロ教会を設立している。ところが、申氏は説教で自身を「聖霊」だと語り始めた。再臨のキリストだとは言わないが神と同格の存在であることを信者たちに誇示したのだ。

教会設立、1年後からはじまった暴力事件

2013年に設立されたウネロ教会は、たった1年後の2014年には大韓イエス教長老会合神総会(第99回)で「すべての教理において異端性が溢れている」という報告書を受け「異端」と規定された。通常は規定に至るまで1年間の調査が必要なことから、申氏が設立直後から警戒されていたことがうかがえる。2015年には高神総会が「参加禁止」と規定。2016年には統合総会が「異端」、合同総会が「参加禁止」、2018年は大神総会が「異端」と規定した。その理由は、「異常なキリスト論」、「牧師貶(おとし)め」、組織神学の全項目において問題があると結論づけた。特に申氏は礼拝の説教の中で既成教会を罵倒する発言が目立ち、異端規定した教団所属の研究者を「サタン」、「敵対すべき者たち」と題して批判しつづけた。このような言動が「牧師を貶める」と警戒されたのだ。

申氏は、2014年12月21日の教会説教「敵対すべき悪魔 チェ・サムギョン、パク・ヒョンテク、チン・ヨンシク、イ・インギュ」で自分は肉体的に死なない存在であると強調した。説教の題目で名指しされた人物らは韓国主要教団を代表する異端カルト研究の専門家たちだ。

2014年9月、韓国バプテスト教会総会が開かれる中、会場周辺にウネロ教会信者が集合した。関係する牧師への誹謗中傷を繰り返した(写真:キリスト教ポータルニュース)

 

自分たちを攻撃していると思い込んだウネロ教会員が突然、大林監理会教会を襲撃した。イ・インギュ氏(写真中央)は信者に暴行を受け、教会の3階から1階まで引きずりおろされた。(写真:キリスト教ポータルニュース)

主な事件・トラブル

2014年12月14日大林監理会(メソジスト)教会に突然押しかけ、聖歌隊に立とうとしたイ・インギュ伝道師(一般信徒団対策協会代表=当時)に襲いかかり、激しく暴行を加えて階段からひきずり下ろした。

2014年12月31日 前・世界キリスト教異端対策連合会代表会長で異端研究家の崔三卿(チェ・サムギョン)牧師に抗議するため光と塩教会(大韓イエス教長老会統合)に200人の信者が集合。機動隊が出動する騒ぎとなった

2015年1月6日午前 異端問題専門誌「教会と信仰」の事務所を襲撃。器物破損事件を起こす。

2015年1月6日  申玉洙牧師を異端規定した大韓イエス教長老会合神総会の新年祝賀式会場に信者多数が突然乱入。小麦粉をまき散らし大暴れ。警察により拘束された。

2015年2月 大韓イエス教長老会合同派の大田(テジョン)中央教会に乱入。教会関係者を威嚇。

その他にも複数の教会で不法侵入、器物破損、暴力沙汰を起こしている。ほとんどの事件に申氏の長男や教会幹部が関与していた。

抗議活動をするため敵視する教会周辺に集まったウネロ教会員。手前は機動隊

カトリック教徒にすべての災害が下ると主張する信者(写真:ウネロ教会YouTubeチャンネルより)

 

ウネロ教会の申玉洙氏が主張する教理

申氏が説く聖書観は既存の教会と大きな違いがある。第一に聖書の解釈が異なる。特に聖書に出てくる単語を比喩(たとえ)として説教するのが特徴的だ。申氏は2013年9月4日の説教で「神様は比喩でしか語らなかった。聖書に記録された御言葉はすべて比喩だ。信じないならすぐに出て行け」と語っている。

第二に異言と異言の通訳者(解き明かし)を強調している。2013年4月28日の説教では、「聖書の御言葉は神様がすべて異言で語っている。この異言は誰も理解できない。だから聖書的な異言は解き明かす者が必要だ。誰でもできるわけではなく私しかできない」と主張している。

第三に、ヨハネの黙示録に登場する終末の教えについてだ。申氏は「666は獣の数で7はイエスを指す数だ。8はキリストを意味する」と説いている。

第四に、申氏はイエス・キリストについて別々の存在であると「分離的教理」を語る。イエスは肉体をもつ人間そのものであってキリストは霊的な存在、すなわち神だと教えている。「聖書に書かれた文字はイエスという人間の働きの記録であり、そこに書かれた比喩を解けば神であるキリストの意味がわかる」と述べている。(出典:「私の考えは君たちとは違う」53ページ)。この理論を利用して自身を聖霊だと紹介している。自分をキリストだと言いかねない危険な思想だ。

第五に、申氏は旧約の歴史を終末的なスケジュール表として教え、「今が収穫の時だ」と強調している。極端な終末思想と異端規定されているタラッパン運動(柳光洙氏)、地方教会でよく使われる教理も用いている。この教えを通じ、信者に恐怖を植え付けている。

申玉洙氏は2014年12月21日「敵対すべき悪魔」の説教で「私たちが今まですべての人が死ぬ様子を見てきたから死ぬと思い込んでいるだけだ」語った(写真:キリスト教ポータルニュース)

ウネロ教会の信者は「死なない」

申氏は次のように語る。「私の言うことを守れば永遠に死なない。じゃあ、なんで人は死んでいるんだ? 本当に肉体が死なないと信じるか? えっ? (信者=アーメン!)。あなたたちは人が必ず死ぬと思うでしょ? それはすべて悪霊がそう思わせているだけだ。」

「私たちが今まですべての人が死ぬ様子を見てきたから死ぬと思い込んでいるだけだ。だから、肉体も死ぬと考えてしまう。そう、そうだな? あの(ウネロ教会を批判している牧師の)教会は金持ちで納骨堂と教会墓地を作った。聖書通り正しいことか? 信じるのか? (いえ。信じません!)だから彼らは墓地なんか作るんです。教会の地下に納骨堂だって? 狂った馬鹿どもだ。聖書を信じずそんなことをしている」。クリスチャンは肉体も滅びないのだから、既成教会の牧師は死んだと思い込んで埋葬している、と不可解な言動を繰り返しているのだ。

このようにウネロ教会は永遠のいのちを信じている。彼らは「永遠のいのちを信じる」から異端ではないとYouTubeチャンネルで主張している。しかし、よく聞くと「肉体的に死なない。この地上で永遠に生き続けると聖書は教えている」と述べている。既成教会の永遠のいのちという信仰とはかけ離れたものだ。

では、なぜ、人は死ぬのか?ウネロ教会側は「不信仰だから」、「世の中のプロテスタントとカトリックは不信者だから滅びる」と説明している。ウネロ教会では信者が病死しても「死んだと思うのはサタンがそう見せているだけで生きている」と信じるという。また、申氏は「この人は不信仰だったからこうなった」と誤魔化すのだ。

最後の楽園フィジー移住計画

多くの異端カルト教祖は聖書から終末論を取り出して信者たちに無理を強いる傾向がある。申氏は地球滅亡という終末を強調して信者に不安を煽り、自分たちだけが唯一生き残ることができるという夢を与えようとした。申氏に従えば、地球は滅びても信者は死なないと信じているのだ。申氏は2013年から続く説教の中で「間もなく、全世界に大飢饉が起こる」と預言してきた。信者には食料の備蓄ができるフィジーに移住すれば滅亡を免れることができると教えてきた。それは移住するためには全財産を教会に捧げるという条件付きだった。約400人の信者が「誓約書」にサインすると韓国を離れ、フィジーに住み着いた。なぜ、よりによってフィジーが最後の楽園なのだろうか。

申氏は創世記10章6節を通じて次のように語っている。「ノアの息子たちハムとクシュの住む地。南にある島国(フィジー)は約束の地だ」。さらに2017年11月27日には「未開の地を軽蔑するな。美しい産業が期待できる喜びの地」というタイトルで説教した。申氏はますますフィジーに固着していく。「神様がくださった約束の地はフィジーであり、フィジーを馬鹿にしたり誹謗したりしてはいけない」。そして、「約束の地は自分たちの目で見なければいけない」と言って信者の移住計画を宣言した。移住する理由は、「社会的混乱から逃れるためだ」と当初は説明していた。こうして申氏の言葉を神の語る言葉と信じた信者たちはフィジーに移住し、無賃金で農業に従事し、独特なコミュニティーを確立した。

しかし、なぜ400人もの信者がフィジーに移住できたのだろうか。実はフィジーには特別な移民制度がない。代わりに移住許可制度が充実しているのだ。移民局が求める条件を満たせば誰でも移住が可能だという。特に非営利目的で移住する場合は、満45歳以上に限って少なくとも3年間はフィジーで暮らすことができる。学生も特に厳しい審査がなく学生ビザが発給されるのだ。ウネロ教会の申氏はこの制度を知ると悪用し、フィジーこそ神が約束した未開拓の地だと惑わした。

日常的に繰り返される信者同士の暴行的儀式 教祖による虐待

申氏は活動の終わりに毎日「反省会」を開き、信者同士で叱責させ肉体に宿る悪霊を浄化する「馬の調教」という儀式で互いに顔面を激しく殴りあわせる。また、自称聖霊だという申氏みずからバリカンや剪定ばさみを持ち出し、信者の髪の毛を無造作に切り落とすことも常態的に行なわれていた。

未成年の女子学生も丸坊主にさせられた。この過程で重傷を負い、精神的苦痛やPTSDをこうむった信者も少なくない。教会員同士が互いに責め合い、罵声を浴びせたたき合うのだ。脱会者による通報で実態が明らかになったが、教会側は「愛のある躾」だと主張し、「申牧師は人格的に何一つ非のない方だ」などと主張する宣伝用のYouTubeチャンネルを開設し反論している。

「告発するだと?どこでそんな言葉を覚えた?できるもんなら告発してみろ」申氏はそう言いながら男性信者に暴行を加えた。申氏は信者の心の声が聞こえたという理由で犯行に及んだ。

攻撃性が強いウネロ教会は様々な事件を引き起こしてきた。集団が教祖のために他者を傷つけ、自己正当化のために個人攻撃を続ける、この教会は破壊的カルトだといえよう。また、マインド・コントロールされた信者の言動をもっとも容易に確認できるグループだとも言える。どの主張も聞くだけで恐ろしい内容ばかりだ。脱会者は「申牧師は機嫌が悪いと狂ったように殴ってきた。礼拝中、突然はさみを持ってきて信者を悪霊だと罵り、髪の毛を切ることもあった」と話す。

申氏から激しく叩かれる未成年の女性信者。悪霊を追い出すという理由で何時間も行なわれる。両親が同席し「アーメン」と叫ぶ。

日本にも隠れ教会がある

今まで日本国内の活動は確認されていなかった。ところが、ここ数年、ウネロ教会の韓国人信者が韓国人宣教師に接触。数名が彼らの教会に傾倒するという問題が報告されている。活動の実態が確認されたことになる。ただ、国内の拠点は不明で教会もどこにあるか分かっていない。しかし、教祖の正当性と潔白を主張する日本語字幕付きの動画がいくつも配信され、なかには未成年の子どもまで申氏を聖霊様と呼び、暴行事件や横領の容疑は異端研究者たちによるねつ造だと述べている。

日本国内で勢力が広がれば、韓国同様に暴力的な攻撃活動に出る可能性は否めない。これを「集団テロ」と呼び韓国教会は警戒している。ただ、残された信者は全体で600人程度、どんなに多くても1000人以下だとされ、400人程が今もフィジーで暮らしている。最後の楽園と信じて申玉洙という自称聖霊を信じ、朝鮮半島における南北軍事衝突、通貨危機、大飢饉などから逃れ自分たちだけがフィジーの地で永遠に生きると信じているのだ。

耳を疑うような言葉で既成教会に災いが望むと主張する信者。専門家は「カルト信者特有の言動がよくわかる動画だ」と指摘している(写真:ウネロ教会YouTubeチャンネルより)

楽園で起きた悲劇

彼らは間もなく訪れるという世界的大飢饉に備え、自分たちだけが生き残るために、ある者は家族を捨てる。社会との接点を断ち切ってフィジーへ移り住んだ信者たちは本当に幸せなのだろうか。彼らは世の終わりに備え、毎日食料を備蓄し田畑を耕して集団生活を送っている。移住する前に申氏から全財産を取上げられ、パスポートも没収されている状態で、ほとんど現金を所有していないという。現地を取材したメディアによると、信者は無賃金で1日約14時間の重労働を課せられていた。

仕事が終われば、お互いに叩き、殴り合う。この儀式は夜遅くまで続く。信者は言う「これは愛の鞭。痛みに耐えた人は信仰の勝者だ」と。この境遇に耐えかねて多くの信者が脱会した。ドキュメンタリー番組で「苦しくても仕事を続けるしかなかった。ウネロ教会は申牧師の奴隷状態だった。フィジーへ渡っても殴られつづけた」と脱会者は証言した。

申玉洙牧師と息子のダニエル・キムことキム・ジョンヨン氏。二人がウネロ教会を率いている(写真:キリスト教ポータルニュース)

フィジー政府とウネロ教会の関係

ウネロ教会にフィジー政府が貸した土地は175万平方メートル、約35万坪にもなる。さらにグレースロードチャーチ(ウネロ教会の英名)の名前で主要都市に約60店舗もの飲食店を出店している。事業規模はかなり大きい。なぜ、外国人の彼らがここまで定着できたのだろうか。

その理由は申氏の息子ダニエル・キム(本名=キム・ジョンヨン)氏の存在にあった。現地にはウネロ農場やグレースロードファーム、レストラン、カフェが数多く建ち並ぶ。「GRグループ」などと呼ばれている。申氏の息子ダニエル氏は事業を展開しながらフィジー首相はもちろん、政府関係者と親密な関係を築いた。そして政府系メディアが大々的に報じたことでウネロ教会は歓迎されるべき移住者として広く知れ渡るようになった。表向きは農地開拓など献身的なキリスト教団体でも、内部は信者同士で監視し殴り合うというカルト集団だが、政府関係者も現地住民もまったく気付かなかった。

他にも現地の信者が死亡する事件が起きている。教会側は「高齢で死んだ」と説明するが、脱会者らは「重労働と日常的な暴力が原因だ」と反論。信者は死なないという教理については、「サタンが入ったので滅びた可能性がある」と弁明した。のちの捜査で1年間に9名もの信者が原因不明の死を遂げていたことがわかった。

フィジーの至るところにウネロ教会(グレースロードチャーチ)の看板が立っている(写真:キリスト教ポータルニュース)

教祖逮捕 懲役7年の実刑判決

2017年7月26日、恐怖に怯えた信者らがフィジーから出国しようとしてダニエル氏に見つかり、罰として激しい暴行を受ける事件が起きた。韓国警察が現地入りし、息子のダニエル氏と幹部級信者5人が暴行の容疑で逮捕された。しかし、フィジー政府の働きかけで容疑者らは釈放された。韓国警察は「ウネロ教会とフィジー政府は金でつながっている」とみている。

被害者から告発を受けたウネロ教会代表、申玉洙氏は2018年7月25日、韓国仁川空港で未成年の信者に対し暴行を加えた「児童福祉法違反の疑い」で逮捕。その後、詐欺、横領、監禁罪、人権侵害など9件の罪で起訴された。2019年11月5日、水原地方裁判所第8刑事部は被告の9件の罪すべてを有罪と認め、懲役7年の実刑判決を言い渡した。申受刑者は現在も刑務所に服役中だ。しかし、教祖が収監されてもウネロ教会は過激な言動を続けている。

この度、申受刑者は刑務所の中から次のようなメッセージを発信した。「世界で起きている新型コロナ(申受刑者は肺病と言う)は聖霊である私を不当に牢に閉じ込めたから」と。

日本ではウネロ教会信者を名乗る自称日本人がキリスト教団体に接触を試みている。動画による過激な主張も更新され続けている。日本で活動を許すわけにはいかない。関係機関と連携して対策を講じる必要がありそうだ。