摂理の現在の様子。「今も性被害を受けたという相談を受けている」
会場に集まった取材に対し、ミン氏はマイクを握り自分の犯行をすべて認めた。2003年秋、ミン氏(元摂理神学校会長:会見時、指名手配犯)が自宅に掛かってきた電話を取った。「もしもし?」。受話器の向こうからいつもの声がはっきり聞こえたという。その声の主はキリスト教福音宣教会(摂理)最高指導者、鄭明析(チョン・ミョンソク)氏から直々の電話だった。「9年も前の出来事ですが昨日のことのように覚えています」ミン某氏はそう述べた。教祖鄭氏からの指示はとても短く簡素なものだった。「○○から話をよく聞かせてもらった。今度はお前が苦労しなければいけない。祈っているから」そう言うと教祖は電話を切った。ミン氏はこの電話で教祖が何を言いたいのかすぐに理解したという。そしてためらうことなく実行に移した。
ミン氏の今回の会見は摂理の元最高幹部級指導者(脱会者)らによる「集団告発会見」の中で行なわれた。ミン氏は傷害致傷罪他、複数の容疑で全国に指名手配されている人物だ。この事件の真実を取材陣の前で告白し自首するために会見にのぞんだ。
動画は反摂理活動家「エクソダス」のメンバーが逃亡先の香港で鄭氏が女性信者と野外で性的接触を行なっているところを発見し撮影したものだ。鄭氏はメンバーらによって逮捕された。「この野郎!撮るんじゃねえ!行け!」など汚い言葉を吐きかけている鄭氏。この動画への報復でテロ行為が始まったとされる(映像:YouTube 2003年に撮影されたもの)
逃亡中の教祖鄭氏は、女性信者と性行為に及ぶ現場の映像を撮影しそれを暴露したエクソダス(反摂理活動家)や追及する報道機関に手を焼いていた。潜伏先の香港の砂浜で複数の女性信者と性行為に及んでいるところをエクソダスが突き止め撮影。慌てて下着をはき動揺してか靴もはかずに別荘に逃げ込む姿が映された。鄭氏は激しく抵抗し罵声を浴びせた。このような「暴露映像」を撮影したキム氏を鄭氏は殺害するように命じたというのだ。
鄭氏の指示のもと幹部信者は反摂理活動家の主要人物らを探し出し、暴行し痛めつけるように密かに話が進められていたという。この一本の電話でミン某氏は「テロ行為に及べという教祖からの指示だとわかった」と述べた。
テロ行為は、電話を受けて間もなくミン氏の指揮のもと複数の信者と共に実行に移された。反摂理団体の一人キム・ヒョンジン氏の帰宅途中を狙い、複数の信者が鉄パイプや木製バット、陶器の破片で激しく殴りつけた。ミン氏は「メシアの指示だった。キム氏を殺すつもりで痛めつけた」と告白した。「キム氏らは香港に不法滞在中の教祖鄭氏が裸の女性信者と乱交する様子を撮影した。この情報がさらに広がればメシアの威厳が保たれなくなると思った」と述べた。
ミン氏は、集まった報道陣と逮捕のタイミングをうかがって会場で待機する警察関係者の前で次のように打ち明けた。「間違いなく2003年のことです。教祖鄭氏は性的暴行事件で信者らに告発され海外逃亡中でした。当時、教祖の警護担当をしていたI氏と会いました。I氏は私に『先生(鄭氏)からキム・ヒョンジンを殺すように言われた。一緒に殺そう』と誘ったのです。当時の私は組織にマインド・コントロールされていたのでその言葉に何の疑問も感じませんでした。私は、『考えておこう」と答えました。その数日後でした。教祖から直々に電話がかかってきたのです。」このI氏は当時の大統領警護(SP)の仕事をしていた人物だった。
ミン氏は、「教祖が電話で言った“苦労しなければならないな”という言葉は目障りなキム・ヒョンジン氏への殺害命令です。この事件は教祖による殺人指示であることは明らかです」と強調した。記者側から「教祖の殺人指示を断るわけにはいかなかったのか?」との問いに「私たち(当時)は教祖鄭氏を再臨したイエス様の霊が臨んだ“メシア”と信じており、語る言葉はどんな内容であれ喜んで実行していました」、「私は鄭氏の言葉を神の言葉と深く信じて、キム・ヒョンジン氏は神を貶める人物だからどんな手を使ってもかまわないと思い、それは真理で、それは天国の喜びのためだと信じて犯行に及んでしまいました」と答えた。
キム・ヒョンジン氏への暴行事件後、ミン氏は全国に指名手配された。ミン氏は予め準備していた計画通りに逃亡し9年もの間、潜伏生活を続けた。身分証明書は偽造したものを携帯し、電話は持たなかった。ミン氏は言う。「このような潜伏生活中、一度も教祖を恨むことはなかった」、「教祖からの指示、そして事件は隠し通して墓場まで持って行くつもりだった」と語る。しかし、このミン氏の心に大きな衝撃が走る映像を目の当たりにする。摂理被害者対策協会が公開した教祖による性的暴行事件に関連する映像と被害者女性の証言記録を読んだからだ。彼は教祖の性的スキャンダルは百も承知のことだった。教祖と性的に交わることで女性信者は信仰的に一人前になるという教理も疑う余地もなかったという。しかし、潜伏生活を続けた彼にはその被害の実態があまりに悲惨でむごいものだとわかると途端に目が覚めた思いがしたという。被害者の手記や映像を通じて、「これが今まで信じて従ってきた鄭氏の本性だったのか・・・。」彼は教祖への忠誠心が崩れ落ち、強い疑いに変わっていった。「居ても立ってもいられなくなり、20年もの間、こんな人間に騙されてきたのかと悔しくて悩んだ挙げ句、包丁を手に自殺しようと思った。その途端、かつての信者の顔が次々に浮かんだ」、「今、私が死ねば誰が本当のことを明らかにできるのか? まだ摂理に惑わされている仲間がいるではないか? こうなったら覚悟を決めよう。皆さんに摂理の本性を暴露し、捕らわれている信者を救いたい」そう決意したという。「死ぬことより生きてやるべき責任があると思った」とミン氏は言葉を詰まらせながら語った。
ミン氏は会見の席でこう述べた。「皆さま。私がキリスト教福音宣教会の教祖鄭氏による殺人指示を暴露したのは、私が彼を貶めるためでもなければ、誰から金をもらって語らされているのでもない。あの教会に溺れたかつての部下や兄弟姉妹を想うと、一日も早く真実に目を向け抜け出してほしいためだ」と語った。9年間逃亡したこと、教祖の指示を受け自分が中心となってキム氏に暴行を加えたことを深くお詫びすると謝罪した。「今から自首します」と会見席で述べると、会場で待機していた警察関係者が一斉に取り囲み、警察署に連行された。ミン氏はその場で逮捕された。
ミン氏が関与した事件を振り返る。摂理の牧師らによる集団テロ行為の実態(ニュースアンドジョイ報道)
2003年7月9日、驚くべきニュースが香港から韓国に伝わった。キリスト教福音宣教会の鄭氏が反摂理活動家「エクソダス」のメンバー2人によって現行犯逮捕されたというニュースだった。数年にわたり鄭氏の潜伏先を追跡調査していたエクソダスにとって大捕物というべき成果だった。しかし、鄭氏が宣教のために海外に滞在していると信じる摂理信者にはまさに青天の霹靂ともいえる悲報だったに違いない。
鄭氏逮捕の瞬間を撮影した動画はテレビやネットを通じて瞬く間に広まった。映し出された教祖の姿はあまりに惨めだった。下着を慌てて履き横には服が乱れた女性信者がいたからだ。摂理信者は教祖の性的戯れに失望するどころか、信じて従う教祖を貶めたとエクソダスに激しく抵抗する姿勢を示した。香港で拘留された鄭氏は保釈金10万ドル(約1000万円)で解放されるとすぐに行方をくらました。中国本土に密航したと見られる鄭氏を再び捕まえるために息をのむような追撃戦が繰り広げられた。韓国内も例外ではなかった。鄭氏逮捕後、表舞台には出ない「見えない戦い」が繰り広げられた。
摂理対エクソダス、長年にわたる対決が摂理側による暴力に飛び火
戦いというにはあまりに一方的な内容だ。エクソダスに対する摂理の組織的テロが始まったのだ。2003年8月20日午後9時、第一段階が始まった。エクソダスの事務所で時事ジャーナルの記者がキム・ドヒョン氏(エクソダス会長)とキム・ヨンス前会長に取材をしていた。摂理側はこの3人に予め計画的に狙いを定め犯行に及んだ。4人の信者が乱入し記者を含む3人を殴りつけた。3人とも重軽傷を負った。テロは再び行なわれた。同年10月11日午後6時、事務所内で夕拝(メンバーは既成教会のクリスチャン)の準備をしていたところ摂理信者が乱入。メンバー2人が大けがを負う事件が発生した。暴行を受けたメンバーのひとりは肩の骨が折れる重傷を負った。
摂理信者による暴力事件は明らかな犯罪行為で2度にわたり行なわれたにもかかわらず、韓国警察の初動捜査は実に簡略的なものだった。当時、事件を担当した刑事は「双方に過失あり」と事件を早期に終了させた。
エクソダス襲撃事件後、摂理のテロ行為はますますエスカレートした。その手法は「残忍」そのものだった。2003年10月26日午後8時40分、同団体メンバーのキム・ヒョンジン氏が自宅のすぐ近くで集団暴行される事件が起きた。犯人グループは鈍器のようなものでキム氏の頭部を集中的に叩き付けた。頭部の7箇所が裂け、25針縫う重傷を負った。
キム氏は香港で鄭氏の潜伏先を突き止め女性信者らと行為に及んでいる最中に引きずり出して逮捕した人物だ。今回の事件は教祖逮捕に直接関わった人物を狙った点、凶器に鈍器のようなものを使い頭部を集中的に狙った点(殺意)、事前の犯行計画が徹底されていたことが明らかになり深刻さが一層増したことになる。しかし、ここでも警察の捜査は大幅に遅れた。
同年10月29日午後10時5分、最も恐ろしい摂理によるテロ事件が発生した。同団体会長キム・ドヒョン氏の父親(63)が自家用車の中で何者かに襲われたのだ。怪我の程度は重傷で顔の骨が大きく陥没し脳が激しく損傷した。摂理との問題に一切関係ない家族にまで及んだ犯行について摂理本部は「自分たちは何も関係ない」という立場を強調した。しかし、摂理の主張は偽りだった。同年12月、警察に逮捕された犯人の供述内容が明らかになった。実行犯(容疑者)は7名、摂理の立場ある牧師、副牧師、伝道師、信徒と全員が摂理のメンバーだったのだ。彼らは刑事裁判の1審で懲役5年が求刑された。
現役の小学校教諭がテロの共犯
エクソダス側は今回の事件の調査報告として仁川(インチョン)のB小学校教諭が事件に関与していると指摘した。その後、追加報告で教諭の実名と勤務する小学校名を公開。「調査でこの教諭が被害者の父親を襲撃するために自宅近くで潜伏していることを突き止めた。事実ではないという証拠があるなら私(エクソダス)を名誉棄損で告発すればよい」と主張した。同団体は裁判の過程で合法的に警察の捜査記録を閲覧したと述べた。数千ページにわたる記録には「まだ検挙されていない共犯が多くおり、逮捕された実行犯の供述には嘘が多い」と書かれていると明かした。
摂理信者が犯行に使用した器材。スパイ映画を彷彿させる装備を携帯していた
摂理の組織的犯行が明らかになりつつある中、摂理は従来の「告訴」「告発」は躊躇せず行なうと主張し始めた。1999年、PC通信社「千里眼」で鄭氏を批判する文章を掲載したネットユーザー30名を集団告訴したことがある。摂理による韓国内の訴訟(告訴)は約30件以上確認されている。これは彼らの特徴の一つだ。
警察の捜査能力を超える摂理信者らによる捜査に唖然
今回のテロ行為はスパイ映画顔負けの計画的な犯行だったことが明らかになった。警察が容疑者から押収したものの中には被害者のクレジットカード番号、住民登録番号、遠隔で撮影したターゲットの顔写真の数々。摂理側はエクソダスメンバーを日常的に尾行し、行動記録を詳細にわたりメモしていた。また数回のテロは未遂に終わったことを示す内容も見つかった。メンバーが交際している女性の自宅住所、電話番号、家族構成、車には追跡装置まで取り付けて監視していた。宗教団体が犯した恐ろしいテロ行為が次々と明らかになっても摂理は無関係を貫いている。
9月9日に開かれた控訴審で判決を控えた被告らは裁判官にむかって説教するという常識外れの態度をみせた。7人の被告は「殴られる原因を相手が作ったから」などと突拍子もない主張を繰り返した。
元最高幹部級の信者ら共同記者会見「実態を明らかに」(キリスト教ポータルニュースによる報道)
会見に同席したキム・ギョンチョン元摂理神学校長は、「反摂理活動を行なう人物は教団内ですべて把握している。特に教祖の性的スキャンダルを追及する人物らの動きが確認されると教祖自ら『おまえたちはなぜ、私と一心同体になろうとしない?』、『何を考えているんだ?』『数万人がいても無駄だ(精鋭化された信者だけでやれ)』と口走るようになる。これは教祖が目障りな人物の口封じを命じるときの隠語のようなものだ。信者はすぐに理解できる」と説明した。キム・ギョンチョン氏は摂理のいわば「最高幹部級」の人物で脱会後、講演活動に精力的に取り組んでいる。現在もっとも「摂理の細部」を知る人物と言われている。
キム・ジンホ元摂理事務局長も「今、逮捕されたミン氏の証言を聞いて分かるとおり、キリスト教福音宣教会側と今回のテロ行為は連携したものだ。個人でテロ行為を行えるような組織ではない」、「このような追及側の人物を勝手に襲えば、それこそ教団には大きな打撃となる。だからこそ上層部の指示なく個人的に犯行に及ぶことは絶対にありえない」と述べた。
ミン氏逮捕を受け、キリスト教福音宣教会側は「鄭総裁においては特定の人物に意図的に組織的にテロ行為の指示を下した事実はない。今回の事件は信者個人による自発的で偶発的なものであり、本教団が組織テロ集団であるかのように歪曲させた会見内容は、鄭総裁の犯行だと決めつけようとする悪意あるものだ」と強く反論した。会見に臨んだキリスト教福音宣教会元指導者級信者3人は、「この教団は表面上は正統なキリスト教を標榜しているが、これはとんでもない嘘だ」、「摂理という教会は一言で言えばセックス教団だ」と強く非難した。当日は鄭氏と女性信者たちの内部映像が放映された。
「動画に登場する女性たちは現在幹部級の信者たちだ」と述べた。女性たちは全員が全裸で額に入れた鄭氏の写真をキスしたり舐め回すなど楽しげに笑いはしゃぐ様子が映し出された。鄭氏に向け愛の告白をするシーンも流れた。この動画は2007年1月26日に摂理側が製作したものだという。会見に出席した前事務局長のキム氏は、「この映像は鄭氏が中国に逃亡中、性的ターゲットにされた女性たちの動画カタログだ」と説明した。「こうして女性たちは鄭氏のもとに派遣され被害者となった」という。「これだけの数の女性を準備する背後には鄭氏のために準備に関与する女性信者がいる」とも指摘した。
取材陣が集まった会場で「主よ!主よ!」と叫び続ける女性信者の声が映像から響き渡った。会見側は「このように女性が狂うのは摂理が教える堕落論に由来している。鄭氏が説く教義には原罪は性的堕落からきており、堕落した人々が神に立ち返るためにイエス同格の鄭氏と清く正しい性的関係を持つことが救いだと信じ切っている。そう洗脳された女性たちは惜しみなく狂ったように体を捧げ破滅の道に陥る」と説明した。続けて説明が加えられた。踊り狂う信者の動画を放映しながら「鄭氏との性行為こそ最も高い次元の救いだ。彼と結ばれた女性は天の花嫁と呼ばれ祝福に預かることができる」と述べた。「脱会した女性は摂理特有の恐ろしい教理から目が覚めたときには体験した事態に深く傷つき、心理的恐怖で混乱してしまう」と語った。
会場には摂理の女性信者が乱入し大声を張り上げながら「この人たちには良心というものがないのですか!」と抗議した。「これを読めば分かります」と言って取材陣に反論資料を配付した。そこには「彼らは虚偽事実を報道して集団被害者補償金をもらうことが目的」と書かれていた。摂理側は「鄭総裁は無罪。性犯罪は一切行なわれていない。このような動画は偽物で証拠にならない」と反論した。
キリスト教福音宣教会は鄭氏が性的暴行事件で逮捕、起訴され刑事裁判を経て10年間の懲役刑を言い渡された事実を「認めず」、事件はねつ造されたという主張を繰り返している。2018年2月18日に10年の刑期を終えた鄭氏は出所した。日本でも急速に成長していく摂理に対し弁護士らが共同声明を発表。警戒は続いている。
本紙(異端・カルト110番)は摂理の最新の動きを確認することができた。摂理の最高幹部だったキム・ギョンチョン氏に取材を試みた。キム氏によれば「鄭氏は出所後、非常に精力的に活動を続けており、性犯罪者用の電子足輪(警察が監視する)をつけているが、すでに脱会した女性から『出所後の鄭氏から性的接触を受けた』とする相談が寄せられはじめている。女性らは『本当だった(鄭氏からの性的接触)。驚いた』などと話しているが告発などは難しいかもしれない。鄭氏は月明洞(ウォルミョンドン)の私邸で暮らしているが、彼は堂々と自分を再臨主と話すようになった。聖子、主、キングと信者の前で語っている」と回答した。
2020年1月19日の摂理内部動画。鄭氏は「聖霊の歴史は仮想ではない。私はキングとしていつも言っているはずだよ」と信者に対して述べている。