正体を隠して学生をサークル活動などに誘い、信者へと偽装勧誘する韓国系新興宗教の被害が問題化している。中でも各地の大学が警戒を強めているのが、教祖・鄭明析(チョン・ミョンソク)総裁を再臨のメシアとするキリスト教福音宣教会(通称「摂理」)だ。その日本での被害実態に韓国の異端・カルト対策機関も注目し、専門メディア「現代宗教」が北九州カルト被害相談会代表の岩崎一宏氏に寄稿を依頼した。以下2023.10.18付「現代宗教」より転載(画像は異端・カルト110番向けに差し替えてあります)。

-日本における「摂理」の現状とその対策について-
岩崎一宏(北九州カルト被害相談会代表、
日本バプテスト連盟枝光キリスト教会牧師)

はじめに
20196月、筆者は韓国の摂理の聖地とされる月明洞(ウォルミョンドン)を訪れた。その際、案内をしてくれた日本人の摂理メンバーは、誇らしげにこう述べた。「ここで3月に大規模な集会があり、世界中から20,000人を超える参加者が集まった。日本からも大学生を中心に多くの青年たちが参加した」と。その時は、周辺都市から月明洞までのアクセスの不便さや、所在地の町の規模からして、20,000という数字は誇張されたものだろうと思った。しかし、後に、それが316日に行われた「命の日 引き上げ記念日」集会のことで、実際には、23,000人以上の参加者があったことを知り、2018年の教祖出所後の「摂理」が想像以上に教勢を拡大していることに驚きを覚えた。

10年の刑期を終え2018年2月に出所した鄭明析総裁(キリスト教福音宣教会HPより)

日本における現状
教祖チョン・ミョンソク総裁が、2009年に強姦および準強姦の罪により、懲役10年の実刑判決を受けて投獄された事態は、日本摂理にも大きな衝撃を与え、教団を離脱する信者も多くいた。そんな中、ナンバー2のチョン・ジョウン氏(キム・ジソン)や教祖の実弟であるチョン・ポンソク氏など幹部らが、継続的に来日し、日本組織の結束と強化に努めると同時に、勧誘活動も活発化していった。その結果、教団の勢力は衰えるどころか、会員数は逮捕前の約2,000から、2019年には約4,800人に達し、現在では5000人を超える規模となっている。2019年と2020年には、世界70カ国に展開する摂理教会の中でも、日本摂理が宣教において最も優れた成績を収めたとして、教祖から特別に表彰を受けている。現在、日本には26教会と6支部があり、一部の教会は不動産や宗教法人格を取得するなど、着実に教勢を伸ばしている。

SNSの活用を促す「摂理」関係者が制作したとみられる動画がNHK「おはよう日本」でも報じられた

日本における成功の要因の一つは、2015年頃から始めたSNSを活用したネット宣教の実践である。キリスト教会を含む多くの宗教団体の活動がコロナ禍で停滞する中、日本摂理は「コロナはチャンス」として、SNSを介して出会いの場を広げ、不安を抱える学生たちに接触し、丁寧なケアによって関係を深めている。また2020年には教祖からの指示を受け、中高生を対象にしたプロジェクトを推進し、中高生の勧誘でも一定の成果をあげている。

もうひとつの成功要因として、国公立、私立を問わず、「エリート校」と称される学校の学生を対象にした勧誘に熱心に取り組んできたことが挙げられる。ある集会において、講師は「信仰は弱者だけが求めるものではない。教祖に従う者は皆エリートである。体も健康で学識も最高水準の人々が神を必要とする。健康で知識豊かな人々ほど、価値ある人生を求める」とエリート勧誘の意義を論じて、メンバーを鼓舞している。実際、日本摂理には、高学歴で有名大学の学生や卒業生、あるいは有名企業のエリート社員が多く在籍しており、彼らが広告塔としての役割を果たすことで、中高生を含む多くの学生を惹きつけている。

勧誘方法について
カルトによる勧誘は、キャンパスおよびその周辺での対面による勧誘や、偽装サークルを介した勧誘が主流であった。しかしながら、先述の通り、現在ではSNSを活用した勧誘が主流となっている。具体的な例では、「#春から〇〇大学(大学名)」というキーワードを用いて、入学前の合格者に接触するケースがある。在学生に向けたものとしては、ボランティア、自己啓発、留学、就活、SDGs関連などのイベントやオンラインサロンなどを企画し、新歓期に限らず年間を通じ、全学生を対象にした勧誘活動も展開している。また中高生に対しては、有名大学のメンバーによる受験勉強や大学生活の紹介、英会話講座などを提供する形で勧誘が行われている。他にも大学の教職員や研究者を講師とするセミナーを開催し、その権威を利用した勧誘のケースもある。こうした勧誘手法に関しては、教団内で情報共有や学習会が実施され、成功例の紹介なども行われている。大学側は、監視できない領域で展開される勧誘への対策について、たいへん苦慮している状況である。

新入生をターゲットに正体を明かさずサークル活動などに誘う偽装勧誘(NHK「おはよう日本」より)

九州・沖縄における現状と対策
これまで日本摂理は、その指導者やメンバーに関する自己の情報はもちろんのこと、礼拝や集会場所についても秘匿に努めており、その活動や勧誘の実態を把握することができなかった。しかし、最近では、その実態が少しずつ分かってきている。九州・沖縄地域には、4つの教会と1つの支部が存在していることが確認されているが、これらに所属するメンバーが在籍または卒業した学校は、19の大学(国立大学8校と私立大学11校)と、進学校として評価の高い2つの高校にまで及んでいる。さらに、バイブルスタディを受講する学生や勧誘の対象となっている学生が在籍する学校も、上記以外で9大学と6高校にも及んでいることが確認されている。現在、筆者はこれらの情報を元に、カルト問題に取り組む弁護士と連携し、被害が特に顕著な大学に対して摂理の実態と被害状況を知らせ、学生たちへの啓発と予防対策の必要性を訴える活動を展開している。摂理の活動が確認された大学を中心に、カルト情報共有MLが設けられ、情報の交換や相談を行う場として活用されている。

おわりに
韓国においては、教祖や幇助者とされる教団の幹部に対する裁判が続き、疑惑が次々と報道され、摂理に対する社会の関心も高まっているようである。しかし、日本国内においては、教祖らの裁判や組織の実態についての報道はほとんどないのが現状である。日本では昨年7月の安倍元首相銃撃事件以降、旧統一教会の実態が報道される中、大学や青年への正体を隠した勧誘活動もクローズアップされ、教育機関でも警戒が広がった。しかしながら、学生や青年層への勧誘については、旧統一教会よりも摂理の方が明らかに成功しているというのが現実である。教祖の犯罪は別として、旧統一教会と比べ、摂理の組織力も被害も大きくはないかもしれない。しかし、正体を隠した勧誘活動は明らかに違法行為であり、また組織ぐるみで教祖の犯罪を隠蔽するための情報操作が行われていることも重大な問題である。これらのことから、「摂理」が宗教を利用したカルト団体であることは明らかであり、このような反社会的な組織の行動について、教育機関に限らず、社会全体に対する啓発と注意喚起をしていきたい。