統一協会(現・世界平和統一家庭連合)が名誉を毀損されたとしてジャーナリストや弁護士に損害賠償を求めた一連の民事訴訟で、東京地方裁判所は312日にジャーナリスト有田芳生氏に対する訴えについて、13日に弁護士の紀藤正樹氏に対する訴えについて、いずれも棄却する判決を言い渡した。「名誉毀損」の対象は出演したテレビ番組でのコメントの内容で、テレビ局も被告。統一協会は、八代英耀弁護士、木村健太郎弁護士に対する同様の訴えでも敗訴しており、これで4連敗となった。紀藤氏も有田氏も、統一協会に訴えられた裁判をスラップ訴訟と受け止め、メディアに対し萎縮しないで報道を続けるよう促した。スラップ訴訟は、言論や運動を威圧して労力を消耗させ、沈黙させることを目的に提起する訴訟のこと。

判決後の報告集会で語ったジャーナリストたち。左から有田氏、鈴木エイト氏、青木理氏(「有田芳生さんと共に旧統一教会のスラップ訴訟を闘う会」ホームページより)

「霊感商法をやってきた反社会的集団」 真実相当性を実質判断

有田氏への訴訟は、有田氏が2022年8月19日、日本テレビの情報番組「スッキリ」に解説者として出演した際、統一協会との深い関係を断ち切れない萩生田光一衆議院議員を批判する文脈で、統一協会について「霊感商法をやってきた反社会的集団だってのは警察庁ももう認めている」と発言したことを名誉毀損だとして、有田氏と日本テレビに対して2200万円の損害賠償を求めたもの。判決で荒谷謙介裁判長はこの発言について、政治家が教団と関係を断つ方法を質問された有田氏が回答した一部分にすぎず「独立して視聴者の印象に残るものではない」として、真実相当性の判断には触れず名誉毀損に当たらないとの結論を示した。

被告・弁護団は、判決後に声明で「裁判所は統一教会から申請された証人を誰一人調べることなく、表現の自由、報道の自由・国民の知る権利を明快に擁護する判決を下した」と評価。また、判決は原告の訴えをすべて棄却したことから、声明は「被告の発言は名誉毀損にあたらないとの判断を示したものであり、本訴訟が典型的なスラップ訴訟であることが裏付けられた」とし、「本判決が、このような判断に至ったのは、有田発言は真実相当性があると判断したから故と、弁護団は考えている」との認識を示した。

印鑑販売会社員らの逮捕・検挙事例を証拠提出

本訴訟で被告・有田氏側は、警察庁が統一協会を「反社会的集団である」と認めている証拠として、令和4年8月2日付「旧統一教会関連の事件検挙について」と題する警察庁の文書を提出した。同文書では、平成21年から22年にかけて、「旧世界基督教統一神霊協会や、同団体と関連を有する会社が関わった事件について、同団体と密接な関係にある販売会社が行った特定商取引に関する法律違反の検挙事例として」福岡県警、警視庁、大阪府警、和歌山県警、大分県警が印鑑等の販売会社の社長・社員らを、顧客の不安を煽って威迫・困惑させた特定商取引法違反で逮捕した6件の事件を列挙している。

判決文および声明文は「有田芳生さんと共に旧統一教会のスラップ訴訟を闘う会」ホームページで公開されている。

判決時の報道についてはこちら

「統一協会は反社会的集団…」有田芳生氏の発言 名誉毀損を棄却

メディアは萎縮することなく果敢に事実報道を

一方、紀藤弁護士への訴訟は、2022年7月に放送された読売テレビの「情報ライブ ミヤネ屋」に出演した紀藤氏が、教団と分派組織の説明で「金がないから、信者に売春させた事件」などと述べたことについて、紀藤氏と読売テレビに対して2200万円の損害賠償を求めたもの。判決で堂薗幹一郎裁判長は、弁護士業務で相談者から受け取った資料などに基づき分派組織について発言したもので「真実と信じた相当の理由がある」と判断し、違法性はないとして請求を棄却した。

判決後の記者会見で紀藤氏は、裁判によりメディアに同氏の出演を控える動きがあったことに触れ、「果敢に臨まないと事実は掘り起こせない。萎縮することなく報道を続けてほしい」とメディアに要望した。

判決理由については「弁護士ドットコム」が詳報している。