キリスト教の異端と聞いてどれだけの人が意味を理解しているだろうか。
その言葉自体に抵抗感を抱く人も少なくない。一般で異端問題やカルト問題を理解し日頃から注意して生活する人はほぼ皆無だと思う。本紙はキリスト教異端とカルト情報をキリスト教界向けと一般読者にわかりやすく伝えるメディアだ。新しい企画として「何も知らない人」をメインに「異端って何だろう?カルトって何だろう?皆さんに聞きました」と題してインタビューし読者に紹介したいと思う。
記念すべき第1回は40代女性。クリスチャン(教会に通う)で教育関係の仕事をしている。本人曰く「異端」「カルト」にはほぼ無知だ。でも。被害者には会ったことがあるという。早速聞いてみた。
–異端と聞いてどんなイメージがありますか?
異端ですか。いや、その言葉自体よくわかりませんね。私の場合はクリスチャンだけど普段から異端という存在に何か気をつけていることはないです。自分たちと違う教えということはわかりますがピンと来ない。クリスチャンしか通用しない言葉だなと思うときがあります。だから異端とはなにか出来るだけわかりやすく説明が必要だと思います。一般的な視点で考えると異端だから問題というより、その教会や団体がなにか問題を起こしているから気を付けるべきだと考えると思うのです。
私の場合、初めて異端という言葉を知ったのは今から十数年前のことでした。電車の中でたまたま聖書を読んでいたとき隣の席に座っていたおばさんが「あら、あなた聖書読んでいるの?私はエホバの証人よ」と声をかけられました。エホバの証人ってなんだろうと思って通っている教会の牧師に相談したら「ああ、そこは異端ですね」と言われました。その時、はじめて異端という言葉を耳にしたと思います。実際その程度の認識です。
–では、カルトと聞いて何を思い浮かべますか?
そうですねえ。とにかく悪いイメージかな。昔、「元気ですか~!」という宗教団体がいましたよね?熱狂的でどこか世間とかけ離れている、そんな印象です。とても良い人たちで親切にしてくれる、けれども実際はそうじゃない。私の場合はオウム真理教ですかね。最初に思い浮かぶのは。
–統一協会って知っていますか?
はい。私の(笑)世代なら大抵の人は知っていると思います。昔ニュースで入信した芸能人が合同結婚式に参加するシーンを観ました。すごい人数の信者がいてショックでしたね。ああいうのは。それと壺を売る悪徳なイメージはあります。でも、どんな宗教団体なのか説明できるかと言われればできません。韓国系だということしかわかりません。
–カルト被害者に会ったことがあるそうですね?
あります。今まで3人くらいそういうケースに直面しました。これも偶然ですよ。みな友人です。一人は某教会で教会幹部が献金を不正に流用しているという話を聞かせてくれました。そんなことするんだと驚きました。そこは聖書の教えで信者を統制しようとしていたと話してくれました。もうひとりは韓国系の教会に通っていた女性です。この人の場合はカードローンを組まされ教祖のために捧げていたと話してくれました。そこで受けた心の傷の後遺症に苦しんでいてカウンセリングを受けていました。同僚は韓国系の教会信者と結婚したけど教祖への絶対服従を求められ、家庭より教会を優先しなければならなくなり離婚しています。
–離婚までしたんですか?
そうなんです。おそらくちゃんとしたキリスト教だと信じて結婚したんじゃないかな。結婚してしばらくしてカルト団体と分かったようですね。夫とそのカルトを大事にするか?家庭を壊すより子どもと自分の将来を大切にするか、選んだ結果なんでしょうね。可哀想に。
–被害に遭った友人の話をなぜ信用できたのでしょうか?
内容が具体的だったからです。実際に被害が目に見えるものもありました。それでも私にとって遠い世界の話に聞こえましたが。ここまでくれば素人でもまずいところだとわかります。そういうのをカルトというのでないですか?
私はヨーロッパの某国に留学経験があります。キリスト教とは無関係だった私に親しくなった現地の友人が「教会のパーティー来ない?」と誘ってくれたんです。すごく良い人だったしパーティーも楽しかった。結局、そこはカルトと無縁の教会でした。これって紙一重だと思うんです。同じように友達がほしくて相手を信頼して参加したらカルトだった人もいるわけですから。だからこそ、事前に少しでもカルトについて知ることは大事ですよね。
–当時はその友人を疑わなかった?
ええ。1ミリもそんなことを思いませんでした。今なら注意すると思います。でも一般的に異端やカルトに注意をしながら生活している人がどれだけいるのでしょうか。関連したニュースをみて「わぁ、これはカルトだわ」と思うくらいだと思います。
–やはり情報は必要だと思いますか?
もちろん必要です。最初が肝心だと思っています。危機意識がないのは誰も教えてくれないからだと思います。私の場合は某大学を卒業しています。入学式でパンフレットが配られ、そこには「統一協会の霊感商法に気を付けてください」と書かれていました。ビジュアルが重要だと思いました。壺を売りつけるイラストが恐くて、今も印象に残っています。ただ、どんな団体であるとか細かい情報までは読みませんでした。おそらく多くの学生はそんなものだと思います。必要な情報をしっかり伝える工夫が必要です。私は漫画が一番いいと思います。実例をわかりやすくまとめれば皆さん読むんじゃないかな。
–中学生になるお子さんがいるそうですが、自分の子どもがカルトに通ったらどうしますか?
どうしますか?・・・。うーん(少し悩む)。まずはネットで情報収集します。
–誰かに相談する前に?
ええ。夫や家族には相談すると思うけどまずは自分で調べますね。
–本人にどう伝えますか?
もちろん本人にはちゃんと言わないといけないと思います。「それ調べたけどちゃんとしたところじゃないんじゃない?」って。その次に私の場合はクリスチャンで教会に通っているので牧師に相談すると思います。うちの牧師は頼りになると思う。
–自分の子どもを救出したい?
当たり前ですよ。自分の子どもがカルトに入信したら普通そう思いませんか?親心としてはその教会に行って「返して下さい」と言いたくなります。
–弁護士に相談しますか?
お金がないので躊躇いますね。何十万も払うんじゃないかと思うと・・・。本当に困ったら考えるけど弁護士という概念はないかな。でも相談にのってもらえる専門窓口があれば頼りたいですね。
–弁護士の相談窓口はありますよ。
そうですか。もっと詳しく知りたいと思うでしょうね。実際に困っている人は。でも、そういった情報が普段から私たちの目にとまるように工夫してほしいですね。
–その過程(救出など)でカルト信者から嫌がらせを受けたらどうしますか?
警察に相談します。一般人はまずそう考えると思います。カルトと聞くと確かに嫌がらせしそうなイメージはありますね。
–異端・カルト110番を普段から読んでくださっているそうですがネット媒体の信ぴょう性についてどうお考えですか?
結局は、ネット情報はまだ信ぴょう性が低いという先入観があります。何が本当で何が間違いか素人には検討もつかないです。だから私が調べた情報源は本当に正しいかお墨付きがほしい。異端・カルト110番は誰が代表を務めていてどんな人たちが応援しているか一目で分かります。牧師から「ああ、この団体が賛同しているなら安心ですよ」と言ってもらえれば任せることができる。牧師だけではなく、有名な弁護士の名前もある。そういうところを見ますからね。他のサイトや相談先も同じではないでしょうか?
–異端・カルト110番を読んで印象に残ったこと、良いなと思ったことを教えてください。
まず、情報が豊富だと思いました。韓国の異端カルトがこんなに活動していることは知りませんでした。それとその宗教団体が周囲を巻き込んで問題が複雑になっていることもわかりました。リアルな被害体験は印象に残ります。牧師や教会関係者にとって神学的な間違いやカルトの教理を知る必要があるけど、普通の読者はそこに関心ないと思います。
–改善してほしい点、良くないと思うところあれば言ってください。
記事が長いと若者は読まないですね。自分の生活に直結する被害や問題点をもっと読めるようにしてほしいです。
–相談窓口は必要ですか?
ニュースサイトを読む人は牧師やクリスチャンだけとは限らないと思います。被害者やその家族が情報を必要として検索した場合に相談できる窓口があれば助かると思います。
–相談するのは不安がありませんか?
本当に切羽詰まったらそんな不安より少しでも早く助けてほしいと思うはずです。
–大学でのカルト注意喚起は必要だと思いますか?
私は教育関係の仕事をしている関係から「注意喚起」は絶対に必要だという立場です。学生たちはカルトに無関心です。そんなことに気をつけながら入学する子はほとんどいません。それに勧誘されても楽しければ通い続けるでしょう。多少大げさでもここが恐いよ、こんな危険が待っているよと実例を教えてあげたい。私は某大学に勤めていたとき、「カルトって知っていますか」(カルト問題キリスト教連絡会発行)という冊子が配られました。それを読んでこんなカルトが日本にもあるんだなと驚いたことを覚えています。もし、異端・カルト110番が大学に情報提供する場合は賛同団体の明瞭化と協賛する大学名が必要になると思います。そうすれば、大学生は詳しくわからなくても学生の家族は安心しますから。やはり、誰がどう応援しているのか?読者にわかるようでなければいけません。
–カルトに入信しない自信はありますか?
(笑)それはありませんね。何がカルトなのかいまだよくわかっていません。良い人で自分にとって必要な存在なら親しくするだろうし。もっと日本の社会が具体的に問題ある団体を取り上げてくれれば広く浸透するのでしょうけど。私の場合は教会に通うクリスチャンですが自分の教会だって間違えばカルトになる可能性はあると思います。職場も団体も同じです。問題があるという点では危険性はどこにでも秘められていると思います。それが正しい考えであるかはわかりませんが。
–カルトの何が問題なのだと思いますか?
先程、「なにがカルトなのかよくわかっていません」とお話ししました。もっと勉強しなければいけないと思っています。それでも信じるのは自由だからそれを止めることには限界があると思います。でも世間的に法律にふれたことをしていたり、特に性的虐待が行なわれているような団体は常識的に許せません。犯罪行為を強制的にやらされるとか人権侵害につながることはあってはならないと思う。私は友人にこうした被害を受けた人がいました。本当に聞いていて気の毒で可哀想でした。「教祖と寝る」とか、犯罪に加担させられたとか、もう論外でしょう。そこが問題点だと思います。
–カルト問題を知るために必要なことはなんだと思いますか?
マスコミがもっと取り上げてほしいですね。テレビの特集があればみな注目すると思います。
ネットの情報はどうしても半信半疑なところがあるからです。週刊誌も読む人は限られています。こんな被害を受けたという元信者の声を聞いてみたい。正直、キリスト教的に神学がどうであるかは被害者の立場で考えた時に必要がないことだと思います。それより、これはおかしいって誰の目からも感じる情報が必要ではないでしょうか。
異端・カルト110番も被害者目線で情報を発信するなら脱会者の証言をもっと載せてみてはどうでしょうか?それを一番読みたいです。
–証言を掲載する場合、具体的な情報は必要ですか?
必要だと思います。載せられないこともあると思いますが被害を受けた側が一番知りたいことは具体的な情報だと思います。私も調べるならそこかなと思います。
–牧師から教会の信徒に異端カルト情報を提供することは必要だと思いますか?
いろいろな立場や考えがあると思うので一概には言えません。でも、必要だと思います。ただ少し考えたのですが突然牧師から「この教会はカルトだ、異端だ」と話しがあったらむしろ違和感があると思います。なんで急に?とひいてしまいますよ。だから配布物で知らせるとか、教会のリーダーたちが率先して情報発信するとよいのではないでしょうか。
私の場合、たまたまカルト被害に遭った人が身近にいたので多少関心があるだけです。これを危機感というレベルまで周囲に浸透させるには相当な努力が必要だと思います。だからこそ、誰でもわかるかたちで工夫して情報発信してほしいと思いました。