柳本伸良(日本基督教団華陽教会牧師・カルト問題連絡会世話人・
中部教区「原理問題」対策委員会委員長)
もし、自分の教会や寺院へ「カルト団体から脱会したい」「脱会するか迷っている」「既に脱会しているけれど話を聞いてほしい」という人の相談が来たら、まずは、その人の話をよく聞いてください。
「カルト問題の相談なんて、どうしたらいいか分からない」という宗教者も多いと思いますが、最初から「脱会の意志がある人」「脱会を迷って相談に来た人」である場合、大きく分けて二つの不安を抱えています。
一つ目は、「脱会したいけど、穏便に脱会する方法が分からない」「所属していた団体から攻撃を受けたらどうしよう」という不安です。基本的に、内容証明郵便やメール、FAXなどで脱会する意志を伝えたら、それで終わりです。日付、宛名、差出人(脱会者)、脱会する意志表示を明記していれば十分です。
脱会の手続きに、それ以上必要なことはありません。組織から「お金を出さないと脱会できない」「直接本部へ説明に来ないと脱会できない」等の条件を出されても、守る必要はありません。
「契約書があるから訴えるぞ」「家まで行くぞ」など、恐怖を感じることを言われたら、その行為自体が違法である可能性が高いので、弁護士や警察に相談すれば大丈夫です。淡々と脱会できます。相談に来た人へ、そのことを伝えてあげてください。
「弁護士を雇うお金がない」という場合は、全国霊感商法対策弁護士連絡会や、その団体に関する被害対策弁護団などを紹介すれば、窓口でどうすればいいか教えてくれます。一人で弁護士や警察に相談する勇気のない人には、「一緒に相談しましょうか?」と付き添っていただけると助かります。
二つ目は、「脱会したら地獄に堕ちるのではないか?」「事故や事件に襲われたり、病気になったり、不幸が続くのではないか?」という不安です。カルト団体のメンバーは、多くの場合、「他の宗教や世の中は、間違った思想や欲望で溢れていて、正しい生き方ができるのは自分たちの組織の中だけだ」と刷り込まれています。
そのため、組織を離れて社会との接点が増えていけば、様々な欲望や悪に囚われ、多くの不幸に襲われて、死後も地獄を免れない……など、不安と恐怖を掻き立てられます。団体によっては、脱会した人が事故に遭ったり、病気になったり、家族へ不幸が及んだりした話を聞かせ、ここを離れたら恐ろしい目に遭うと繰り返します。
この刷り込みが、脱会しようとする人の心を蝕み、組織から離れようとした瞬間、心身の調子を崩し、災いや失敗に敏感になり、「やはり脱会したら不幸になってしまうのか」と思わされます。
しかし、脱会しようとして、心身の調子を崩したり、悪いことばかり目につくのは、そのように刷り込まれたコントロールの影響で、脱会して調子が崩れた後も、時間と共に回復し、後遺症から抜け出して、幸せに暮らしている人たちがたくさんいます。
相談に来た人へ、そのことを伝えてあげてください。最寄りの専門家と連携し、社会で暮らしている元脱会者の話を聞ける機会を設けることも大切です。
また、カルトから離れたいけれど、仲の良いメンバーや、お世話になった人たちとの関係を切りたくなくて、脱会をためらって相談に来る人もいます。そういう人には、カルト問題の専門家と連携して、話を聞いてあげてください。
相談者の中には、カルト団体で活動している間に、家族関係や友人関係が壊れてしまい、組織以外の居場所を失っている人が大勢います。そのような壊れた関係をどのように回復していくか、一緒に考えながら、脱会することで関係が壊れそうなメンバーとも、どのように向き合っていくか、考えを丁寧に整理することが必要です。
なお、カルトから脱会する人、脱会した直後の人へ、自分の教会の信者になるよう安易に勧めてはいけません。カルトから脱会した直後は、まだ「自分で選択する力」「自分で考える力」が回復しきっておらず、無意識に新たな依存先を求めてしまう傾向があるからです。
カルト団体の中では、「自分で考えて判断することは、間違った選択と不幸をもたらす」「組織のリーダーに報告・連絡・相談して、正しい選択をしなければ、悪いことばかりが起こる」と刷り込まれます。そのため、脱会した直後も「何をして良いか」「何をしちゃダメか」「何を選んだらいいか」など、一々誰かの指示を求めようとすることがあります。
そのような状態のまま、新たな教会や寺院へ行っても、依存先が変わるだけです。不健全な「支配ー非支配」の関係性に陥りやすいため、安易に他の宗教を勧めるのはよくありません。自分がどのようなコントロールを受けていたのか整理してから、自分が「行きたい」と思ったところへ行く……という回復プロセスを大事にさせましょう。
ようするに、「信仰生活を求めて他の宗教へ行くのは、カルトで受けてきたコントロールについて整理ができてから」「自分の居たところの問題とは何だったのか、自分で整理ができてから」ということです。相談を受けた宗教者は、特にこの点を大事にしましょう。
なお、「脱会後の心の整理」や「何が間違いで、何が正しい教えなのか、ちゃんと知りたい」という相談を受けた場合は、ぜひ、カルト問題の専門家と連携しながら、一緒に話を聞いてください。
カルト問題の相談を受けた宗教者は、専門家へ投げるのではなく、専門家と連携して話を聞くのが、誠実で真っ当な態度です。宗教者に求められる切実な問いに対し、ぜひ、一緒に向き合っていただけるようお願いします。