安倍元首相の銃撃事件以降、メディアでコメントしたジャーナリストや弁護士に対して、統一協会(現・世界平和統一家庭連合)やその関係者から名誉毀損で多額の損害賠償を求める訴訟が相次いでいる。その中で、ジャーナリストの鈴木エイト氏を相手どり、統一協会の信者が1100万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京高裁は826日、請求の1%である11万円の賠償を命じた一審判決を取り消し、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。

鈴木氏は「2023103日に提訴した際、会見の質疑応答で原告訴訟代理人は文科大臣による解散命令請求を牽制する意図があり提訴を急いだとの旨を答えている。後日、統一協会系のシンポジウムにおいても訴訟の目的を『鈴木エイトからメディアの仕事を取り上げること』と発言しており、私の言論封殺を目論んだSLAPP訴訟であることは明白だ」としている。

一審判決後に控訴の意向を話す鈴木エイト氏(1月31日、都内で)

この訴訟は、脱会を求める親族らに「拉致監禁された」と訴えた統一協会員の男性・後藤徹氏について、鈴木エイト氏が『やや日刊カルト新聞』に寄稿した記事や読売テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』に出演した際のコメントで「引きこもり生活(状態)」と表現したことを名誉毀損と訴えたもの。

鈴木氏は2013年に「やや日刊カルト新聞」に寄稿した記事で、後藤氏について「脱会説得に応じず、逆に氏族メシアとして家族を説き伏せるためにマンションに留まり、居直った末にニート化してただの引きこもりとなった男性信者が、役柄を転換拉致監禁に耐えきった英雄として統一協会内でスターダムにのしあがっただけの話だ」などと説明していた。

訴状では、2015年の同新聞記事で写真のキャプションに「信者内では有名な後藤徹氏も本紙主筆が声を掛けると手を挙げて応答。12年間に及ぶ引きこもり生活の末、裁判で2000万円をGETした後藤徹・拉致監禁強制改宗被害者の会会長」と書き、20228月の情報ライブ ミヤネ屋で「そうですね。裁判の過程でも、統一協会側が信者を大量動員して、もう傍聴席を埋め尽くしたっていうことがありました。そういうなんか異様な熱気に裁判所が流されたって点もありまして、この原告自体も、もうほぼ引きこもり状態の中、いつでも出ていけるような状態、自分より体格の劣るような母親と2人きりの時であっても全く出ていかなかったこともあって、外形的にはほぼ引きこもり状態なのではないかと思われるんですが、そういう訳でちょっとまあ全体的になんか変な感じの流れの裁判だったなと思いますね」とコメントした、「引きこもり」を名誉毀損と認容した。

背景には原告が、脱会説得を試みた親族とトラブルになり「長期間監禁された」と訴えた民事訴訟で、2015年に原告側の勝訴判決が確定していることがある。鈴木氏は、「『引きこもり』という言葉は自分の意思で留まっていた人という客観的な状態を示す言葉として用いたもの。様々な要因の結果として、就学や就労、交遊などの社会的参加を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭内にとどまり続けている状態を指す現象概念」「民事訴訟への論評を名誉毀損としたことは表現の自由を侵害する恐れがある」などとして控訴していた。控訴審で東京高裁の佐々木宗啓裁判長は、一審が認めた2か所の訴因の判断を取り消し、原告側の請求を全面的に棄却した。

統一協会とその関連団体関係者が、ジャーナリストや弁護士らを相手どって起こしたいわゆるSLAPP(嫌がらせ)訴訟8件中7件は、昨年まで統一協会側がすべて敗訴。今回の控訴審判決を受け、統一協会側の全敗記録が更新されたことになる。

鈴木エイト氏は、一審判決の判断は表現の自由の観点からも問題だとして、控訴審に専修大学の山田健太郎教授(言論法、ジャーナリズム論)の意見書を提出。ウェブサイト「鈴木エイトの調査報道ファイル」に全文を公開した。同意見書は以下の3点を軸に論じている。

  1. ジャーナリズム活動に伴う表現行為は、より高度な表現の自由の補償の対象である
  2. メディア環境の変容に伴い、一般人の読み方モデルの解釈は変わらざるを得ない
  3. 裁判を論じ報じる自由は、民主主義社会の維持発展にとって重要な要素である

「鈴木エイトの調査報道ファイル」はこちら

https://eitosuzuki.theletter.jp/posts/5b3be700-82d8-11f0-b50d-f1a4cca1efb8

お断り:「鈴木エイトの調査報道ファイル」では「統一教会」と表記されていた箇所を、本記事では「異端・カルト110番」の表記に合わせて「統一協会」としました。