統一協会(現・世界統一平和家庭連合)と政界の癒着に関する報道が相次いでいるが、統一協会の浸透工作は政界のみならずキリスト教界にも及んでいた。クリスチャン新聞に1980年代はじめに掲載された連載「異端と教会」で、その実態が明らかにされている。同連載は『ドキュメント異端』(いのちのことば社)として出版された。その一部を採録する。

元立教大学総長で安倍晋三氏の祖父・岸信介氏の特使や民社党の参議院議員も務めた松下正寿氏のインタビューでは、統一協会による浸透工作がキリスト教界・学術/教育界にどのように及んでいたかを明らかにした。『ドキュメント異端』の中に統一協会の関連組織である学術団体「世界平和教授アカデミー」が設立された経緯が書かれている。(以下引用)

世界平和教授アカデミーという組織がある。公称2000人の学者を会員に擁し、毎年、「世界平和国際会議」「学際研究会議」を開催、「科学の統一に関する国際会議」に参加者を派遣するほか、研究会やシンポジウムを開き、季刊誌『知識』等を発行している。現在、米国、英国、西独、韓国に同様の学会があるという。

この学術団体、実は統一教会と深い関係があるのだ。その最大の財源である国際文化財団は文鮮明が創立したもので統一教会の資金によって運営されており、久保木修巳統一教会会長が日本での会長を兼務している。東京麹町にある事務局の職員12人は、松下正寿同アカデミー会長(元立教大学総長)の話によれば、全員が統一教会員。事務局でも「全員ではないがだいたいそう」だという。このアカデミー創立の経緯を見ると、1970年代初頭、文鮮明の提唱によって「日韓教授親善セミナー」及び「科学の統一に関する国際会議」が開始されたことに端を発する。それが発展して組織化され、1974年、134人の学者が発起人となって正式に世界平和教授アカデミーとして発足したのである。

世界平和教授アカデミーの事務所が入っていた東京・麹町のビル

統一教会と密接な関連を持つ世界平和教授アカデミーの会長で、同じく市民大学講座学長でもある松下正寿氏は、元立教大学総長、祖父の代からの聖公会の会員である。現在(1981年当時)民社党顧問であり、1968年から一期、自民、民社推薦で参議院議員を務めたこともある。熱心な反共主義者で、統一教会の積極的な擁護者としても知られ、統一教会のしおり(入会案内)には「統一教会こそ、世界の進みつつある破滅から人類を救う、唯一の存在であると信じている」と、熱い推薦文を寄せている。キリスト教界に籍を置き、ミッション・スクールの総長まで務めた識者が、なぜ統一教会を支持するのか、松下氏にこの疑問をぶつけてみた。

――世界平和教授アカデミーの目的についてうかがいます。

「よく知らないんですがね……宗教と科学の統一ということを言ってますが、私の考えでは、政治経済と宗教が分かれているところに時代の危機があるんであって、それを宗教を基盤にして統一しようということです。」

――基盤になる宗教とは?

「基本的にはキリスト教ですが、メンバーの信仰はいろいろです。プロテスタントは結局西洋の宗教ですからねえ。それぞれの国はそれぞれの歴史。国土を持っているわけだから、もろもろの宗教の融和が必要です。クリスチャンだけがいばりくさる時期は、もう過ぎましたよ。そういう考え方が日本のキリスト教会不振の原因なんだ。」

イエス・キリスト以外に救いはないという福音を信じる聖書信仰からは、明らかにかけ離れていることがうかがえる。

統一教会との出会いについては「参議院議員の時、久保木さん(統一教会会長)から市民大学講座の学長を依頼されたのがきっかけで、キリスト教について思想が合ったので引き受けた」という。統一原理の教理について意見を求めると、「一応『原理講論』を読み、韓国で講義も受けましたがね。排他的でないという点では賛成だが原罪論などは明らかにおかしい。再臨論は理解できません。そもそもオーソドックスなキリスト教の再臨論自体、私は否定はしないが分からない。」

――統一教会の倫理性が社会問題になっていますが。

「ほとんどは誤解じゃないですか。私もあまり知らないし、気にもしません。」

――“アカデミーの会員は、統一教会について知っていますか。

 「中には統一教会とかかわると危ないと思って忌避する人もいますが、大部分は知らないでしょう。だいたい、そういうことには無関心な人が多いです。」

――統一協会はキリスト教だと思いますか。

 「思います。そういうことは非常に抽象的だから、思いたくなければそういう議論もたてられるでしょうが、私はクリスチャンだが、神道も仏教も排斥しない。同じことです。」

――教会にとって脅威になる、との声もありますが。

 「なった方がいいと思いますよ。今の教会のように排他的であるより、異端といわれるなら異端である方がいい。」

 最後に、アカデミーは統一教会のダミーでは、とたずねると、「大部分の金を出しているから、関係がないといえばウソになる。関係あるから結構なんで、金は出すが口は出さない。原理がどうかということは重要ではない。おかしいと思う人の心理状態の方がおかしい」ということだった。

しかし、次の一文を読めば、資金を出してまで学者を集める統一教会の謀略的意図は明白である。

「金はそういらないよ。多少の賞金をかけてみて、世界の学者達に、原理を研究して合格した人に対し授与すると宣伝してごらん。学者達は目を丸くしてビックリするよ。伝道のやり方はいくらでもあるんだね。この道を国家的運動まで展開せしめるには如何にするか。牧師の世界的基準をつくる。……その思想的基準に立って、世界の哲学者達に対し問題となるような基準を確立する。そのときに我々は実績をそえて世界的旋風を学界に起こすんだね。優秀なる学者達を前面に立たして、学会を中心として思想的体系を彼らに発表するようにさせれば、自然と問題になるんだね。……そこで文化的活動する。雑誌や新聞などを知識層を目的にどんどん出版する。そうすると、来るなと言っても自分からやって来るようになる」(『伝道ハンドブック・みことば編』*3233頁)*統一教会発行のハンドブックで「みことば」は文鮮明の言葉のこと。

 『ドキュメント異端』にはこのほか、青山学院、明治学院といったキリスト教主義大学に統一教会(原理研究会)がどのように浸透したかについて、それぞれの大学の教授や学生にインタビューした取材記事も載っている。分かったことは1970年代、左翼学生による学園紛争が激しくなる中で、「勝共(反共)」を掲げて左翼の学生運動に対抗した原理研究会を大学側が頼りにした、その中で学内活動の主導権を原理研究会が握っていったという構図だ。自らの利害のために統一協会関連団体と知りながら利用しようとして、逆に統一協会に利用される――政界と統一協会の癒着と同じ構図が、キリスト教主義大学を含む学術・教育の分野でも起こってきたのだ。