インタビュー「日本人とカルト問題(前編)」 エホバの証人に関する救出カウンセリング活動から事件化した国内カルト問題まで

日本で長年にわたってキリスト教のカルト問題を研究しているひとりの牧師がいる。ウィリアム・ウッド氏だ。ウッド氏は1956年、米国ウィスコンシン州に生まれテキサス州のクライストフォー・ザ・ネイションズを卒業後、1976年に宣教師として来日した。この間、エホバの証人(ものみの塔)に関する研究に取り組み実際に救済活動、カウンセリング、元信者のリハビリ等に精力的に取り組んできた。国内の専門家と協力して設立された「真理のみことば伝道協会」を通じて現在も多くの相談を受けているという。特にエホバの証人、モルモン教に精通し、自身の活動を通して体験した日本国内の教会事件にも関わった経験をもつ。

温厚で温かな人柄、丁寧に問題に対応していくウッド氏の救出カウンセリング活動には業界でも定評がある。今回、「日本人とカルト」というテーマからエホバの証人に関する問題と教会のカルト化についてわかりやすく語っていただいた。ウッド氏の活動紹介からインタビューした。

インタビュアー・異端カルト110番編集長 中橋祐貴

真理のみことば伝道協会代表、ウィリアム・ウッド氏

-エホバの証人に関する活動を始めたきっかけについて教えてください。

今から39年前、一人の女性のエホバの証人が我が家を訪ねてきました。彼らは伝道熱心で周辺の住宅を個別訪問していました。エホバの証人(非営利団体ペンシルベニア州ものみの塔聖書冊子協会)はアメリカ生まれの宗教です。私はアメリカ人なので知らないわけではありませんでした。でもアメリカで彼らを見たことはありませんでした。

彼らと個人的に話す機会は今までありませんでした。せっかくなので伝道のチャンスですから彼女を我が家に上げて話を聞くことにしました。最初は少し話す程度でした。次第にベテランの伝道師を連れてくるようになりました。私は宣教師なので聖書から「あなたは新しく生まれ変わった経験はありますか?」と質問してみました。するとこの伝道師は答えに息詰まり「調べてきます」と言って次はもっとベテランの伝道師を連れてくるようになりました。

何度も会ううちに、彼らがなにを信じているのか分かるようになりました。そして、エホバの証人はイエスを神と認めていないことがはっきりしたのです。信仰義認も否定し、信じるだけでは救われず「行い」「努力」が必要だと信じていることがわかったのです。彼らはキリスト教の救いのプロセスを完全否定しました。信じるだけでは救われないと断言しました。こうなると正統派の聖書信仰、福音とはだいぶ違うなと思いました。

これは大変だ、と私は非常に危機感を覚えたのです。真面目で一生懸命伝道しているけれど語るメッセージは聖書を否定する内容でした。宣教師の立場からもなんとか彼らに本当の教えを伝えたい、なんとかせずにはいられないと思うようになりました。この伝道師は「あなたに何を話しても理解してもらえない」と言って来なくなりました。こうしてアメリカから関係する書籍を取り寄せ勉強し、本格的に研究するようになりました。これがきっかけでした。

ーエホバの証人にとって救いは伝道から来るわけですか?

救いの必須条件は伝道と行いにあります。彼らが目指すゴールもこの努力にかかっていることになるからです。

ーモルモン教に関する研究もされたそうですね?

1980年の夏頃だったと思います。都内でモルモン教の宣教師がビラを配布していました。そこに「東京神殿一般公開」と書かれていました。公開日は一般人を招いて内覧できるというものでした。広尾駅近くにある神殿に行ってみました。モルモン教はエホバの証人と教理的に全く異なります。一言でいえば「誰でも努力次第で神になれる」という教えです。神になるために様々な戒めを守る、儀式を行う義務もあります。その中で特徴的な儀式は亡くなった先祖の身代わりにモルモン教徒がバプテスマ(洗礼)受けることです。

モルモン教の教えの特徴は救われずに死んだ先祖の身代わりにバプテスマを受ける「先祖救済」の教えです。モルモンの教えを知らずに死んだ魂はハデス(黄泉)で救われるチャンスを待っています。救いとは神になれることを意味します。その神になるためにはモルモン教の教えを信じなければなりません。聖書にはハデスに水がないと書かれています。死者はバプテスマを受けたくても水がないので受けられない。だから「あなた(モルモン教信者)」が代わりに地上で水のバプテスマを受けなさいという理論ですね。

このような出会いからエホバの証人だけではなく、モルモン教についても研究をはじめました。最初は私が所属する教会で警鐘活動をかねてセミナーを開きました。

ーエホバの証人、モルモン教の研究を始め、書籍を出されたそうですね?

はい。1981年、越谷(埼玉県)に引越しをして新たに開拓伝道を始めました。ここにもエホバの証人が訪問してきました。私は彼らから得た情報、研究内容を自費出版で本にまとめることにしました。当時は情報が本当に少なかった。こうした本は、クリスチャンだけではなくエホバの証人の方にも読んでもらいたかった。そういう内容にまとめました。

これが予想に反してかなり売れました。一年足らずで三千冊が完売して再販しました。するとこの本を読んだ現役のエホバの証人から相談を受けるようになりました。もちろんキリスト教界でも反響がありました。エホバの証人についてセミナーをしてほしいという依頼が全国から殺到したのです。ある時は毎週のように出かけました。北海道から沖縄まで回ったことを覚えています。15年くらいはひとりで活動に取り組みました。次第に被害者、その家族、現役の信者からも相談が入るようになりました。エホバの証人は圧倒的に女性(妻)が信者で夫が未信者のケースが多いです。

次第に同じ志をもつ専門家の牧師と出会い、2001年12月に真理のみことば伝道協会を設立しました。全国5カ所に支部(岡山、愛媛、大阪、神奈川、静岡)を設け、元カルト信者のカウンセリング、リハビリに取り組むようになりました。現在はこの窓口からたくさんの相談をいただいています。

こうして広がった救済活動を通して今日まで500人程のカルト被害者を助けることができました。実際にキリスト教の救いに導かれた人も大勢います。対象はさまざまです。エホバの証人が多いですが、モルモン教、統一教会、摂理(キリスト教福音宣教会)の被害者もいます。90年代はとても忙しかったです。

ー教会で起きるカルト問題にも取り組むようになった経緯を教えてください。

カルト問題に深く関るようになるとカルトの特徴が手に取るようにわかるようになります。
教理上の違い(異端)もありますが、カルト特有の体質、やり口はほぼ共通していることがわかるようになりました。セミナーで全国の教会に招かれた時にいくつかの場所で「あれ?」と感じることがあったからです。日本の教会でもカルト的体質があることに気付きました。私がいうカルト的体質とは、牧師、指導者が権威主義的であり、絶対的であることです。いわゆる教祖のもとでその命令に信者は従っているという意味です。

ー教会の考えや価値観の違いとカルトはまったく別問題でしょうか?

そうですね。それはカルト問題ではないです。

私は「教会がカルト化するとき」(いのちのことば社)という本を出しました。このような権威主義で苦しむ人を実際に目の当たりしたことがきっかけになったと思います。ところが、エホバの証人に関するセミナーは好評でしたが「教会」というワードに「カルト化」をつけた本を出すと急に教会から拒否されるようになりました。バッシングも受けたことがあります。これはアメリカの話ではなく、韓国でもなく、ここ日本の教会の反応でした。正直とても驚きました。一概には言えませんが、こうした問題は実はあるということを忘れてはいけないと思います。

ー様々なところから相談が入るようになったそうですね。

相談窓口にエホバの証人とは関係がない普通の教会に通う信者から相談が入るようになりました。教会から相談が来るケースもありました。相談の内容もさまざまです。なかには深刻な内容もありました。暴力、セクハラ被害、マインドコントロール・・・。決定的だったのは14年前に起きたに聖神中央教会事件(京都)でした。この教会の牧師だった韓国籍の金保(通称、永田保)は当時12歳だった少女(教会信者)に性的暴行を加えたとして逮捕されました。この事件が発覚する前からこの教会の問題について相談を受けていました。

 

……エホバの証人との出会いを通じてカルト問題に取り組んだウッド氏。国内の教会カルト問題に直面。手に汗握る緊迫した面会がはじまる。続きは後編へ

 

「カルト被害を感じる方、その家族、まずは気軽に相談してほしい」専用窓口から連絡ができる。WEBサイトも情報満載https://cult-sos.net/