全能神教会の公式サイト。チャット機能が充実しており訪問すると全能神側と対話できてしまう。IT宗教としても高い技術を誇っている。(赤字囲みは本紙で加工 全能神教会公式サイトより)

全能神(ぜんのうしん)という名前を聞いたことはあるだろうか。フェイスブックなどSNSを利用している人は一度や二度は耳にしたことがあるかもしれない。色鮮やかなイラスト、大勢の中国人が聖書を読む写真がふんだんに使われている。一目で中華系のキリスト教団体だとわかる。しかし、彼らの公式サイトには冒頭から「キリストは中国に出現された」と大きく紹介されている。終末論を利用する韓国異端は数多く存在するが、今度は中国人の再臨主が現れた。これが全能神教会の正体である。

中国に再臨した女キリスト楊向彬(ヤン・シャンビン)写真左と最高指導者「大祭司」こと趙維山(チョウ・ウェイシャン)二人はのちに夫婦となる。(写真提供:香港CGNER)

全能神教会とは

全能神の最高権力者で中国黒竜江省阿城市出身の趙維山が、1989年、全能神教会の前進である「永源教会」(※)を設立した。彼はウィットネス・リー(地方教会)の影響を強く受けた分派だったとされる。この教会が中国当局に摘発され、趙は河南省に逃亡。1993年頃に全能神教会の名称で本格的な活動をはじめた。趙は、中国の再臨したキリストを女性の楊向彬だと祭り上げ、この人物こそ「全能神=神」とした。趙は事実上の最高指導者として大祭司を名乗り、女性の幹部7人を「神の化身」「七霊」に仕立てた。一説によると楊は受験に失敗し精神状態が不安定だったという。重い精神疾患のある楊を利用し、趙は自分の意のままに彼女を操ったとされる。

※永源教会、もしくは根源教会・・・諸説あり

彼らは貧困層を中心に求心力を高めていった。聖書の終末論に特化した教えで「悪」は中国共産党であり、神側はわれわれ全能神だと教え、悪を打倒することが「終わりの日」の教えだと広めていった。急進的に広がりを見せたので当局が警戒。自称女キリストの楊と指導者の趙は2000年に日本へ逃亡したといわれている。2001年にアメリカへ政治亡命した(出典:韓国キリスト教異端相談所協会、キリスト教ポータルニュース)。信者数は300万人以上いると考えられている。世界各国で布教が行われ勢力は拡大中だ。中国政府からの人権侵害、弾圧を理由に難民申請をして入国し、布教活動を行なうのだ。

2012年に世界滅亡説を掲げて恐怖心を煽り、さらに信者数を増やしたと言われている。過激な思想や反社会(政府)組織と見なされ、中国内で1000人を超える信者が逮捕された。彼らは中国政府から邪教(カルト)と認定されている。2014年には山東省のマクドナルド店内で勧誘活動中の信者らが入信を拒んだ相手を集団で撲殺する事件が起きた。脱会を阻止する部隊も存在するといわれ、香港キリスト教メディアCGNERが詳細にわたり報じている。

全能神の公式フェイスブックページ。様々な国の言語で運営されている。中国をエデンの園に見立て女キリスト楊が統治するというストーリーだ。(公式フェイスブックより)

SNSを通じて友達申請を行う

全能神といえば教会に潜伏や引き抜き工作を行なう活動よりもSNSを通じてコンタクトを図る活動が表向きには目立つ。いわば“被害のない怪しい団体”と考えられていた。彼らは相手がクリスチャンだと分かると「私はクリスチャンです」等と名乗ってメッセージを送信し友達申請してくる。日本人名を名乗るがどこか不自然だ。実際は中国人が登録しているようだ。相手のタイムラインを見れば「全能神」だとすぐわかる。それでも知らずに申請を承認してしまうケースは後を絶たない。得体の知れない中華系宗教団体、「彼らは何を企んでいるのだろうか?」その程度の認識だった。

SNSの友達申請は、全能神の教えに誘導するきっかけ作りが目的

取材を通じて、彼らがなぜ友達申請を繰り返すのか、その目的がみえてきた。フェイスブックのメッセージ機能を通じた1対1のやり取りからそれがわかる。鈴木花子(仮名)と名乗る相手から「私はクリスチャンです」と突如メッセージが届く。なにげなく返信すると「聖書の部屋」や「全能神教会」のリンクが送られてきた。やはり媒体を通じて教えに引き込むことが目的だった。運営する媒体は数え切れない程ある。

全能神が運営するフェイスブックページ「聖書の部屋」。ツイッターも使い宣伝活動に力を入れている。(聖書の部屋 フェイスブックより)

全能神はすでに既成教会に深く浸透している。その被害はカトリック教会にまで及ぶ

このようにSNSで布教活動を行っていると思われていた全能神だがここ数年、国内の既成教会に信者を送り込み、自分たち側に引き抜く伝道活動が目立ち始めている。すでに隣国の韓国では全能神を警戒。主要教団は2013年(高神派)を皮切りに2018年(白石大神・合神派)まで異端、似非(カルト)として総会決議で規定している。韓国は2013年に本格的な活動が確認されたが、高神派は同年秋に「異端」規定を下した。異例の早さといえる。彼らの教えはどのようなものなのか。教理からみていこう。

 ポイント(1)独自のテキストを使う

全能神は聖書の他に独自のテキストを使い信者を教育する。彼らのテキスト(御言葉という)はステージごとに分けられ、初心者向けからはじまり、最後は教えの核心である「神の経営」を学ぶ。5、6ステージに分けられた講義の大半は神側に立つかサタン側に立つかの二元論だ。特に強調されるのは「神の経営」と称した救いの教えだ。彼らは「三つの段階の働き」が全人類をサタンの領域から救い出す唯一の方法だとする。様々なところで「三段階」「神とサタン」が出てくる。聖書の教えを全能神が独自に解釈し、より戒律的に正すというものだ。教理については後日詳しく報じる予定だ。

 ポイント(2)三位一体を明確に否定する。中国に再臨した女キリスト楊(ヤン)こそ全能神

キリスト教では創造主なる神(父)、救い主である子(イエス・キリスト)、聖霊を信じる三位一体を信仰することが正統派とされる。いわゆる教理上の異端か否かを判断する基準はここにある。全能神は再臨のキリストが女性の楊だと公に明かしている。韓国の異端(カルト)は教祖を再臨主と信仰しながら徹底して実態を隠すが、全能神は比較的オープンである。

全能神教会公式サイト(韓国版)。赤字部分にイエスの次に来られた方が女性だと解説している。(画像:異端問題専門誌・教会と信仰より)

韓国で1993年から続く異端専門誌「教会と信仰」(http://www.amennews.com)は全能神公式サイト(韓国語版)に掲載された終末の箱舟の教えから次の部分に注目している。

「今日、『神様の二番目に受肉した女性』という事実に直面し…」

「聖書の預言の根拠を探すなら私たちは当時のユダヤ、パリサイ人の錯誤をいとも簡単に再犯することにならないか?」

「まず、自分の見解を捨て全能なる神様の歴史と御言葉を考察しましょう。私たちは全能なる神様がまさに終末に言葉が肉となった神様だと発見することであり、また、神様は受肉した女性であることを悟ることです」

「神は終わりの時に必ず異邦の地、中国で歴史を作ります」

「神様の言葉が肉となってユダヤの地で使役をなさったのでユダヤ人の姿をとられました。そうすると神様が二番目に言葉が肉となって中国征服の使役をなさるのに疑いもなく神様は中国人の姿をとられたのです。これは理にかなったことです。二度目の再臨は外見が異なりますが全能なる神様と主イエスは一人の霊で来られたので肉体は何の関係もなく霊は一人であることを私たちは知らなければなりません」(全能神教会公式サイトより)

 

このようにイエスに代わって受肉した人物は女性であり、中国人だと教えているのだ。この教えは彼らの拠点となるアパート、マンションの一室で秘密裏に語られる。では、この教えをどう広めていくのか。国内の既成教会に潜入した全能神側の実態について解説する。

 非常に明るく魅力的な中国人女性が突然教会にやってくる

本紙は都内を中心に関東近郊、東北の教会から全能神の被害報告を受けた。その後、入念に取材を進め、彼らの潜入手口は組織的でパターン化していることが明らかになった。首都圏の拠点(アジト)、教会、ダミー財団の存在も確認できた。

全能神は2~3組のグループで既成教会に潜入してくる。ここでは彼らの手口をわかりやすく説明するために信者A(女性)、信者B(女性)、信者C(男性)で紹介する。Aは教会の礼拝に突然やってくる。年齢は50代くらい。中国籍である。性格は明るく社交的。第一印象はとても良い。Aはこの教会から信者を引き抜くために戦略的に送り込まれる。既成教会の牧師は「中国人のクリスチャンは珍しいな」と思う。一般的に中国でキリスト教信仰を持つことは容易でないことは知られているからだ。それでも教会にとって新来者は貴重な存在だ。温かく迎え入れてしまう。Aは社交的でコミュニケーション能力が高い。日本語も流暢に話す。すぐに周囲に打ち解けて親しくなる。「Aさんいい人だ」「Aさん優しいよね」こういった声が教会で広がり誰も警戒しない。

 Aの次はBが送り込まれる。監視役が訪れることもある

数週間後、Aの後に続くようにBが教会を訪ねる。AとBは全能神の信者で仲間だが互いに他人を装う。二人はまさか日本で中国人クリスチャンに出会えるとは思わなかったと喜び合う(ふりをする)。教会では新来者に簡単な自己紹介カードを書くことが多い。AとBは普段通う教会の欄に「家庭集会」「家庭教会」と書く。他の異端、カルトのように国内の大きな教会に入り込んでいる場合もあり有名な教会名を書いてくることもしばしばだ。BはAより日本語が下手であまり社交的ではない。AとBが潜入に成功するとCという男性が来る。彼も中国人だ。CはAとBが指導通りに活動しているか監視するためにだけ来る。周囲と交流せず礼拝に参加して帰っていく。

本紙が入手した全能神の内部用テキストの一つ

全能神が引き抜きたいクリスチャンとは?

全能神が必要とする日本人は女性の場合「真面目」「大人しい性格」で結婚して夫はクリスチャンではない人物を狙うことが多い。逆に男性の場合は20代後半から40代くらいまで。独身で経済力のある人物を狙うようだ。女性の場合は教会から外に誘い、言葉巧みに自分たちの教えの場に連れていく。ここで全能神の教理を学ぶことになる。一方、男性には交際を迫ったり、国際結婚したいと誘うこともある。出会い系サイトを介して男性を組織に引き込むケースもあるようだ。韓国ではこのような被害が多く上がっているという。

個人的にLINE、アドレス交換をする。そこから友人関係を築き全能神へ引き込む

ターゲットにされた人物はAと親しくなりLINE、アドレス交換して平日に出かけるようになる。本紙が取材したところAと日本人女性が二人だけで出かけたのに途中でBが合流してくることも分かった。「私たちはあなたと仲良くなりたい」そう言って3人で行動することが増えていく。こうして付き合いが深まるとAの口から中国政府を批判する言葉を聞くようになる。「クリスチャンに対する迫害が酷い」「宗教弾圧で迫害されているクリスチャンが大勢いる」。彼らは中国政府(共産党)が悪魔だと信じているためだ。この悪魔と戦い中国に再臨のキリスト(楊)を中心とした新国家を建設することがゴールである。

 日本人女性が自分の悩みを相談するとAは親身になって話を聞く。相手の心をつかんだ頃に「私たちはもっと聖書を知りたくて勉強しています」「一緒に勉強会に出ませんか?」と誘い始めるのだ。なかには「今行っている教会の説教は物足りなくないか」「無駄に話が長いと思う」とさりげなく批判する。これは全能神側の教理に引き込む誘い文句である。すっかり心を許し、Aさんのようになりたいと思って誘いを受けてしまう。この時点で「再臨の学び」「終わりの学び」を強調してくることもわかった。不審に思い牧師に相談する人は全能神と手を切れるが、大抵の場合、深みにはまってしまうという。

 国内の日本人信者数はまだ実態を掴めていない。一説には全能神の教理を叩き込んで信者にしてから元の教会に戻すこともあるという。目的遂行のために完成された信者を忍び込ませておく計画だろうか。また、彼らのテキストはよく作られており、日本人信者が製作に携わっている可能性が高い。

 全能神は中国人信者の自宅アパート、マンションを拠点として聖書勉強会を開く

クリスチャンを誘うと全能神の中国人信者の自宅に連れて行き、そこで時間をかけて勉強会を行なう。案内するときもAはわざと道を間違え遠回りする。全能神の被害に遭った日本人Gさんは「同じ道をぐるぐるまわった」と証言している。場所を特定させないためだろか。路地裏のアパートに連れて行かれる。部屋の中には5~6人の中国人が待機している。牧師と称する男性とその通訳者。もちろん全員、全能神の信者だ。この一人のために計画的に集ったにすぎない。祈りに始まり、すぐに神の経営(救い)を学び始める。Aから奇跡体験(癒やし、経済的な祝福)が語られ、「中国で全能神によって貧しい農民が救われた」「悪魔である中国政府から守られた」と話を聞かされる。最終的に全能神がすべてであり悪魔(中国政府)と戦い、地上の天国を中国に完成させる話へ誘導する。ターゲットの多くは既成教会のクリスチャンであることから、経営(救い)の見直しを迫られるのだ。他の異端同様に聞いたことを話してはならないと指導される。

 全能神は単なる既成教会乗っ取りの集団なのか?

この団体に入信すると深刻な家庭崩壊がはじまると、香港有力紙「大公網」がその実態を報じている。大公網は香港CGNERの事務局長ケビン・ヤン氏が膨大なデーターから分析した全能神被害を詳しく報じている。入信すると信者となった妻は夫を欺き、組織に没頭。平日の昼夜問わず彼らの集会に参加するようになるという。組織は未信者の夫と離婚を迫り、離婚させると組織側で再婚させるのだ。子ども、夫は深く傷つく。

韓国の異端専門誌「教会と信仰」によれば「信者を一人引き抜くたびに報酬が与えられる。信者獲得のために金品、愛(肉体関係)で相手を惹きつけ関係を断ち切れなくさせる」(2017年10月29日号)。「彼らの手口は新天地によく似ている」(韓国キリスト教異端相談所協会)という。彼らは社団法人を立ち上げ、中国の人権問題を取り上げる各種イベントを装い全能神側に勧誘を続けている。

本紙は取材の過程で全能神信者と対面したが、全能神であることを否定し平然と嘘をついた。また、全能神だと言い逃れできなくなると「宗教の自由は保障されている」「迫害だ」と語気を強め反論してきた。特に韓国の全能神は既成教会の各社メディアをブログで批判している。自分たちに反するものを「悪」に見立てて攻撃する手口はどこも同じかもしれない。中国では入信を拒んだ相手を撲殺した事件も起きている。組織のために暴力行為も容認されている。その実態を知らず、入信することは極めて危険だと韓国キリスト教メディアは警告する。

日本の教会は異端、カルトに無防備である

規模の大きな教会の場合、複数の異端(カルト)が入り込んでいるケースもあるようだ。牧師は最低限の情報を得ておく必要があるだろう。もちろん異端・カルトを擁護するのは論外だ。また入り込んだ場合、冷静に情報収集しプロに相談をして対応を求めることが先決となる。彼らは我々よりはるかに賢く徹底敵に教育されている。その点を踏まえ日頃から備えが大切だ。

「宗教と人権について考える会」(ASRHR)の所在地は埼玉県川口市と公式サイト上で紹介されている。全能神の活動を広めるためのダミー財団だ。写真の建物には全能神教会・東川教会と書かれている。実際の本部は東京都文京区にある。(Googleマップより)

彼らは建物としての教会を持たないと考えられていたが、国内では埼玉県川口市に全能神教会が実在していた。文京区には「一般社団法人宗教と人権を考える会」という彼らのダミー財団がある。この財団も全能神側が運営している。このように中国からの人権侵害、宗教弾圧により被害を受けている宗教難民を装い組織拡大を図っているのだ。

全能神教会が運営している「宗教と人権について考える会」の公式サイト。突然動画が配信されるので音量に注意が必要だ。(公式サイトより)

全能神は確実に勢力を拡大している。教会は新来者の中国人自称クリスチャンに対して警戒する必要がある。ただ注意しなければ判断を誤り、差別に発展することもある。まずは冷静に対応したい。

韓国の異端問題の専門家は次のように警告している。「全能神は韓国の新天地以上に勢力を広げる異端であり犯罪集団だ」とし、「入信して被る家庭と社会の被害、混乱は言葉では表せないほどだ。彼らの核心的教えを受け入れなければ報復行為に及ぶこともある」。今まで見過ごされていた全能神教会の動きに注意していく必要があるだろう。